うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

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side土方



土方十四郎は立ち尽くしていた。


「お決まりでしたら…」
女性店員の声にびくりと体が跳ねて、また己が体温が上昇したことを自覚する。

土方は第一志望の大学を決め、間もなく銀魂高校を卒業する三年生だ。

そして、甘いものがあまり好きでもない彼が人気ケーキ店のショーケースの前で途方にくれている。
店員たちも他の客たちも、整った容貌の若い男子の様子を眼福とばかりに不躾な視線を投げ掛けていたが、本人は気がついていなかった。

「オメー、この店初めてだよね?」

それまでの女性の声ではなく、自分と同じ年頃の少年のものだったから、土方は思わず、ガラスケースから顔を上げた。
すると、製造する側の服をきた少年がいつのまにかやってきて、にこにこ笑いながら土方を見ている。

薄茶のキャップを被っていて、髪全体はみえないが、ぴよぴよとはみ出したをそれは銀色のようにみえた。

「彼女へのプレゼントか記念日的ななんか?」
きょとんとしていると、カウンター内から出てきて更に話しかけていた。

「か、か彼女…じゃねぇし、ってか、なんで彼女…?」
「だって、アンタむちゃくちゃモテそうだし、
 ケーキ屋入り慣れてなさそうなんだもん。自分用じゃないよね?」
「まぁ…そうなんだけど…世話になってるつぅか、
 これからなる人のウチにこれから挨拶に行くから、手土産を…」
「ふぅん」
店員は何か思案するように少し目を細めた。

「先方は甘いもん好きなんだけど、俺は苦手だから何買っていいかわかんなくて…」
「苦手なの?もったいねぇ…そんなんじゃ人生の半分以上損するよ?」
「余計なお世話だ。いいんだよ。俺には万能調味料マヨネーズがありゃ」
バイトなのだろうか。
接客というには砕けすぎた口調につい土方も地で答えてしまっていた。

「ぶっ!オメーその顔でマヨラーかよ。ウケる!」
「帰る」
「悪い悪い。手土産ならさ、こういった生ケーキより焼き菓子の方がいいんじゃね?
 日持ちすっから、食べきれるか心配しなくていいし」
ぐいっと腕をひかれて、駕籠や、木箱をつかって、
きれいに積み重ねられた焼き菓子のコーナーに連れていかれる。

「相手、何人?予算は?」
振り返って笑う顔に土方は息をのんだ。
照れ臭さを圧し殺した笑顔は土方のよく知る人物に瓜二つだったからだ。

「…四人…兄弟って聞いてる。3000円じゃ安すぎかな?」
「あ?もしかして…」
「コラッ銀!何サボってやがるっ!」
厨房の方からどなり声が聞こえてきた。

「すぐ戻るって!ごめんね!たま!宇治銀ロール1本、包んで!また後で!」
「承知しました」
「え?」
カウンター内の少女が冷蔵ケースの中から特大のロールケーキを引っ張りだした。

「生ケーキじゃねぇか」
「これ、銀さまのお気に入りだそうです。あ、二千円です」
「銀、っていうのか?アイツ」
着々とリボンを巻き付けられ紙袋に納められていく様子を呆気にとられながら、
疑問を口にした。
「坂田銀さま。坂田家の末っ子です」

チーフパティシェにキャップを脱いで詫びている後ろ姿がガラス張りの厨房にみることができた。
まさに、今から土方の挨拶にいく坂田家の主と瓜二つの銀髪、天然パーマ。

銀魂高校3年Z組担任にして、この春から新たなアパートで共に生活することになっている土方十四郎の密かな恋人・坂田銀八と縁者であることは疑いようがなかった。





いきなり、今から挨拶にいく相手に会ってしまったと土方は動揺して、早足で店を出た。

(うわうわ…しまったまままさか…銀八と合流する前に会っちまうとか…)
こんなことなら、どの程度、どんな風に土方のことを身内に伝えているのか聞いておけばよかった、と今更ながらに後悔する。

土方と坂田銀八が正式な『お付きあい』を始めたのは極極最近のことだ。

お互いの気持ちを伝えあうということは既に2年の時にクリアしていたが、
なんといっても男性同士、そして教師と生徒、土方の若さ、それらを理由に卒業するまで保留し続けていた。
ようやく、卒業にも目途が付き、進学先も決まり、我慢しきれずキスをしたのがつい3週間前のこと。
一度堰をきってしまえば停まれるはずもなく、時間さえあれば主に土方のアパートで
逢瀬を重ねていた。

そして、銀八は提案してくれたのだ。
自分も家を出るから、一緒に暮らさないかと。



土方に近親者がいない。
だから、大学には奨学金で進学することになっているし、
反対する家族もいなかった。

対する、銀八には両親は他界してから、弟たちと四人で暮らしていると聞いていた。
家族を早くに失った土方は銀八を家族から引き離すことに躊躇したが、皆もういい年の大人だから問題ないと笑ってくれた。
それよりも正式に紹介しておきたいからと今日、坂田家に招かれていたのだ。

