うれゐや

/ / / / / /

【献上品・企画参加】 | ナノ




【万事屋の子どもたちと万事屋の新造】


「トシちゃん!」
「チャイナ?」

新八と神楽は、午前中の依頼を済ませたあと、半信半疑ながら武装警察の屯所までやってきていた。
そこへまるで図ったかのように門をくぐる土方その人と出くわし、驚いた。

恐らく、土方は非番の日に着る着流し姿で、大きな荷物を抱えているからまず間違いなく休みがとれたのだろう。

「あ!トシ!間に合った!」
局長である近藤勲がそれを追って出てくる。

「何かあったのか?」
「いや、今のところ何もないさ。悪かったなと新婚早々帰してやれなくてって」
「止めてくれ…」
屈託ない口調に、うんざりと土方は肩を落とす。

「けど、他の奴先に休ませちまったからトシの非番がのびのびになっちまってたんだろ?銀時は何も言わねぇだろうが、ありゃ天邪鬼なだけだからよ」

近藤に、にかりと笑いかけられ、新八と神楽も顔を見合わせ笑う。

「近藤さん…アンタか?今日から非番なの伝えてたのは…」
「違う違う!あれ?トシ自分で帰るコールしたんじゃないのか?」
「誰がするか…」
「あれ?総悟は武州に行かせてるし…」
じゃあ…誰だと土方と近藤の目が二人に向くが、答えようがない。
「羨ましいなぁ!トシ!これが愛のチカラって奴か?いつか俺もお妙さんと…」
「「ハイハイ」」
豪快に笑いながら、背をバンバンと叩かれ、土方は微妙な顔をしていることに気がつく。

「銀時によろしくな」

大きな風呂敷を押し付けられ、もらいものだけど持って帰れとまた背を押される。

自分の荷物と土産を抱えて、真選組の門前から三人は我が家に向かって歩き出したのだ。



「土方さん」
土手沿いに春の並木を愛でながら歩いていた新八は穏やかに紫煙をたなびかせながら歩く男に呼び掛けた。

銀時とそれほど体格は変わらない。
所作からも、顔つきからも、女性らしさは感じられない。
けれど、結野アナの大ファンだといって騒いでいた銀時が、
下ネタとはいえ女好きを口に出した憚らなかった銀時が思いを寄せるだけの『特有の』美しさはそこに観止める。
男同士だとか気にはやはりならなかった。

「あんだ?」

新八から見ても紙煙草を口端に咥え振り返る男は格好が良い。
女性は放っておかないだろう。
マヨネーズの大量摂取が問題だと言われればそれまでだが、その問題に目を瞑ってでも土方と添いたい女性はあまたなのでないかとおもう。

「土方さんは何で銀さんのプロポーズ、受けたんですか?」

ひくりと整った頬が引きつったのが分ったが、今まで聞こう聞こうと思って日伸ばしにしていた事柄だから、引く気はなかった。
こんなことは銀時がいる前では到底聞くことはできない。

少し前を定春とじゃれ合いながら進む神楽が話しに入れば聞けるべき言葉も聞きのがしてしまいそうだった。

だから、新八には今しか機会がないのではないかと判断したのだ。

土方は一度煙を大きく肺に吸い込んで、春の空へと大きく吐出し、
逆に尋ね返す。

「…なんだ、その…志村、テメーは反対だったか?もしかして…」
「いえ、そんなことはないです!全然」
ぶんぶんと首を横に振って否定し、そういう意味ではないのだともう一度言い換えた。

「そうじゃなくて、土方さんみたいなヒトがなんであんなマダオなのかと」
「あぁ、それか…」

少し安心したように微かに口端が上がってほっとする。

鬼の副長とは呼ばれる土方のことを新八も最初は近寄りがたい人間だと思っていた。
しかし、銀時同様度重なるトラブルや腐れ縁を紡いでいくうちにそれも薄れてはきた。

根底が似ているのだ。
銀時と土方は。

だからかもしれない。
気だるそうにやる気なさげを装いながら、周囲をいつも気遣う銀時と、
鋭い気を周りに放ち、矢面に立ちながら、周囲を護る土方と。

己のことは最後にする二人はよく似ている。
そう新八は思う。

今だって、口調はともかく、目元はやさしい。

「確かにアイツは、マダオでニートで、ちっとぐれぇのことじゃ煌めかねぇ死んだ魚みたいな目してやがるし、糖尿病予備軍だし、もう救いようのない天然パーマだし、実はモテるくせにモテねぇモテねぇ騒ぎまわって、挙げ句に助けた女ごっそりひっかけてきやがる隠れた女たらしだし、足は臭ぇし、加齢臭するし…」
いくらでもマイナス点は尽きないとばかりにいい連ねる土方に幾分かムッとしつつ、反論もできない事実ばかりに、口をへの字に結ぶしかない。
その様子を見て、また土方は口角を少しあげた。

