うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

『聖夜の贈り物 前篇 』




「探せ!」

対テロ用に設置された武装警察真選組がかぶき町を走って行った。
物々しい黒の隊服が緊張に溢れている。

「もしも、攘夷浪士にバレたりしたら…」
「そうまだ遠くには行っていない筈だ!」

丁度、クリスマスセールのチラシを配っていた万事屋の主・坂田銀時はその様子に首を傾げた。
小声で走りながらの会話だったが、どうやら追っているのは取締り対象ではなく、保護すべき人間らしい。
しかも、内密にしたいのか、聞き込みをするでもなく、ひたすら数名が路地だとか店を覗いていくのだ。

(まるで迷いネコでも探してるみてぇな探し方だな…)

いつぞやは、将軍家のカブトムシを探しに行かされていた集団だ。
また、厄介なモノを押し付けられたのだろうか。
しかし、黒い集団の中に銀時の探す黒は見当たらなかった。

真選組の頭脳とも、鬼の副長とも呼ばれる男。
土方十四郎の姿は。

凛と、茨の道を己で選び、その棘を、痛みを苦とすることなく
真っ直ぐと前を向いて走っていく土方。
そんな姿を好ましいと銀時は思っている。

正しくは、思っていた。
過去形なのだ。

最初の出会い方が拗れなければ、良い友人になれたのかもしれない。
今の二人は、積み重なった意地の張り合いがもはや習慣化していて、顔を合わせれば喧嘩ばかり。
所謂、犬猿の仲だと言われるようになっていた。

それでも、気が付けば街を歩き、黒い隊服を見かければ彼ではないかと探している。
もはや、『好ましい』どころではなく、
『求めてやまない』といった状態に陥っていることに気が付いたのはつい最近の事。

自分とほぼ体格も変わらない、どう見ても柔らかくはない立派な成人男性の身体と
瞳孔の開いた物騒な顔つきと、
チンピラ紛いのガラの悪い話し方。

そんな相手をそんな、いわゆる腫れた惚れたの対象として見てしまう自分に驚き、
そして、絶望する。

どう考えても前に進むことのない話だからだ。

お互い譲れないものがある。
だから、それでもいい。

そっと今まで通り。

江戸全域を一手に護る真選組だから、毎日会えるとも限らないが

道で会えば、無視されることはない程度に、喧嘩をし、
何か共鳴、共闘できることがあれば背を預け、
大人しく守られる男ではないけれども、
万が一彼が望むならば、伸ばした手を掴んで護るだろうと。


(今日は顔、見れなかったな)

そんな事を考えながら、チラシの残りを数えようとした時だった。





「?!」

トンッと路地から出てきた子どもがぶつかってきた。

「坊主、アブねぇだ…ろうが…?」
ぶつかった拍子に尻餅をついてしまったらしい、その子どもをみて言葉を飲み込んだ。

「あんだよ?」
「オメー…」

歳の頃は、5〜6歳。
寺子屋に上がってはいないだろう。
着ている着物から、男の子なのだろうと推測したのだか、女の子にも見えなくはなかった。
しかし、性別を間違えたかという点で止まった訳ではない。

睨み付けてくるその印象的な瞳。

「土方…?」

そう口にして、頭を振る。
こんな子どもが土方に重なって見えるとは重症だなと眉を顰めた。

しかし、青灰色の淡い虹彩と少し開きぎみの深海を思わせる瞳孔はどうみても彼を思い起こさせるものだ。

「アンタ…」
少年の顔が何故か急に泣きそうに歪み、何かに耐えるかのように口がへの字に結ばれた。


「おい!いたか?」
聞こえてきた声に少年はびくりと身体を緊張させ、次の瞬間、バネのように立ち上がった。

「何?真選組が追ってんのってオメーなの?」
「わかんねぇ。あの黒い洋装のおじちゃん達も、怖い顔したおしゃむらいさん達も皆追っかけてくる」
「お侍さん?」
『お侍さん』がうまく言えないらしいことを微笑ましく思いながら、『真選組』と『怖いお侍さん』との間に違いあるのか、疑問をもつ。

