うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

『花氷 参』




思わず花が銀時のところに落ちてきてから一年が経とうとしていた。


その晩のことを銀時は忘れないだろう。

捕り物を片づけて帰ってきたらしい彼女は血と硝煙と、砂ぼこりの匂いをさせていたが、そんなことは気にならなかった。

自分の腕の中で困ったように返事をする土方。
己の価値を知らない女は自分のコンプレックスらしい点を挙げて、
『こんな自分を好きになるわけがない』と存外可愛らしいことを言ってくれた。
自分のことを知らなさすぎるとほくそ笑む。



大事にしたい。
大事にしたいが、大事にする自信がなかった。


「土方…ごめんな」

非番だからと、これから万事屋に来る予定になっている女を想い、また呟く。


土方が真選組と近藤を大切にしていることは知っている。
そちらがあらゆることより優先されることも解っている。

土方十四は、けして惚れた男の好みに己を曲げることが出来る人間ではない。
だからこそ真っ直ぐに、己の矜持を保ち、汚れない魂を持ち続けていられる。
茨の道もなんてことないと進む彼女だから、
輝いて見えることを知っている。

それでも、銀時の心は望んでしまう。

花を手折って、閉じ込めてしまいたい。

しなやかに走る様が愛おしいのに、
自分の元にのみ留めておきたいと思う相反する感情。
今の美しさをそのままに。
まるで、瞬間を閉じ込めた氷花を楽しむかのように。


これまで、女とあまり深い付き合いをしたことがなかったのは、
夢中になれるほどの女に出会うことが出来なかったこともあるが、それ以前に自らに心のどこかでブレーキをかけていたからかもしれない。

独占欲。
一言で言えばそれ。

適度な独占欲ならば、嫉妬だとか悋気だとかいう言葉で片付けられるかもしれない。

「でもなぁ…」

皆の前では今までと変わりない態度で接して、好きだとも付き合っているかどうかも明言していない。

そのくせ、彼女の非番には呼び出して、失神するまで、時間の許す限り、抱き潰し、会えない日が続いたり、誰かににこやかに笑っている所を見てしまえば、路地裏に引っ張りこんで、強引に身体を繋ぐことさえあった。
そんな歪んだ関係でしか安心できないから。



玄関のチャイムが遠慮がちに押される。

時計の針は午後10時を示していた。
明日一日休みだと聞いているから、共にいられるのは約32時間。

玄関に向かい、戸を開けると、少し疲れた顔をした土方は立っていた。
将軍の警護や攘夷浪士のテロ取り締まりに内偵、普通の警察のような仕事まで多忙極まりない土方。


「遅くなった」
「遅刻。無理して来なくていいのに」
勤務は5時までだったはずなのに、隊服姿のままだった。
本当は現場で怪我でもしてはいないかと、ジクジクと胃を痛めていたというのに裏腹な言葉で会話を始める。

「まぁ、入れば?」
招き入れ、勢いよく戸を閉めると、玄関扉の硝子がガシャンと盛大に音をたてた。

それが合図。

「よろ…」
勢いよく口づけ、煙草の味のする口内を貪る。

「違うだろ?」
外でなんと呼ぼうと構わないが、他の者がの場にいない『今』はそれを許さない。

「ぎ、銀時…苦し…」
はふと息継ぎをするかのように顔を天井に向けるから、喉に噛みつく。
「いてっ…おぃ」
性急にスカーフを引き抜き、隊服の上着を肩から滑り落とすと織りの詰まった重たい音が足下でした。
「…せめて…奥に…」
「嫌なの?」
ブラウスの上から乳房を掴み、揉みしだく。
ボタンを開けないまま、ブラジャーを少しずらして、小さな突起を布越しに口に含んだ。
「ぎん…」
艶を含んだ声で名を呼ばれれば、この1年の成果に自然と笑みがこぼれる。
「ほら、白いシャツに透けて、ピンク色が見えてきた」
いやらしいね、と煽れば、睨みながらも羞恥で真っ赤になっている様が目にも楽しい。

「どうするの?止める?」
「…好きにしろよ」

土方の上気した顔に困ったような色を僅かに乗せてはいたが、そう応えて自分から銀時の首に腕をまわしてくる。

土方は断らない。
どこまで、赦してくれるのか。
矜持高い土方が、
自分にどこまでを。

疲れているのは判っているが、今だけは銀時だけで心も身体も埋めていてほしいから。

乱暴にベルトを引き抜き、ズボンと下着を一緒に床に押しやる。

そのまま、玄関先で身体を強引に繋いだ。

早く速くと
いつだって心が急く。

早く、繋がって、
速く、どろどろになって。

彼女が帰ると決めた真選組に戻るまで、
無粋な携帯電話が叫びだすまで。

氷花のように凍らせることはできないから。

この命がここにあると、
新しい傷が綺麗な躰についていないか確認して、
あらぶった息で、震動する鼓動で。

手荒に、
時には道具さえ持ち出して。

自分が優位な振りをする。

そんな方法でしか確認出来ない気がしていた。

それでも、赦してくれるから。


俺は浮かれていたのだ。
最悪な事態が起きるまで気がつかないほどに。




『花氷 参』 了
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