うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

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side銀八



「遅い…」

銀魂高校教諭・坂田銀八は自宅前で落ち着きなく立っていた。
何事も時間厳守、真面目な風紀委員の副委員長が遅刻することは滅多にないことだ。


土方十四郎。
この春、銀八が受け持っている3年Z組を卒業する教え子。
そして、『お付きあい』を始めたばかりの可愛い年下の恋人だ。


教師と生徒、オマケに男同士。

思いのうちは通じあわせていたものの、『元担任と卒業生』となるまでは自重していたのだ。

身寄りもなく、苦学生の土方につけこむような形で、同棲を決めている。
性急すぎるとは銀八も思ってはいるし、解ってはいる。
教師としても、失格な行為だとも。

土方のことを思うならば大学で社会で、広い世界で色々な経験をし、
出会い、伴侶となる相手を探せるよう、手を離すべきだ。

しかし、一人の男として、これからの土方の成長を身近で見守りたいと、
外界から守りたいという欲求をぬぐい去ることができなかったのだ。



「土方…」

サラサラとしたストレートな黒髪に、すっきりと均衡のとれた身体。
剣道をしていたその背は真っ直ぐで美しいと思う。

在学中から土方はモテた。
本人に自覚はないが、奇妙なフェロモンを醸し出していて、男女問わず惹き付ける。
きっと大学に入れば、さらに完成された男前っぷりで注目されることになるだろう。

銀八は不安だった。
将来性のある土方が何故自分のようなしがない高校教諭にいつまで付き合ってくれるのか。
10近く年上の男に。

土方の気持ちを疑うわけではないが、いつ最後だと通告を受けてもいいように『今』を一分一秒を大切に過ごしたいと思いも心の何処かに存在している。



「まさか、迷子?」

そう言えば、土方に今度食べさせると約束した和菓子を買いに行かせた三男も帰ってこない。

銀八は生家を出るにあたって、両親亡き後共に頑張ってきた弟たちには、隠さず土方を紹介しておきたかった。
恋愛について秘密主義な銀八だが、今回ばかりは最後の恋だと自覚していたからだった。

しかし、数十分後、この顔合わせを激しく後悔することになることを銀八は知らない。




「遅い」

もう一度、呟いた時だった。
次男のフォルクスワーゲンが戻ってくる。

「あれ?」
助手席に座り、手を振るのは、まだかまだかと待ちわびていた少年だ。

「先生っ!」

土方十四郎は、何故か次男坂田銀時の車で三男坂田金時にエスコートされながら、銀八の待つ坂田家に到着したのだ。


唖然とする銀八を素通りして金銀二人の弟たちに囲まれるように、年下の恋人は家の中に入っていく。
土方も困ったような顔をしてはいるがそれに逆らうでもなく歩いていく。

「おいぃぃぃ!」

一拍間をおいて、銀八も三人の後を慌てて追った。






少年を居間に通している様子を見てまた銀八は固まった。
何故かソファーに土方を挟んで弟たちが座っているからだった。

「坂田先生」
「なんです?土方君」

困ったかのように土方が銀八を呼んだにも関わらず、返事をしたのは銀時の方だった。

「え?いや、あの俺が呼んだのは…」
「そうだよ。銀時。トシ君が呼んだのは残念ながら弁護士先生じゃなくて、
 そこのあか抜けないコーコーキョーシでしょ?」
フォローにならないフォローを入れながら、土方の手をしっかり握っているのは金時だ。
「それは失礼。つい私も普段そう呼ばれているものですから」
「あ、ごめんね!トシくんに飲み物も出してなかった。銀八!お茶!」
「金時てめっ!」
視線は土方から離さず、兄に言いつける三男に怒鳴るまではいかないまでも、
抗議しようとするが、聞く耳は端から持ち合わせていなかった。

「今俺忙しいの!トシくんに聞きたいこといっぱいあるし!」
「そうだな。それは私もだな。土方君が買ってきてくれたケーキもあるんだが…、
 そっちはこの馬鹿ホストが潰してしまったし和菓子にしようか土方くん」
金時への対抗意識からなのか、銀時まで土方にワザとらしく身を寄せているのを見て、
苛立ちをどうしても隠せない。
第一何故、紹介云々の前にこんな状況になっているというのか。

「土方買ってきてくれたの?それ金時が?どういった状況だよ一体」
「国語教師だろ?それくらい今の会話から察しろ」
「いや、これ国語の読解力の問題じゃないからね?大体情報量少なすぎるし!」
「銀八!お茶と菓子!」
今度は、銀時まで銀八にリクエストしてくる。

「あ〜もう!あとできっちり説明してもらうからな!」
自分を落ち着かせるためにも隣接したキッチンスペースへと移動した。



本来、家の前から銀八が土方を招き入れて、バイト先から末の弟が戻りしだい紹介するつもりだった。

誰も説明してくれない状況に大きくため息をつく。

事前に、弟たちには恋人を連れてくるとは伝えていた。
仕事柄、かぶき町で弁護士事務所を開いている二男の銀時やホストを天職にしている金時は男同士という点に偏見はないと思う。
問題は、末の銀だけだが、頭は固い方ではないが多感な年ごろだけに時間をかけて理解を得るしかない。

