うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

9月27日




『次の非番?』
「そう。もう10月のシフト、出来てんでしょ?」

特別武装警察真選組の江戸屯所。
副長・坂田銀時は個人の携帯電話を使っていた。

『…ちょっと待て』

電波の先で紙をめくる音が坂田の耳に届く。
坂田と同じく副長職の土方十四郎が立てる音だ。
彼はこの四月より新設された京都支部にて、采配を振るっていた。

『11日、だな』
「10日は忙しい?」

少しの間の後、帰ってきた日付に坂田は、卓上カレンダーの数字を右手でなぞりながら、再び問う。

『10日?あぁ…そうだな。9日から江戸からそよ姫さまがお忍びで来られるから
 終日護衛だ』
「あー…あれ、9日に変更になったんだったけ。おめェが同行?」
『そよ姫と面識もあるしな。神楽じゃ、お伴と話し相手は出来ても町の案内は
 できねぇだろ?何かあったのか?』
「いや、そっちに行こうかなぁ、なんて」

坂田は土方のことを同性ながら憎からず想っている。
一応、すったもんだというべきか、坂田が暴走した末に、正式におつきあい(仮)の権利を得たのは得たが、暗中模索の状態だ。

ずっと、土方が欲しかった。
けれど、坂田には求め方が分らなかった。
だから、二年と少し前、副長職を引き受ける代わりだと、契約だと、真選組第一に考える男を組み伏せた。

男に誰か別の人間の影が見えないかと肝を冷やし、周囲から患いを排除した。
女を抱いて、情に厚い男の気持ちが自分にあることを確かめようとしていた。

結果、京都支部新設を機に契約破棄、つまりは別れようとされてしまった。
坂田の勝手を土方は苦しかったと告げたのだ。
プライドの高い土方の口から出てきた一見弱音にも見えかねない言葉はそれだけ深刻さを物語った。

それでも、坂田は引けなかった。
恰好が悪くてもなんでも、乞うた。
最終的に、お互い考え直すという点で妥協してくれているけれど、不安は常に坂田の中にある。

『てめェが非番でも、こっちは仕事中だ。宿泊先に張り付くから、屯所にいねぇぞ』
「いっそ、仕事にして神楽に同行すっかなー」
『9日は祭りの警護じゃなかったか?』
「ですよねー…」

なかなか休みが合わないなーと溜息をつく。

会いたいと思う。
ずっと会っていないと心配になる。
土方が京の支部に移るまでは、当たり前のように毎日会っていた。
どんなに忙しくても。
どんなに疲れていても。
一目会うどころか、束縛出来ていた。
組み伏せて、縛って、貫いて、確認できていた。

土方の気持ちを捕えておく為、確認する為だと取った坂田の行動は間違った方法であったと今ならわかる。
わかるからこそ、また道を違えない為にも会いたかった。

自分が土方を求めていることを示すだけで、世界はひとつ色を変えた。
会って、抱きしめて、土方を求めていたい。

恋など知らない。
愛などわからない。
これほど誰かに固執したことがなかったのだ。
土方に触れる人間すべてに嫉妬できるほど。

添うことを乞いたい。
添いたいと恋われたい。

『坂田?』
「いや、土方不足で死にそうって思って。浮気すんなよ?」
『阿呆か』

一か月暫定で京に入ったはずの土方の赴任期間は結局延び、早いもので半年が経とうとしている。
坂田も京赴任を望んだが、沖田が副長職を一人で担えるようになるまでは難しいと判断されてしまったままだ。

しかも、土方の誕生日を過ぎたあたりから、纏まった休みが土方も坂田も取れてはいなかった。小規模なテロ、闇取引が頻発し、祭りといった季節行事の警護が隙間なく入っていたのだ。

離れた場所で行われる行事とトラブル。

近藤を支えること。
それを第一にしてきた土方は黙々と仕事をこなす。
坂田は会いたいと思っているが、土方の方は坂田に会えずとも寂しくもなんともない風にやはり思えてならない。

「ん?」

受話器の向こう側で無機質な呼び出し音が微かに聞こえた。
現在、土方が坂田との通話に使っている携帯はプライベート用であるから、仕事用だろう。

『坂田』
「ん、無茶はすんなよ」

もう切るという言葉を聞きたくないからこそ、自分の方から大人しく引く。

『てめェに言われずともわかってら』
「また、かける」

おうと小さな応えが聴こえた途端、ツーツーと愛想のない音がもう京と江戸が繋がっていないことを知らしめた。

10月10日、坂田の誕生日。
きっと土方は今の会話から坂田が本当に聞きたかったことには気がついていない。

自分の誕生日を一緒にすごしてくれるかどうか。

これまで、誕生日など気にしたことはなかった。
だが、自分が生まれてきたことを祝ってくれる人が出来た。
直属の部下である新八、神楽を筆頭に、上司である近藤や沖田、隊の垣根を越えて、町の人たちまで祝いの言葉や品をくれる。

照れ臭くはあるが、有難いことだと思う。
でも、一番祝って欲しいのは土方だ。
そう思うのは贅沢だろうか。

昨年はまだ酷い関係であったから、祝ってもらうというよりも、無理やり祝わせたと言ったほうが正しい。
自分で予約した料亭に騙す様に連れ込んで、そのまま、嫌がる土方を犯すように抱いた。
その時も誕生日だからと言った覚えはない。
果たして、土方は銀時の誕生日を知っているのか。

距離があると、こういう時に、それとなく他の隊士との会話に盛り込んで確認することも出来ない。

知らないとなれば、それはそれでショックなのだが、知っていたとしても、今までの所業を考えるとねだりにくい。

先ほどの電話の様子では微妙なところだと坂田はかゆくもない髪を掻きむしった。

兎にも角にも、土方の予定はつかめた。
通話時間はたったの3分24秒。

「会いてぇよ。土方…」

もう、祝ってくれなくてもいい。
定期的な逢瀬の振りをして、10日に、せめて顔を見に行こう。
トンボ返りになるが、土方がそよ姫を送り出した後ならば、会ってくれる。
仕事さえ、片付いていたなら。

多少、ワーカホリックぎみに文机へ向かう男の背を思い出しつつ、坂田は苦手な決裁書の山へ手を伸ばしたのだった。



『愛と添う―9月27日―』 了 




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