弐「俺たちの…俺たちの関係ってなんていうんだろうな…」 場末の宿で一戦交えて、ごろりと天井を眺めて心地よい倦怠感に浸っていると、隣でうつ伏せになって、ようやく息が整えたらしい相手の声が耳に入ってきた。 ぽつりとこぼれ落ちた呟きは、問いとも、自嘲とも、否、その両方を含んでいるようにも思え、返答すべきなのか、流してやるべきなのか、銀時は迷った。 当の本人はじっと己の口元に挟んだままの煙草の先を眺めている。 その目元は赤い。 まるで、今にも泣きそうな、と形容しかけ銀時はゆるりと首をふる。 まさかだ。 隣にいるのは土方十四郎だ。 散々、自分の下で喘いでいたとはいえ、相手はそんな男ではない。 銀時と体躯の変わらない男だ。 整った顔はしているが、女性的ではない男前だ。 大人しい性格でもない、むしろ好戦的な男だ。 強面集団・男ばかりの武装警察を肩で風切り率いる猛者だ。 泣くはずがない。 矜持の高い男が。 男の視線は煙草の先からじじっと今にも落ちそうな灰から動かない。 それがなんだか許せなくなって、半身を起こし、煙草を奪う。 少し驚いた顔をして、澄んだ青灰色が銀時に向いた。 この瞳が自分を追っていることに気が付いたのはずいぶん前のことだった。 銀時は普段、忌々しい天然パーマのせいでモテないと周囲の者に言っているが、それは、秋波を向けられはするけれど、結野アナのような『意中の相手』にはモテない、との但し書きが付くからだ。 銀時とてれっきとした成人男性であり、欲は人並み、いやそれ以上に有る。 向けられた秋波の中から、後腐れのない一夜限りと割り切ってくれるオンナを選んで床を共にしてきた。 一回寝たからといって彼女面するオンナも、言いふらすオンナも、旦那が居て刃傷沙汰になる可能性があるようなオンナも、面倒が少しでもあるオンナは御免だった。 つまりは性欲をお互いの合意で解消させてくれる相手に限る。 だから、いくらいい女でも、もしも積極的に迫られる可能性があるならば答えることは全くもってなかったのである。 なのに、と、灰皿で煙草をもみ消して、今までそれを銜えていた唇に自分の唇を押し付けながら不思議に思う。 銀時を嫌っていると思っていた土方が、惚れた腫れたの類の視線で銀時を見ていると気がついても、面倒だと思いこそすれ、最初は答える気など全くなかったのだ。 第一、男なんてありえない。 セックスさせてくれる女ならいつでも捕まえられるのだから眼中に入るはずもない。 それなのに、時を重ねるうちに、隠し通せていると思い込んで銀時の揶揄う言葉に嬉しさを滲ませながら喰ってかかってくる様子や、大将の為に奔走する姿を徐々に悪くないと思い始めた。 抱かれるのは御免だが、女装しているわけでも、華奢でもない体つきでも、こいつなら抱けるかもしれないとまでに、いつしか。 くちゅっと両者の間で唾液が交換され水音が響く。 薄眼を開ければ、ふるりと黒く密集したまつ毛が揺れていた。 つけまつげもマスカラも、アイラインもない目元。 ファンデーションで荒れていない肌理はきめやかだ。 じわじわと再び持ち上がってきた愚息を引き寄せた土方の腹にこすり付ける。 はぁっと土方の口元から熱い息が吐き出された。 一度つなげてみれば、この男の身体は今までにない快感を充足を銀時にもたらした。 「オイ…」 土方の太ももを撫で始めた銀時の手のひらをとがめる様に低い声が耳朶をくすぐる。 さんざん声を押し殺し、吐息だけで喘いだ声はかすれ、それがまた銀時をほくそ笑ませる。 「いいだろ?足りねぇよ…」 太ももを持ち上げ、銀時は足の間に移動する。 切っ先で縁を軽くなぞれば、ひくりと蕾は蠢き、先ほど吐き出した白濁が絡んでくる。 白濁をなすりつけるように、縁と陰茎と玉を銀時自身と視線で刺激すれば、羞恥で土方は朱に染まり、目にも楽しい。 もう両手両足では数えきれないほど体を結んだというのに、いつまでたっても生娘のように物慣れない仕草、恥じらいは銀時の脳を煽る。 後孔をほぐし、拡げる手間を除けば、銀時を受け入れる場所は熱く、絡みついてイきにくい体質の銀時の半身をこの身体は何度も頂点に導くのだ。 手放すのはもったいない。 「つきあってる…んだろ?俺ら?」 ぐぶりとカリまでをひとまず押し込んだ。 「よく…言う…」 「ん?」 すぐに突き上げたい衝動を押し殺し、わざと嵩張った部分を使ってゆるゆると入口だけをこねまわす。 オンナと違い、オトコは感じているかいないか、視覚で確認できる。 土方のものもすでに勃ちあがり、息もあがっているにも関わらず、やはり自嘲気味に口元は持ちあがり、目は硬く閉ざされていた。 「オンナ…」 土方の言葉に一連の流れを理解した。 土方と定期的に会うようにはなっていたが、男の仕事で約束が反故されたり、次の非番まで間が開いてしまう時には、そういうオンナで欲を散らし続けていた。 欲が溢れそうになった時には神楽や新八の目に耳に触れないよう、かぶき町から少し離れた場所を選んでいたのだが、土方は江戸全域を警邏するから、どこかで見られたのだろう。 「俺さ、二度寝しない主義なんだよね」 ことさらゆっくりと己の存在感を感じさせるために砲身を腸壁に擦りつけながら腰を進めた。 「オメェと会えない間の繋ぎでしかねぇよ?こうやって約束して会ってんのは…」 最奥まで切っ先が届いたところで、土方の足を胸に付くほど曲げさせ、上方向から更に奥に届けとばかりに押し込めば、とろりと先走りが締まった腹の上に流れ落ちていった。 「土方だけ」 先走りを指先で押し戻す様に刺激すれば、抑えきれなくなったあえやかな声が零れ、水膜の張った目が銀時に戻って来た。 睨むような強い視線がこちらを向いた。 漸く、銀時は満たされた気がした。 「気にするんなら、もっと時間作れよ」 あとは欲の赴くまま、腰を思いのままに振る。 本当にこの身体は飽きがこない。 悔しいが嵌っていると言われても否定は出来ない。 オンナとは一回の性交で1度か2度、吐き出せばそれで十分だというのに。 銀時は呻き声を零しながら、今晩、何度目かの精を、数えることを止めた精を土方の躰の中に振り撒いた。 『恋草―弐―』 了 (150/212) 前へ* 【献上品・企画参加】目次 #次へ栞を挟む |