「離せよ。俺、帰んないと」
「何処へ?」
「何処…って兄さんのところに!」
だから、掴んだままの手を離せとまた少年は暴れだした。

「兄さん?オメー、もしかして土方の縁者かなんか?
 あ〜俺さ、この江戸で何でも屋やってる坂田銀時ってんだけど、
 良かったら手を貸してやろうか?土方…十四郎とも面識あるし」
兄弟ならば似ていても、迷子になった副長の弟を組総出で探してしても、おかしくはない。

「俺が土方とーしろーだっ!」
「へ?」
縁者とはいえ、同じ名前ということがあるのかと首を傾げた。



「旦那」
子どもと同じ目の高さまでしゃがみ込んで聞き出そうとすると、声が新たにかかる。

「あれ?オメー……山本君だっけ?」
「山崎ですっ!いいですよ!
 覚える気、ハナッからないことなんて分かってますから!」
「で、本山君。なんか用?」
「……その人、うちの縁者なんで引き渡してもらえます?」
土方に良く似た少年はさっと銀時の後ろの隠れてしまった。
怯えているというよりは、混乱して逃げ出している、そんな印象を受ける。

「お?スルーした?強くなったね。ジミー」
「話、進まんですから。トシくん。
 ほらおいで。俺たちが恐いおじさんたちから守ってあげるから」
「嫌だ」
差しのべた山崎の手を払いはしないものの、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

「聞き分けて下さいよ」
「アンタについていくくらいなら、俺はこの何でも屋、雇って家に帰る」
「は?副…」


「ザキ。いいじゃねぇか。旦那に1枚噛んでもらおうぜ」
また、新たに声が割り込んできた。
真選組の一番隊隊長は余裕のドSスマイルを全面に出して、楽しそうに笑っている。

「おいおい沖田君、何勝手に話進めてくれちゃってんの?」
「まぁ、立ち話なんですから、とりあえず旦那んとこにお邪魔しやしょうか」

ドS王子は黒く笑いさっさと先頭を歩きだした。




沖田は我が物顔で万事屋に上がり込むとソファに座り、その後にへこへこと申し訳なさそうな顔で山崎が続いた。
オロオロする新八に客じゃねぇから茶はいらないと手を振る。

「チビ、あの兄ちゃんと一緒に隣の部屋で遊んでもらってろ」
「イヤだ。一緒にいる」
「ちゃんと後で説明してやっから」
「イヤだ」
また、ぎゅっと着流しの袖を握ってくる。
一人前の口をきくようで、ただ強がっているだけなのかもしれない。

「まぁ、そこにいても構いはしませんが…やけに、旦那に懐きやしたね」
「なんなんだろうね?よっぽどオメーらが恐い顔して追っかけてくるからびびったんじゃね?」
「びびってなんかねぇもん!」
「「ハイハイ」」

取り合えず、沖田達と向い合わせのソファに座り、で?と話を促した。

「まぁ、旦那のお察しの通りでさぁ」
「お察しの通りといわれてもね?一体、どうやったらこんなことになるわけ?」
「あ〜、それはこのアホ方ドジ四郎がですね…」

沖田が話始める。
昨日の夜。
違法植物の密輸入の摘発の為に副長である土方を筆頭に、ある屋敷に真選組は乗り込んだ。

証拠は万全。
包囲も完全。
首尾も上々。

ただ、窮鼠猫を咬むとはよく言ったもので、捕まるよりはと密売人たちは商品である薬を片っ端から投げつけてきたのだ。
様々な薬が化学反応を起こし、現場は混乱した。
その煙幕をすり抜け、土方は首謀者を追う。
今日の取引では、普段は表に出てこない黒幕まで立ち会うという情報が入っていたから、この日を選んだのだ。

