うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ




慌ただしく二階の万事屋に着くと、ソファに取りあえずとばかりに座らされた。

「おい万事屋、どういうつもりだ?」

座らせた本人は台所の方へ一度向かい、すぐに戻ってきた。


「だからさ、ちょっと聞きてぇことあるんだよ。
 どっちにしても、んな悩ましい状態で屯所に戻るって神経もどうかしてっだろ?
 オメー。そんな風に危機感ゼロだから、あんなストーカーにつけこまれんだよ」
「うっせ!巻き込んだこたぁ悪ぃと思ってるが、俺も正直まだ掴めてねぇところもある。
 また日を改めて…」
ガラスのコップに氷が浮かべられた水が押し付けられる。

「ま、これでも飲んで落ち着けよ。
どんな薬盛られたかしらねぇけど、オメーは身内に気ぃ許し過ぎなんだよ」

確かに有難い。
口直しに飲めということなのだろうと素直に口を付けた。

坂田に言われるまでもなく、甘さについては嫌というほど思い知った。
勤務シフトが洩れているようだと思った時点で、内部の者の犯行、もしくは手引きの可能性はあったのだ。
しかも自室まで入り込んで物色されていたとは。

コップに口をつけたまま様子をやや上目使いに窺えば、どこか緊張した坂田の様子が読み取れて土方も更に落ち着かなくなってきた。


「で、何が聞きたいんだよ?」
「一通目の手紙」

コップの底に残った氷を見つめながら問いの意味を考える。
ストーカーまがいのことをしでかした男も一通目の手紙は出していないと言っていた。
あの混乱した様子で嘘をついているとは思えない。
白紙の送り主は他にいる。

「一通目に関しては結局のところ俺にもわからん…
 二通目、いや二通目だと思っていた文に白紙で出してしまってと書いてあったから
 さっきまで同一人物だと思い込んで…」
「そこじゃなくてよ」

じゃあ、なんだと首を傾げれば、歯切れ悪く坂田が後頭部のあたりをかき回しながら視線を逸らしたまま続けた。

「あのストーカー、一通目を特別扱いしてたから利用したっていってたな?」
「…さぁ…言ったか?」
言っていた覚えはあるが、正直なところ、そこを突っ込まれたくはない。

「言った。なんでだ?その文からのイメージから誰かを思い浮かべて、
 そいつを想って書いたんだろ?」
「…誰だっていいだろ…第一、何の関係があるんだ?」

坂田はこんな風に無粋に相手のことを面白半分に暴き立てる男ではなかったはずだ。
なにか別件でも絡んでいるのだろうかと相手を見れば仕方ないとばかりに向かいのソファから立ち上がって、土方の横に移動してきた。

「俺からかも、なんて考えなかった?一通目」
「な、なん…で…テメー」
真横から珍しく死んでいない魚の目で見つめられ、しかも、心中を読まれているような言葉に心臓が跳ねる。

「考えなかった?これっぽっちも?」
「あぁ、考えなかった」
「嘘だな」
「嘘じゃねぇし!な、なんだこの距離は!?」

寄せられた顔を避けようと身を引けば、スカーフを掴まれ妨害される。
後ろ手に着いた土方の手と、土方の腰横に置かれた坂田の手がソファを軋しませた。

「嘘だろ?嘘じゃなきゃ、なんで逃げねぇ?」
「な…んでって、力がまだ入らねぇからだろ…」
「力はもうずいぶん戻ってるよな?さっきグラス持ってる手見てわかってる。
 それに、言ったろ?オメーは身内には気を許し過ぎ。
 逆を言えば他にはツンツンすぎるぐらいツンツンなんだよ。
 それがノコノコ、男の家に連れ込まれやがって…」
「万事屋?」
「期待すんだろうが」
徐々に近づいてくる覇気のある目にただ見とれていた。
見とれていたために、ふにと自分の唇に暖かいものが押し当てられた状況をすぐに脳が理解できてはいなかった。

「だから、土方くんは、こういうこと誰にもさせるわけじゃねぇだろ?」
「あ、当たり前だっ!」
「つうことは、この距離許すって時点で銀さんのこと受け入れてるよね?」
「そ、それは…」
引き抜かれたスカーフの下。
蚯蚓腫れになりはじめた首元の傷を強く吸い上げられ、そのまま舌が大きな血管を辿るように這い上がってきた。
ぞくりと腰に響くような感覚に思わず、坂田の肩を強く掴む。

「さっき押し倒されてたのは薬のせいだけど、今は自分の意志で逃げないだろ?」
耳元で低い声を吹き込まれれば、混乱は更に増していくしかない。

「なんで…」
節くれだった手がベストを、シャツを、土方の心を更に暴くかのように開いていく。
土方の気持ちは明らかに坂田に見透かされている。

なぜ、こんなことを坂田はするのか、
なぜ、こんな状況に陥っているのか。

衆道の趣向を坂田が持っている気配はなかった。
受け入れる気がないのにもかかわらず、捨て置いておいてくれないのは、それほどの不快感を与えたからなのだろうか。
それとも、本来底抜けのお人好しは坂田自身が悪者になって土方に諦めさせようとしてくれているのだろうか。
土方が思いつく理由などそれくらいであり、そのどちらにせよ、坂田に迷惑をかけていることに違いはない。

