うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

V




side銀八



「十四郎!一目惚れしました!付き合ってください!」

「へ?」

空気が凍りついた。
正確には銀八と土方が凍りついただけで、当の本人は尻尾を全力で振る大型犬の如く、笑顔全開なのであるが。



「あら、末に一番持っていかれた感じ?これ?」

場を動かしたのは待ちくたびれたのか、様子を見にきた金時の声だった。
だが、その言葉にも不振要素満載で頭を抱えて座り込みたい衝動にかられる。

「ほら、おこしゃまじゃあトシくんのお相手は無理だって」

するりと土方の腰を引き寄せ、後ろから抱きすくめてしまうと、
金時は耳朶にわざと音をたててキスをした。

「「ききき金時」さん」
「うわ!真っ赤。トシくん可愛い!その辺のモデルとかじゃ太刀打ちできないね。
 さっきまでクールビューティっていうか、カッコいい系だったのに。
 ねぇ、もっと色んなトシくん俺に見せてほしいな…」
「そ、そこで喋んな…」
真っ赤な顔をして、身を捩る土方が可愛くない筈はない。
自分が後ろからしゃべっている時は、朱い耳は見えるが表情までは確認できない。

「あ、耳感じちゃうんだ?」
「やめ…」
「触るな!腐れホストがっ!」
慌てて、銀八は金時の腕から土方を引き剥がす。

(耳…であんな顔しちゃうんだ…あの子…勿体ね…今度鏡プレ・・・)

一瞬遅れたのは、土方の耳に囁かれて目もとを紅くした顔に、ひどく嗜虐めいた感情を煽らたからなのだか、そこは今は見ないふりをする。

「土方、お茶、運んで。ほら!紹介すっから居間に移るぞ!」
湯飲みにやや濃くなりすぎた茶を、あわてて注ぎ盆を持たせ、押しやるように台所を出たのだ。






side土方



改めて、坂田家と土方は居間のソファに並んで座った。


座る位置について、若干揉めなくもなかったが、何とか土方の隣には銀八が座ってくれたことにホっとする。

ローボードを挟んで向かい合わせに座る坂田弟たちと銀八を見比べる。

同じ顔。
同じ顔だけれども、当たり前の事ながら個性は明確に出ていた。

「なんか、紹介…ってのも、今更なのか?」

「でもないかな…トシくんって無口だから、あんまり話せてないよ」
土方を早速『トシくん』と呼び始めたのは三男の金時だ。
跳ねた髪は同じだが、豪奢な金色が思わずライオンをイメージさせる。
派手な外見と口のうまさを活かしてか、かぶき町でナンバー1ホストらしい。
過剰なスキンシップと誉め言葉は職業柄なのだろう。

話しやすくはあるが、どこまで本気にしてよいのかわからない人だと思った。


「そうだな。名前と年齢、銀八とのお付きあい期間、部活は剣道部、この春から真選大の法学部、将来の夢は検事…」
つらつらと既に聞き出したらしい情報を淀りなく語る銀時は弁護士だそうだ。

銀八と2つしか年は違わないのに、個人事務所を構えているそうだから、胡散臭い格好とは裏腹にかなりのやり手だと推測できる。

セルフレームの奥で細められる紅みがかった目には銀八同様に暖かさが隠されている気がする。
また、司法の道に進むつもりの土方にとって、いずれ聞いてみたいことが山積みになりそうな人物だった。


「わかったわかった…まぁ、事前に話していた通り、
 俺はこの土方十四郎くんと暮らすことにしました。
 まぁ、言いたいことは色々あるとは思いますが、
 土方くんを嫁に貰うつもりでいますんで、よろしくしてやって下さい」
長々と続きそうな銀時の話を長兄が割り込み、本題に軌道修正を試みる。


「なぁ、提案〜!」
「はい、却下!」
教室で発言するかのように手を挙げたのは四男の銀だった。

銀はどうやら土方と同じ年らしい。
甘いもの好きが高じて、製菓専門学校に春から通うことになっていると、居間に移動中、聞いてもいないのに喋っていた。
銀八も高校くらいの時はこんな感じだったのだろうかと、土方の知らない銀八の若い頃を思い少し胸が痛い。

生まれてからの年月の数。
追いつきようのない年齢差、経験値の違いにいつも置いていかれた気持ちになるからだ。

銀を見ていると、益々その気持ちが沸き上がって、苦しくなる。
もしも、高校生の銀八に出会っていたならば。
考えたところで『もしも』は起こらないのだけれども。


そして、迂回のない真っ直ぐな銀の言葉は土方に真っ直ぐに届く。
感情の読みにくい銀八にはないものだ。

「引っ越さなくて、十四郎がここに住んだらいいじゃん」

今も銀八に却下されてもめげずに言葉を向けてきていた。

「「は?」」
驚いたのは銀八と土方だけだ。

「お!珍しく空の頭が働いてるじゃねぇの。それいいな。空いてる部屋あるんだし」
「だろだろ?十四郎口説くチャンス増えるし、どう、十四郎?」
三男と四男はきゃきゃっという効果音をたてそうなはしゃぎっぷりで意気投合している。