「今、そこまで言わなくても…って思ったろ?」
「え?まぁ…ハイ…銀さんはそれでも…」

新八の反応をわかっていての発言だったらしく、言葉に詰まる。

「まぁ、俺も似たようなもんってことだ…あの馬鹿を一言で語れるもんでもねぇ」
急に思い出したのか、少し先を歩いていた少女が戻ってくる。

「トシちゃん!夕食はすき焼きでいいアルカ?肉肉肉!」
「近藤さんが持たせてくれたの白菜と葱だから、ちょうど良かった。肝心な肉、買って帰らねぇとな」
「定春!スーパー寄るアル!」

また、くるりと傘を回し、走り出す神楽を目を細めて微かに土方が笑う。
「おい!チャイナ!」

遠くで豆腐屋のラッパの音が聞こえ、土方は少女を呼び止める。

「先に豆腐二丁」
「了解ネ!」
袂から小銭を取りだし、手渡すと弾丸のように走り出した。

土方は新しい煙草に火をつける。

「たぶんな。そんなに難しいこと考えちゃいねぇ。
 俺もアイツも根っこの部分てのは複雑にできてねぇからな…
 明日の話を、天気の話でも何でもいい、そんなもんがしたくなっただけなんだろう」
「明日の話?」

新八には分らなかったが、煙草とはそんなに美味しい物なのだろうかと思ってしまうほど、満足げに土方の薄い唇から細く細く煙が花曇りの空へと吐き出される。

土方はゆるく首を振り、例えがわかりにくいかと言葉を変えてくれた。

「護りてぇもんが俺らにはそれぞれあるから、付かず離れず、表に出さねぇ関係で
 十分だと思ってたんだが…俺もアイツも。
 それを超えてクソ天パが思い切ったのは、去年俺がしくじっちまった時のことが
 堪えたからだろう。それで、あの馬鹿、あんな往来で博打仕掛けてきやがって」

土方は要人の警護中、大けがを負って数か月の入院をしたことがあった。
今思えば、あの時期銀時がやたらと街中で何かを探していたような気もしないではない。
あれは、土方を探していたのだ。
退院し、無事に歩き回る土方の姿を。

公にしていない関係。
だから、何か起こっても銀時の元に真選組から連絡が入ることはない。
明日ともしれない立場だから、安否の連絡も、次の約束等したことがなかったのかもしれないと新八は突如理解した。

「土方さん…じゃあ、銀さんの挑発にわざと乗ったんですか?」
「あれで小心者だからな」
否定も肯定もしなかったが、そういうことなのだと空に登り続ける煙を目で追う。


銀時は突発的にあんなかぶき町のど真ん中でプロポーズしたわけではなかった。
いつもの軽口、意地の張り合いに見せつつ、土方の答如何で嘘にも真にもできるように誘導し、土方はその意図を汲んだ上で条件を出した。

二人の仲をお互いの『護りたい者』の中にも浸透させられるか否かという試用期間も生み出すために。

打ち合わせ無しの銀時と土方の即興劇。


「土方さんが」

ん?と小首を傾げて見られて少し緊張したが少年は丹田に力を入れた。

「土方さんが万事屋に来てくれて嬉しいです」

話には加わっていなかったが、ビニールにいれてもらった豆腐を振り回しながら戻ってくる神楽も同じだろう。

「僕も、神楽ちゃんも」
土方はパチパチと大きく数度瞬きをし、口に挟んでいた煙草を抜き取った。
そうして、ふわりと笑い、小さく「俺もだ」と呟いた。



『明日の天気 弐』 了





(77/212)
前へ* 【献上品・企画参加】目次 #次へ
栞を挟む
×
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -