うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

『Skyshine-calorific value U -』




そんな出来事があってからも、表面上は変わりはない。
次の日から、土方は今まで通り「寒ぃ」とこぼすものの屋上で昼休みは過ごすし、他愛のない話もするようになった。

だが、土方の様子が何処か上の空に感じるのは何故だろうか。

(受験勉強のせい?)
銀時は都内の専門学校に通う予定だから、受験らしい受験はないに等しく、
成績を重視される土方のクラスのことは今一つわからない。
そんなことが理由ならば、受験が終われば済むことな気もする。

土方の志望校も都内の筈だから、今ほど頻繁ではないにしても会おうと思えば会えないことはないはずだ。
そう思いたかった。

それなのに、どこか元の『オトモダチ』を続けられるのだろうかという焦りのようなものが銀時の中に起こりつつある。

きっと土方が時々突然作り出す『壁』のようなもののせいだろう。
会話の途中でも、不意に目を反らされたり、
妙に言葉を選んでいるような節があるのだ。

(なにかしたっけか?心当たりとしては、毎晩のように『オカズ』にさせてもらっていることぐらい…?)
その辺は極力出さないように出さないように気を付けているつもりだ。
ドン引きされて、傍に近づけなくなる方が今の銀時には辛く感じる。

A組の伊東とやらの言いかけた言葉も気にならなくはないが、
あの男に聞きに行くのも癪だ。

「あ〜キツイわ…」

無自覚の土方に煽られ、惑わされ、それでも離れようという発想が自分の中に存在していないことが厳しい。
いっそ、相手が女子で性別的な障害がなければ何か違ったのだろうか。

IFと唱えても仕方がない。

長くため息は、少しずつ冷え始めた外気に白く染められた。





文化祭当日。

3年は一部の自主的参加クラスや有志以外は後輩のクラスを冷やかして回ったり、
自由に過ごす者が多かった。

「お?珍しいじゃねぇの」
廊下で珍しい人物の顔を見つけて銀時は声をかけた。
「よぉ。久しぶりだな」
学校に出てきたり来なかったりの高杉だった。
高杉を心酔しているらしい2年の金髪女が甲斐甲斐しく飲み物類を持って後ろについて回っているようだ。

「そういや、銀時。土方とはどうなってんだ?うまくいってんのか?」
「ぶ!それどういう意味だよ?」
(そうだった。こいつはそういや最初からいちゃついてるだとか何とか言ってやがったんだっけか。本人より先に気が付いてたのか、ただ、あてずっぽなだけなのか微妙なところだな…)
たまに出てくれば屋上で土方と一緒のところに出くわすことも少なくないから察しているのだと思った方が間違いないのかもしれないが、一応尋ねてみる。

「あ?なんだ?銀時。まだヤってねぇのかよ?」
おもむろに情けないなと顔に出されれば、顔を引きつらせるしかない。

「なななななに言ってくれちゃってんだろうね?晋ちゃんんんん?」
「ヤるっつったら一つしかねぇだろうが?土方とセッ…」
「わぁぁあっぁぁぁぁぁぁ」
デカい声を出しながらその口を無理やり手で覆う。

「苦しいだろうが!やめねぇか!うすら天パーが!」
「ぱーって伸ばすな!ってか!ほんっとでれかしーのないやつだなオイ!」
「デリカシーな?それであんな妙な噂が流れてんのか…」
ふうんとかほうという声をだしながら、高杉は訳知り顔で顎を撫でながらニヤニヤと笑う。

「噂?」
「オメーがとうとう猿飛と付き合いだしたとか、土方が同じクラスの伊東に告られただとかだ」
「は?」
聞き捨てならない。
猿飛とのことは、どうせ皆からかい半分だろうが、後半のそれは寝耳に水だ。

「んじゃ、オメーの方の話もやっぱガセなのか」
「当たり前だ!さっちゃんは可愛いかもしれねぇけど!俺は積極的なドM女苦手なの!」
「そのドM女が交際宣言をしたとか聞いたやつがいるってよ」
一瞬、コーヒーショップでの猿飛の発言を思い出し、その横にいた土方の顔が浮かぶ。

(いや、土方がんなこと言いふらすとは思えねぇ…)

では誰だ?と必死で思い起こす。
あの時、一緒にいたA組の中の誰か…
あまり男の顔を覚えることが得意ではないが伊東もいなかっただろうか。
この間、あんな風に絡んできたのは土方に気があったからだと思えば合点がいく。

「なんか思い当たったようだな?」
やはり高杉は楽しそうに笑う。

そして、指さした。
「土方なら…」

指の先に近藤たちと歩く土方の姿があった。



どうやら、部の出し物の片づけを手伝っていたらしい。
一個連隊は各自段ボールや資材を抱えてゴミ捨て場に向かうところだったようだ。

何も言わず、ただ土方の手首を掴む。

「あれ?銀時?」
驚いて相変わらず瞳孔が開いた瞳を広げた土方の代わりに最初に声を発したのは近藤だった。
「ちょっと…こいつ借りるよ?」
土方の顔を見る。
ただ、真っ直ぐに。
返事は確かに近藤に向けて口に出しながら、視線は動かさない。
動かせない。

「旦那、ドMの奥さんはいいんですかぃ?」
次に声をかけてきたのは沖田だった。
「そんな奥さんなんざいねぇよ。生憎とな」
今度も顔は動かさない。
強く握りすぎているという自覚のある土方の手首から動脈が波打つ感覚さえ逃さないように集中する。

「土方」
「わかった…悪い近藤さん。部の奴らには…」
「後で、後夜祭の時にグラウンドで会えばいいさ」
土方の荷物をとても高校生だとは思えないスキンヘッドや近藤が引き受けてくれる。

「すまねぇ」
「悪い」
銀時も短く詫びをいれ、もう一度手を掴んで歩き出す。

後ろで「シネヒジカタ」と物騒な言葉とは反対に楽しそうな声色が聞こえた気がした。




無言で歩いて、
無意識のうちに辿り着いたのはいつもの屋上だった。

「で?なんなんだ?一体?」
ゆっくりとポケットから煙草を出すと、土方は落ち着かない様子でライターで火と灯す。

「あのさ…」
何を言いたいのか。
先ほどまでわかっていた気がするのに。
ここにきて、すっと血の気と言葉が消えうせた。

何を言いたいのかはわかっている。
でも、何を言うべきなのかわからなくなった。

「だからなんだ?」
「いや…」

自分は何をいうつもりだったのか。
玉砕してしまえと気持ちを伝えるべきなのか。

「テメー…大丈夫か?そういや、猿…」
「んなわけはねぇ!」
いきなりの大声に土方の手元がビクリとして、灰が一塊、零れ落ちる。
まずは、猿飛との関係を否定すべきか。

「土方…あのさ、なんか勘違いしてるみたいだからもう一度言っとくけどさ。さっちゃんとは付き合ってねぇから」
「そうかよ?アイツはテメー追っかけて同じ専門学校に進路変更したって…」
「へ?それ銀さん初耳だし!いや、そうか!俺が今から頑張って土方と同じ大学?いや、そりゃさすがに無理か…」
良い思い付きだと思ったが、成績を今から土方の希望校に引き上げるのは到底無理だと項垂れる。

「あんだよ?話ってそれだけか?」
「いや!ちょっと待って!土方こそ!」
さっさと平静を取り戻した様子の男は階下への扉に手をかける。

「伊東の野郎と、その、付き合うことにしたの?」
だから、夕焼けに染まる屋上から、後夜祭の準備がどんどんと整っていくグラウンドに早くいきたいのかと。
「あ?付き合うわけねぇだろうが!」
茜色となった光は、まだ日中の熱を銀時と土方にコンクリートに反射させてくる。
それでも、頬にはその熱と共に、冷たい秋風も同時に当たってくる。

「なぁ、オメーはさ…」
放った言葉、気持ちが散乱されても戻ってくれば良いと去年の夏は思った。
銀時が放出する熱を少しでも。

でも、どんどん欲深になって行く自分がいる。
離れたら耐えられる余裕があるはずはない。

「なぁ、グラウンドいこ?」
話の展開についていけず、土方の瞳孔が珍しく閉じ気味になっている。

「坂田?」
「俺は土方と行きたいの!他の人との同伴は認めません」

くしゃりと土方の顔が歪んだ。
痛すぎると、ドン引きされたかと冷や汗がどっと出てくる。

「…冗談…ならもういいから」
「は?」
冗談ってなんだ?とこちらが混乱する。

「坂田は坂田の交友があるし…」
「なに?それ遠慮してたの?」
ぺたんと土方は床に座り込むと膝を抱えるような体勢で俯いてしまった。
「卒業したら…坂田のいない生活になれねぇといけねぇとか、
 彼女ができたんなら、祝ってやんなきゃだとか…」
「んなこと心配してた?」
こくんと頷くから。
勘弁してくれと頭を垂れるしかない。

「あのね…土方」
否定としようと傍にしゃがみこむ。
ぽつりぽつりと土方は言葉を落とし続けていく。

「でも、なんかよ…そんなこと考えてたら…胃が痛くなって…どんどんいやな奴になっていっちまう自分が嫌で…」
「土方?」
まるで独り言のような言葉たち。

(まるで…)
俯く顔は陰になっていて、分かり辛いけれど。

「なぁ、土方も俺のこと…もしかして…好き?」

口に出して尋ねてみて、そして後悔する。
ビクリと土方の肩がこわばったのがわかったから。

「…『も』って…?」
「はい?」
少しだけ土方の視線が上がってきた。
眺めの前髪の間から、青みがかった瞳がこちらを見ている。

こんな時、なんと言えばいいのかわからない。

迷って一度、空を仰ぎ見る。
薄暗さが増した空と、準備の為につけられたグラウンドのライト達。

でもどうせ止められないのだと腹を括った。

「だから、一緒に後夜祭で踊ってくれんのが土方ならいいなって思ってんですけど?」
「俺、女じゃないけど?」
やはり、わかっているのか、わかっていないのか曖昧な返事。
でも、一年前よりは土方のことを知ったつもりだ。

一見クールに見えて意地っ張りで。
人相も柄も悪いのかと思えば天然でお人好しで。
友達が少ないと思い込んでいるから、皆の心配に気が付かない。
何時だって一人で何とかしようと、迷惑をかけまいと気を使う神経の細やかさも持っていて。

土方の腕を取って、半ば強引に立ち上がらせる。

「まぁ色々…男同士のことだとかその辺は追々俺が教えてやっから…」
「あんだよ?そりゃ…」
ようやく少し土方の口角が持ち上がった。

「こちとら一年もオメーの返事待たされてんだからぞ?コノヤロー」
寒いと評する方が良いくらいの気温が心地よいほど頬が火照ってしまったから。

ゆっくりと時間をかけて戻ってきた熱量。
それが今度は長く『ここで』発熱しつづけてくれたら良い。

そんなことを思いながら、高校生活最後の後夜祭に想い人の手を引きながら向かう。

ついさっきまで爪の先ほども信じていなかったジンクスが本当であることを祈りながら。







『Skyshine-calorific value 発熱量 -』 了





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