隠し通路があるらしい物置部屋に首魁とそれを警護する者、そして取引にきていた客が入っていく。
土方は迷わず、そこへ飛び込んだ。

「その後でさぁ」

沖田達が、物置部屋にたどり着いた時には、客の死体が床に転がり、首謀者たちは居なかった。
容易に口封じの為に用心棒が斬りすてたのだろうと予測はつく。

しかし、土方の姿も消えていたのだった。


「ばらまかれた薬は若返りの薬だったことは、薬を被った他の人間の変化で予想がつきましたから、裏口辺りでこの若くなっちゃった副長を見つけることが出来たのは出来たんですが…」
山崎が話を継ぐ。

「本人の、『副長』の記憶がない…?」

物陰に隠れていた少年を真選組の屯所に連れ帰ったものの、警戒し、誰にも心を開かないという。

「ゴリラは?」
「ダメです。見た目からして、まだ近藤さんに出会う前の歳ですし…
 家に帰るの一点張りでしてね」
「…これ、ずっとこのまま?」
「今、詳しい分析してます。なんだか、色々混ぜられちゃってるんで、効果がよくわからないんですけど、そんなに持続性ないはずなんで」
戻ってもらわんことには困るんですけど、と山崎が重たい息を吐く。

「隊の中でも半日で戻ったもんもいりゃ、体は若返っても記憶はそのままのもの、若返り加減が僅かで見た目からはわからないが、数年の記憶が飛んでいるもの、まぁ、要するに今、うちは猫の手も借りたい状態なんで」
「万事屋は猫の手かよ」
「そういうことでさ。このチビ方が屯所抜け出して、無意識だかなんだか、
 このかぶき町に逃げてきたことも、旦那が捕まえて下さいやしたことも、
 旦那にだけ懐いてんのも、ご縁だと思いましてね」

小さな土方と、沖田を見比べる。
『鬼の副長』がこの有様では、士気が落ちるのも解らないではない。

「報酬は出るんだろうな?」
「そりゃ、俺が責任もって、土方の通帳持ってきまさぁ。
 もとに戻らなかったら、そのまま嫁に貰って下せぇ」
「いやいや、自分好みに育てるとか銀さん、そんな気の長い性格じゃねぇし!」
「いや、銀さんも沖田さんも、可愛くなってますけど『土方さん』ですから!嫁発言おかしいでしょ!」
一瞬、沖田も銀時も新八のつっこみに口を閉ざす。

深い意味を込めたわけではないのだが、『そういった』対象とみているからこその発言だと言われたらそうなのかもしれない。
そして、そんなフリを送ってくるところをみると、勘の良いサディスティック星の王子にはバレバレということだ。

「………あ〜…ソウデスネ」
「何んなんですかっ?!その醒めた目はっ」
「まぁまぁ、新八くんにも、そのうちわかるように…」
フォローのつもりなのか、山崎までそう言うところを見ると自分の気持ちなぞバレバレなのだろうかと頭が痛くなってくる。
自分では、ふらりふらりと本音を隠すことは得意だと思っていたからこそ。

「山崎さんまでっ!なんなんですっ?」
「これだから、メガネドーテーは」
「ちょっと神楽ちゃん?また、そんな言葉をっ!
 って、アレ?分かってないの僕だけなの?コレ」
神楽辺りは、『解っているフリ』なのだと思いたいところである。

「で、旦那?」
「じゃあ、こいつの『保護』をオメーらの方が片付くまですりゃいいんだな?」

「いや『子守』でさぁ」
沖田の視線を感じたのか終始黙っている土方が、ぎゅっと銀時の袖を握り込んだ。

「よくいうぜ。サッサと片付けろ。延長保育は料金上乗せすっからな」
「承知しやした。ま、旦那もいい機会ですから『土方』さんと親睦でも和合でも何でも進めちまってくだせえ」
「なんのことだかわかんねぇな」
「まぁ、そういうことで」


ヘイヘイと手を振って、来た時同様、沖田は先陣きって歩いていき、山崎は見送りの新八にへこへこと頭を下げながら、帰っていったのだ。





『聖夜の贈り物 壱 』 了





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