うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

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side土方



「パートナー…」

思わず復唱する。

庇護する対象ではない。
同列と認められた気が初めてした。


「銀八…」
「ん?」
自分を護るかのように抱え込んでいた腕を押して、身体を離す。

「俺、邪魔じゃねぇ?」
「あ?馬鹿いうんじゃねぇよ。
邪魔とか面倒とかだったら、最初から一緒に住もうとかいいません」
「そうだよな…」

そういう人だ。
普段はのらりくらりとした風を装ってはいるが、そういう人だ。

姿勢をただし、三人に向かう。

「銀時さん、何かあった時は相談に来ていいですか?」

その言葉に、開いていた扇子をぱちんと銀時は一度閉じて土方を見つめてきた。

「…勿論。いつでも。離婚訴訟も私は得意だよ」
だから、いつでも待っているよとやはり胡散臭い顔で笑われたが、目元はやさしかった。


「金時さん、また今度銀八の恥ずかしい思い出とか聞かせてくださいね」

こちらも分かっていたのか、両手をホールドアップとばかりに持ち上げてみせ、
 あぁ、この笑みが女の人を虜にするんだろうなという笑顔をされてしまった。
思わず、心臓が跳ねてしまったことは銀八には内緒だ。


「銀も。今度銀八の好きな料理、教えてくれよな」
「え〜!俺、土方の好きなモン俺が作りたい」
こちらは明らかにむくれているのが分る顔をしている。
それが銀の良さなのだろうと同じ年なのに微笑ましく思う。

「じゃあ、引っ越し落ち着いたら作りに来てくれよ」
「あ!ズルい!トシくん俺も行っていい?いいよね?花束持っていくから!」
「わかった。待ってるから」
でも花束はいらねぇよと付け足しておく。


そして、自分の横に座る男を見た。

銀八の腕は心地よい。
在学中、お互いに触れることを極力避けてきた。
止まれなくなるとお互い分かっていたから。

それが解禁された今でも、銀八に人前でこういう風に主張をされることも、
感情をむき出しにすることはなかった。

だから、賑やかな兄弟たちに、
新しい『土方』の家族に感謝する。


もう一度、背筋を伸ばして、深々と頭を下げた。

「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」



「「「………」」」

間があった。

「あ…れ?何かおかしなこと言ったか?」
「土方くん…それ自分で考えたの?」
くくっと喉の奥で銀時が忍び笑いをもらす。

「総悟、あ、幼馴染なんですけど、そいつに必ず言えって…」
「あーはいはい。そうだね。あのドS王子の吹き込みそうなことだね。
 オメーいい加減色々学ぼうね?」
よしよしと頭を撫でられ、先ほど折角同じ位置に立てたと思った気持ちが霧散していくようで、思わず手を叩き落す。

「子ども扱いすんな!」
「トシくん。気にしない気にしない。銀八のツボそのお友達よくおさえてるよ。
 見てみ?銀八の顔…」

はくはくと鯉のように口を開閉させる本日何度目かの唖然とした銀八の顔にぶつかった。

「あ…」

表情もさることながら、その顔の朱さに驚かされた。

「だ〜〜〜〜〜!もう!土方!送っていく!」

照れていることを誤魔化そうとしてるのは明らかだった。
強引に腕を掴まれ、ソファーから立ち上がらせられる。

「いや、まだ時間的に早いと思…」
「そうだよ。兄貴!いいじゃん、まだ5時にもなってない…」
「いいから!ハイ!オメーらも!これでお開き!」

挨拶もそこそこにリビングから玄関へと引き摺られるように移動させられた。



「十四郎君」
「はい?」
靴を開いていると声かかかる。
声の質で銀時だとは分かったが、呼び方が変わっていることに少し驚いた。

「こんな兄ですが、どうぞよろしくお願いします」
「あ…はい!こちらこそ、よろしくお願いいたします」

手を差し伸べられ、握手のために土方も手を伸ばした。

「それから、いつでも返品交換可能ですので」
待ってますとそのまま引っ張られて、頬に唇が当てられた。

「銀時!」
「おぁ!」
今度はまた三和土の方へ銀八に引っ張られバランスを崩しそうになる。

「ズルいぞ!銀兄も!金兄も!はいはい。俺も俺も!」
後ろについてきていた銀が人差し指で己の口元を指さしながら主張する。

「調子にのんな!銀!」

坂田家の玄関戸が大きく開けられ、そのまま引っ張り出された。

「またね!トシくん!お引越しお手伝いにいくからね」
「オメーらは来なくていい!」
「兄貴!男のシットは見苦しいぞ!」
「うるさい!」

ゆっくりと締まるドア。
徐々にそのドアに隠されていく銀八と同じ顔の男たち。

見送られながら、土方は知らず知らず笑みを浮かべていた。


「なんだか楽しそうだね。土方くん」
土方用のヘルメットを押し付けながら、銀八が不服そうに口を尖らせる。

「え?いや…兄弟っていいな…って」
銀にそっくりだと、また笑みが自然に沸き起こった。

「………いやいやいやいや」
騙されるな騙されるなと勢いよく首を振られる。

「なんです?」
「土方がウチの馬鹿弟たちと仲良くしてくれんのは嬉しいけど、オメー油断しすぎ!
 お仕置きしとかなきゃだなと思って」
「は?」
節ばった銀八の指が、土方の頬と耳を強く抓る。

「ここに銀、ここに金からキスされてたでしょ?」
「痛っ!やめろよ!」
「油断する土方が悪い」
「いや、だって…ぶ」
今度は土方の唇を摘まみ合わされ、それ以上言葉を紡がせてはくれなかった。

「そういうことで土方のアパートに直行!」

ベスパの後部座席をぽんぽんと叩かれる。
ヘルメットのベルトをかちゃりと締めながらそこに大人しく跨った。

原付ほどではないが90ccの後部シートも決して広いとはいえない。
しかし、運転手の腰に腕を回さずとも、安定はとれ、
それでいて背中越しに心音ぐらいは感じ取れそうな距離。

「行くぞ」

イグニッションが回され、一度大きくエンジンを銀八が吹かせた。
やや大きめの音が起こり、愛車は振動を始める。


まだ少し肌寒い風に吹かれながら、
ベスパと二人は、
走り始めたのだった。




『be well off』 了




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