『午睡』前触れなく、万事屋の玄関が開かれたのは午後2時を回った頃。 「30分場所貸せ」 勝手知ったる家の中にズカズカと上り込んだ鬼の副長は、ソファでジャンプを読んでいた銀時にぶっきらぼうな口調で言った。 「布団敷く?」 「いや、いい」 奥の間に入り込むと腰から刀を抜いて、重たいジャケットを脱ぐ。 それから目と閉じる前に携帯の目覚ましをセットしたようだ。 応接室にいる銀時の耳に、寝息が聞こえるまで、ほんの数分とかからなかった。 完全に眠りについたのを見計らって銀時も腰を上げて和室に移動する。 まるで、ふらりと気まぐれな猫を警戒させない配慮に似ているなと小さく笑い、自分と異なるサラサラとした黒い髪を撫でた。 目の下に張り付いた隈と数週間見ないうちに薄くなった身体。 きっと連日、徹夜でもしていたのだろう。 昼休憩のわずかな時間。 時折、ここに土方はやってきて仮眠をする。 今日は天気がいい。 午後の日差しは畳をぽかぽかと暖めていた。 「俺も昼寝すっかな」 神楽は定春を連れて遊びに行っているし、新八も親衛隊の会合だと言っていたから夕方までは戻らない。 土方の横に寝そべって、差し込む日差しに目を細めた。 フォローばかりしている男に手を貸したいわけでも、貸せるわけでもないけれど、 口ではつれない事ばかり言う男が、この場所を、銀時のいる空間を選んでくれているならそれで十分だとも思う。 「ん…」 銀時の指が耳にあたってくすぐったかったのか土方が寝返りをうつ。 その拍子に銀時の髪に今度は土方の指が触れた。 そのまま銀時の頭上で指は探る様に、撫でる様に手遊びを始める。 まるで犬猫を撫でるような仕草に、また銀時は小さく笑い、もそもそと身体を移動させて土方の小さな頭を肩に乗せた。 枕としては、少々固いかも知れないし、銀時自身も重たいと言えば重たいのだが、寄せられた体温が日差しに相乗効果を与えて気持ちが良い。 どうせ、あと20分もすれば目覚ましが彼を現実に引き戻すのだ。 その間だけでも。 目の裏に映った光の紋様と屋根の上を歩く雀の足音を愉しみながら、静かに息をついた。 『午睡』 了 (145/212) 栞を挟む |