急に沸き起こった提案についていけず返答できない。
そう言えば、さっきも一目惚れだとか口説くだとか、可愛いだとか、自分に乗り換えろ的な発言をこの二人は繰り返してはいなかっただろうかと、また混乱し、横を見れば、銀八も唖然とした様子だった。

唯一、落ち着いた様子で『糖』と書かれた扇子で手遊びしている銀時に視線を送る。

「まぁ、土方くん。考えようによっては悪い話ではないかと思いますよ」
銀時は反対とも、賛成とも口にはしない。

「そう…ですか?」
「えぇ、この家は両親から引き継いだもので借家ではありませんから、
 家賃は不要ですし、大学からも適度な距離だ。
 いきなり、まだ付き合って間もない年上の恋人と二人というのは、その…
 お互いのことを十分理解できているとは限りません。
 行き違った時に、喧嘩をした時に困りませんか?
 頭を冷やすにも話を聞いてもらうにしても別れるにしても…
 男性同士というリスクもありますから、どこでも発散できる話ではないでしょう?」
「それは…」
別れる時のことを、もちろん考えたくはないが、喧嘩はないとは言い切れない。

これまでも、よくお互い意地を張り合ったり、銀八の気持ちが分らず喧嘩をしてやりきれなくなったことは少なからずあったからだ。
銀時のいうように、二人の仲の事を相談する相手がいるというのは心強い。


「それに、これはあくまで私の個人的な感情ですが、
 ここに来て下されば私も嬉しいです。
 土方くんの力になれる機会が増えるということですからね。
 司法の道の先輩としても、一人の男としても」
「銀時さん…」

銀時の指摘するように、これまで第三者に相談などできなかった。
銀八とのことは、幼馴染の沖田辺りは早々に気が付いて揄うネタにしてきたが、『相談』相手に向いているとはいえない。
近藤や他の仲間たちにも、相談するには気が引ける事柄だった。

だから、銀八とのことは銀八本人としか話すしか解決法を今まで持っていなかった。
素直に、(実際にするかどうかは別としても)相談できる相手がいるという保険のような存在が出来たことは有難いし、嬉しかった。


「ストップストップ!」
その感慨を打ち破ったのは他でもない恋人だ。

「先生?」
「丸め込まれるな!土方!いいか!今のよく聞いてたか?」
「はい?」
「今、こいつ!俺とオメーが喧嘩すること!
 別れすること!前提に話してただろうが!ついでに自分の良い人アピールしたよ!」
「いや、そこまで深読みしなくても…」
思いがけない銀八の強い言葉に驚かされた。

「そうですよ。銀八」
口もとを扇子で隠しながらにこやかに銀時が笑う。

「あなた、言いましたよね?『土方くんを嫁に貰うつもりで』?
 では、今の日本の法律では同性婚が認められていませんから、籍を入れようとするならば、養子縁組しかありません。年齢的に銀八が父、土方君が子という形でね」
「それがどうしたよ?直ぐにじゃねぇけど、そのつもりだ」
「と、言うことはですよ!土方くんは私たちの可愛い甥っ子です!家族です!
 なら最初から一緒に暮らしても何の問題もない!」
弁護士は閉じた扇子で銀八の胸を指し、きっぱりと言い切る。

「いや、下心丸出しだよ。銀兄…」
「まぁ、俺たちにもトシくんの寝込み襲うチャンスが増えるのは良い事だから、だまってろ銀」
「りょーかい」
銀色の後ろでこそこそと金と銀の頭を寄せて行われる不穏な会話にも銀八は声を上げた。

「そこ!聞こえんてんぞ!」

「トシくん。俺もトシくん来てくれると嬉しいな。ほら俺仕事がこんなんだから、生活時間違うし、トシくんに会えないじゃん?同じ屋根の下にいれば、顔だけでも毎日見ることが出来るってことだし。ね?ダメかな?」
「俺も俺も!学校、ここから通う予定だし!料理得意だから好きなモン作ってやるよ!」

「あの…いや…」
どうするべきか正直な所、迷った。
銀時のいうように、相談できる場所があるというのは心強い。
金時や銀もいれば、毎日賑やかに過ごせると思う。
銀八の昔話も聞かせてもらえるかもしれない。
何より、『銀八』の家族だ。

(でも)

銀八を見る。

この人とずっと一緒にいたいと思った。
同棲することで、家計的に頼ろうと思ったわけではないし、
銀八のお荷物になる気はない。
学費もバイトと奨学金でなんとかするつもりだった。


「いい加減にしろよ!オメーら!言っとくけどな!これだけは!
 土方は俺の恋人なの!パートナーなの!オメーらにやるつもりはこれっぽっちも!
 天パの毛先ほどもアリまっっせんんん」

わらわらとローテーブルをずらし、銀八を押しのけて詰め寄っていた兄弟から護るかのように土方を抱き寄せて、とうとう銀八がこれ以上まで聞いたことのない
賑やかな3Zのメンバーを怒鳴りつける時よりも大きな声で叫んだ。




『be well off V 』 了






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