ファーストインパクトが大切だと気合いを入れて銀八がお気に入りと言っていたケーキ屋に寄ったのはところでの、まさかの邂逅である。



「あ〜最初からこんなんで大丈夫か!俺っ」
手のひらで顔を覆った時だった。
完全に油断していた。


どんっと何かにぶつかり、盛大に尻餅を着く。





「君、大丈夫?」

障害物が口を利いた。

「大丈夫です」
目の前に長い足があり、視線を上げていくと、大きな手のひらが土方に差し伸べられていた。
更に顔をあげると、太陽の光を髪にまとわりつかせた金色がそこにあった。
キラキラと跳ねた髪が光を透かせていて、息をつめる。

手をとれば、力強く体が引き上げられる。

そして、あまりに自然な動きで腰に腕を回されていた。

(なんか、近っ!んで、なんか甘ぇ匂いがす…る)


「あ!」
ぶつかった拍子に手土産のロールケーキを投げ出していたことを思い出す。

強引に男から離れて紙袋に駆け寄った。
アスファルトで擦れた店のロゴ入り紙袋と、角が拉げた長方形の箱。
きれいにラッピングしてくれているから、それを今、この場で広げて中身を確認するのも恐ろしい。

「ありゃ…これ宇治銀ロール?」
またかかった声に顔を向けた。

「ごめんね。そうだ金さんが買い直してあげるよ。で、そっちは俺がもらうから」
人懐っこく、『金さん』と自分のことを呼んだ男は笑った。

金髪に天然パーマ。
黒のスーツを着てはいるが、シャツは深紅。
胸元のシンプルなピンクゴールドのネックレスがきれいな鎖骨を強調しているようだった。

「いえ、ぼんやりしてた俺が悪いんです。あ、それよりそちらは大丈夫でしたか?」
「大丈夫だし。こっちも兄貴の使いでちょっと急いでたもんだから、よく回り見ないで出てきちゃって…悪かった」
『金さん』が出てきたのは老舗の和菓子屋だった
甘いものをあまり好まない土方が、その店を知っていたのは甘さに控えめだから今度食べさせてやると恋人が言っていたからだ。

「あれ?」
『金さん』がずいっと土方に顔を寄せてくる。

「ななななんですか?」
やはり、この人は距離が近い。

「綺麗な顔してんな〜とかドストライクだなとか思っていたんだけど」
顔が更に近づいてきて、1歩後退しようとしたが、またいつのまにか腰に腕が回され叶わない。
何だか不可思議なことを言われた気がする。

「君、もしかしてトーシローくん?」
「へ?」
顔があと10センチのところまで近づいてきていて、睫毛も金色なのかとか変なところに気をとられていて妙な声で聞き返してしまった。

「あの…アンタ?」

突然、目の前が金色から白に替わった。
正確には白地に『糖』と書かれた1文字。


「なぁにやってるんです?」
すぐ頭の後ろで聞き慣れた声がした。



「先生っ」
元々『恋人の家族に挨拶にいく』という行事に緊張していた上に、
次々に起こる想定外の出来事に混乱していた土方は往来であることも忘れて、振り返り様に抱きついた。

「おや、熱烈ですね。ウチの愚弟がご迷惑をかけたようで、申し訳ない」
大きな手のひらが背を撫でてくれ、少し落ち着きを取り戻しかけていたのだが、
また硬直した。
違和感があるのだ。
鼻腔を掠める煙草の匂いが違う。
頬にあたる衣類は高校生の土方でもわかる上質な手触り。

「銀時…」

『金さん』が呼ぶ名に勢いよく顔をあげ、相手を確認する。

「『銀時』…さん?」
「はい」
にこりと男は笑った。

跳ね返った銀髪天然パーマ。
眼鏡の奥で細められる赤みかかった瞳。

恋人である坂田銀八と同じ特徴をもちながら、違う人物だった。

眼鏡は太めのプラスチックフレーム。
臙脂色のスーツにレモンイエローのシャツ。
ネクタイも個性的だ。
手触りからけして悪い商品ではないはずなのに『胡散臭い』とつい相手に思わせる格好をしている。
そして、胸にはこれから土方が目指す司法の職についていることを示す弁護士バッチが輝いていた。

「あの…もしかして…」
「初めまして。坂田銀時です。そこにいる腐れホストは坂田金時」

呆気にとられる土方は何故かもう一度銀時に抱き締められてしまった。

「ようこそ、坂田家へ」
土方は今日、もうこれ以上驚くことはないだろうと、深くため息をついたのだ。




『be well off T 』 了







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