序「土方くんってさぁ…」 秋晴れの下。 野点傘が影を落とす緋毛氈に腰かけた男、坂田銀時は、そこで言葉を一度切り、土方の皿から団子の串を持ち上げる。 それから、赤みかかった瞳がゆらりと土方に向かい見据えた。 「土方くんってさ、銀さんのこと、好きでしょ?」 「は?」 「いや、だから好きだよね?勿論、惚れた腫れたの意味で」 勝手に人のみたらしを取るなと罵声を飛ばすことも忘れ呆気にとられる土方を薄く笑い、団子の串を土方に突きつける。 「………んなわけ…」 「え?もしかしてバレていないとか思ってた?」 ことさら、ゆっくりと一つ目を口に含み、歯で押さえて串を引き抜いて、もっちゃもっちゃと咀嚼しながら今度は坂田の方が驚いた口調をしてみせた。 「バレていたもいねぇもねぇ。そんな事実はこれっぽっちもありえねぇ」 「オメェ、ツンデレも度が過ぎると可愛くねぇよ?」 「可愛くてたまるか…」 下を向いて、新しい煙草をポケットから出す土方の手はかすかに震えていた。 そのことに気が付いている銀時は口元を更に引き上げ、追い打ちをかける。 「でも、好きだよね?おつきあいしてみる?」 「なに言って…」 「だから、オツキアイ。おしべとめしべがドッキング的な? あ、俺らの場合おしべとおしべだけど、まあインできるって聞くしよ。 まぁ、ぶっちゃけ、銀さん特定の女いねぇし? 土方くん嫌いじゃねぇし? 男試したことねぇけど、どうにも息子のセンサーが土方くんに反応するし?」 真昼間の団子屋の店先でする会話ではないと眉を顰めるものは幸いなことに土方以外にいなかった。燦々と日差しは穏やかに二人の肩に落ち、喧騒は二人の会話を妨害することなく流れ続けている。 「………最低だなオイ」 土方の視線がいくら強くとも、睨んだだけで煙草の先に火が付くことはない。それでも土方の手はライターを持ち上げるでもなく睨み付けたまま、返した。 「最低だけど、男にとっちゃこれ以上誤魔化しようのねぇ基準っちゃ基準でしょうが? で、どうすんの?」 「どうするも何も、性質の悪ぃいたずらにのるか。総悟とでもタッグ組みやがったんだろ?」 「沖田くん関係ねぇし、ふざけてねぇよ?なんなら今すぐ証明してやる。 明日非番?」 坂田は土方の腕を掴んで、強引に立ち上がらせると、喚きたてる声を無視して歩き出す。 辿り着いたのは、路地裏の奥の奥。 つまりはそういうことをする宿。 「ほら、やっぱり…土方くんいいわ」 躰の相性とほくそ笑む男が土方の上で揺れる。 混乱したのか、流されたのか。 あるいは両方なのか。 どちらともに正常な判断が付かないまま、二人は躰を繋げ、荒い息を重ね、快楽の海にダイブしたのである。 『恋草―序―』 了 (148/212) 前へ* 【献上品・企画参加】目次 #次へ栞を挟む |