そんな予測を立てていたというのに、

「それが…なんで…」

途中で合流したにしても、偏見がないとしても、
あのべったり加減はどういったことだろう。

嫌な予感がする。

何と言っても同じ遺伝子を持った兄弟だ。
土方に魅かれないとは言い切れない。




「先生」

振り返れば、台所の入り口に土方がやってきていた。

「お茶手伝うからって無理やり抜けてきた」
「悪いな。驚いたろ」

素直に頷いたが、その視線が銀八の頭に向かっていることに苦笑する。

「…そこかよ」
皆、色は違うものの天然パーマという部分だけは親から引き継いでしまっている。
遺伝の法則から言えば、一人くらいストレートがいてもおかしくないというのに、
恐るべき天然パーマの因子だ。

「顔も似てるけど…雰囲気全然違うから最初兄弟だとか思わなかった。
 あ、銀時さんは最初声で間違っちまったけど」

はにかんだ笑顔に少し落ち着きをもらう。

土方にとっては、似ているとはいえ、『彼氏』の家族への顔合わせなのだ。
しかもこれから『同棲』する…

(俺がしっかりしないと…って!ちょ…なんだか恥ずかしくなってきたなこれ…)

改めて考えれば、これ以上面映ゆいことはない。

「せんせ?」
「いや…土方がウチにいるんだな…って」

隣に土方がいる。
しかも台所。

一度急須を盆の上に置き、手を土方の黒髪に伸ばす。

「あ…」

耳の前の髪をかけるように流してやりながら、顔を寄せた。



「ただいま!!悪ぃ!遅くなった〜」

息が触れるほど近づいた唇だったが、大きな声に思わず飛びのいた。

玄関の三和土にスニーカーが放り投げられる音がして、人の気配が台所に直行してくる。

「銀のやつ…」
「銀?あぁ、ケーキ屋の?」
「へ?オメー、アイツとも面識…って、オメーが買ってきたケーキってアイツのバイト先か?」
まだ、見ていないが、銀時が冷蔵庫に入れたとかいってたケーキのことだろう。

「そう、だってあそこの美味しいって先生が…」
「あぁなるほどね」

「兄貴!これ!ってあれ?やっぱアンタだったんだ!」

ずいっと先ほど土方が店で買ったものと寸分違わないケーキの包みを土方の前に銀は差し出した。

「金兄にメールもらってさ。買い直してきた」
「いや、わりぃ。かえって金時さんにもアンタにも気を使わせたみてぇだな」
若干砕けた様子で、土方は銀と会話を始める。
やはり年が近いこともあるのだろうか。

「銀、でいいよ。タメなんだし。俺も十四郎って呼んでいい?」
「銀!」
自分でさえ、まだ名前呼びしていないというのに、ちゃっかり弟に先を越されるのも癪だ。

「いいじゃん、兄貴。タメなんだし」
「『土方』でいいだろうが?!」
「え〜!だって、金兄なんか『トシくん』呼びだぜ?」
「馴れ馴れしいんだよオメーらは!」
金時はホストという職業柄ということもあるから半分諦めてはいるが、苛立たないわけはない。

「そんなことねぇよな?十四郎?」
「…アンタたち兄弟は呼び分けねぇと皆『坂田』だから、アレだけど、
 俺のことは苗字呼びで…いいと思う」
漸く、土方が意見を言ってくれた。
「だよな!土方くんもそう言ってんだろうが!」
あっさり許可しようものなら、どうしてくれようかと内心ハラハラしていたのだ。

「ふぅん」
「あんだ?」
「兄貴と十四郎って本当に付き合ってんの?」
「「は?」」
痛いところを突いてくる。
瞬発力は若さ…だとは思いたくはない。

「だって何か全然余所余所しいし?」
「オメっ!色々あるんです!大人の事情に口出すんじゃありません!」
それなりに急速にあんなことやこんなことはやってみてはいるが、まだまだ硬さが残るのは事実だ。

「いや、俺十四郎と同い年だし?」
「あーいえばこういう!誰が育てた!」
そこで高校三年生男子は揃って、銀八を指さし、顔を見合わせて笑った。

「土方まで!んなこというか?後で覚えておけよ?」
「だって…」
堪えきれずにまだ笑い続ける土方に(可愛いんだよ。後でぐっちょぐちょにしてやる)と鼻の下を伸ばしている場合ではなかった。


銀がリアクションを起こしたのだ。

「やっぱ!可愛いわ!うん!厨房から店で迷ってる十四郎見つけて思わず出ていっちゃったんだけど!俺のセンサーの誤作動じゃないね!コレ!来たよ!」

末弟がしっかりと恋人の手を掴んで、詰め寄っている。
詰め寄っているというか、はっきりきっぱりいって口説いている。

「あ?なにいって…」
「十四郎!こんなオッサンより俺の方が良くね?!
 基本、同じ顔と天パだから、外見はクリアだろ?
 ほら!タメだから会話に…ジェネレータキャップに困ることないし!」
「ジェネレーションギャップな」
マイペースな友人が多い為か、普段からの訓練の賜物か、動揺しつつも妙な所だけ平常な土方だ。

「待て待て!土方も冷静にツッコンでる場合じゃなくて!」
「十四郎!一目惚れしました!付き合ってください!」

「へ?」

空気が凍りついた。




『be well off U 』 了




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