幕―時成る―戌威星の大使館への爆弾テロを警戒して、張り込んでいる最中のことだ。 大使館前から逃げ去る桂を双眼鏡越しに目視し、いよいよ拠点を叩くためのシナリオを頭の中でもう一度確認する。 爆風と追っ手を避けるために走り抜ける者たちの中に、見慣れぬ銀色がいた。 洋装に白い着流しを纏った風変わりな衣裳に天然パーマ。 翻った流水紋の柄が記憶に残る。 はて、と土方は煙草の煙を肺に吸い込み、考える。 知っている顔だと思ったのだが、曖昧だ。 桂小太郎の手配書を眺め、桂関連だろうか ニコチンは思考をクリアにしてくれる効果をもたらしてくれるが、どうにも銀髪のことは明確に思い出せない。 「オイ、起きろ」 まとまらない思考の代わりに紙を丸めて、昼寝を決め込んでいる沖田に投げつけた。 「真選組の晴れ舞台だぜ」 武州から出てきて、浪士組から真選組に。 大将である近藤を軸に走って行く。 それに変わりはない。 「楽しい喧嘩になりそうだ」 喧嘩の予感だけではない、別の予感を感じながら、無意識に土方は心臓の上を握りしめたのだ。 『時成る』 了 (194/212) 前へ* 【献上品・企画参加】目次 #栞を挟む |