「わかったから…やめてくれ」
「え?」

掴んでしまっていた肩を押せば、大した力を入れなくても坂田は弄っていた手を離した。

「無理に嫌いな奴を気遣うなんざオメーらしくねぇ…気持ち悪ぃだろ?」
「気持ち悪い?俺にこんなことされて?」
「逆だ。テメーが気持ち悪いの我慢してんだろ?」
坂田はソファから立ち上がり、土方を上から見下ろしていた。
日が落ち始めた万事屋の室内は茜色に染まりつつ、深く影を落とす。

「つまり、土方は気持ち悪くないって、俺を受け入れるって認めんの?」
「…性格悪ぃな…」
「その性格悪いの好きになったのはオメーだろうが」

幸いなことに影は蔑んでいるであろう坂田の表情を隠してくれていた。
土方は居た堪れず、兎にも角にも万事屋を出ようと立ち上がったが、一度退かれた手が再び伸びて、がちりと揺るぎない力で掴まれる。
そのまま、玄関とは別の方向に誘導された。

器用にも片手で土方の腕を掴んだまま、押し入れから敷布団を引っ張り出す。
上の乗せられた掛布団は荷崩れしたかのようになだれても、お構いなしに部屋の中央まで引きずり、足で多少歪みを整えた。

「!」
気が付けば、足を払われ布団の上に転がされていた。
受け身はとって派手に尻もちをつくことはなかったが、すぐさま覆いかぶさってきた坂田の身体に立ち上がるまでには至らない。

ボタンを既にすべて外されていたとシャツがベストと一緒に広げられ、胸筋から脇腹を手のひらが通り、スラックスの縁を通ってベルトの金具にかかる。

「何してやがる!」
「何って…気持ちが通じ合ったらスルことなんか一つだろ?」

赤みかかった目とぶつかれば、手を拘束されているわけでもないのに、抗うことが出来ない。そのことが己の浅ましさを突きつけられたようで、目を閉じた。
瞼に目尻に口接けが落ち、完全に背中を布団に触れた。同時に腰を少し持ち上げられスラックスと下着が一緒に引き抜かれる。
力を込めた指が、すでに勃ち上がった土方の中心をなぞりあげ、羞恥に顔が真っ赤に染まる。
一度手と体が離れ、布ずれの音が聞こえた。

「なぁ」
恐る恐る目を再びあけると、雄らしい顔つきが眼前にあり息をのむ。
着流しも、インナーもすでに脱ぎ捨てていた。
寛げたズボンから顔を出した坂田の中心は明らかに熱を帯びていた。

「俺も土方に触れてるだけで、もうこんなになってんだ、気持ち悪いとかあるわけねぇ」
今度はくるりと透明な液体をこぼし始めた先を指の腹で撫でられ、腰が跳ねた。

どこか獣じみた口づけが口を覆い、肉厚の舌が土方の中を蹂躙する。
舌を誘い出され、甘噛みされ、流し込まれた唾液が土方のものと合わさって口端から流れ落ちた。

ぎゅっと押しつぶされた乳首から頸椎に痺れが走り、間違いなくそんな場所からも快感を拾う身体に惑った。
荒い息遣いは土方一人のものではない。
そのことを唯一の安心材料にしてどろどろと溶けてしまいそうな思考に流される。

丁寧に、土方の身体のパーツ一つ一つを確認するかのように、湿ってはいるが、少し荒れた唇が肌の上を這って行く。

急な展開に脳が状況についていくことができないまま、腰を持ち上げられ膝が胸に着くほど体を曲げられた。
完全に勃ち上がった分身が目の前で揺れ、それをこれ見よがしに下から上へと舐め上げられ、引きはがそうと銀色の髪に手を伸ばす。
想像してよりは少し硬い弾力のある天然パーマは指に一瞬絡み、頭が土方の更に奥まった部分に降りたことで滑りぬけた。

「おい!万事屋っ」
「オメーだって痛ぇ思いするの嫌だろ?ローションなんて気のきいたもんねぇし」

流石に我に返り声を上げた。
静止の声は聞き入れられることなく、土方の蕾を唾液を乗せた舌が這い回る。
男女の営みでない以上、その場所を使うことぐらいは土方も知識としては知ってはいたが、よもや排泄器官でもある場所をなめられるとは思っていなかったのだ。

入り口をふやかすかのように執拗に唾液を送り込まれ、指がそろそろと押し込まれる。

「痛いか?」
指と舌先が体内に埋められ、痛みよりもその違和感と恥ずかしさが上回っており首を左右に振る。

「力抜け…つっても難しいか…」
顔が蕾から離れ、ホッとする間もなく、灼熱を擦りあげる動きがプラスされる。
追い上げられ、内またが痙攣を始めてから、欲を吐きだすまでにそれほどの時間はかからなかった。
胸部と顔に少し飛び散った白濁を坂田は拭いとり射精したことで弛緩した蕾に塗りこみはじめた。
少しづつ奥へ奥へと指が侵入してくる。
時間をかけれらている分、痛みはやはりないが、異物感はぬぐえない。
それでも気が付けば、三本が埋め込まれ、探るように内壁を擦られていた。
侵入する時よりは、早い速度でそれが引き抜かれ、思わず大きく身をのけぞらせた。

仰向けからうつ伏せにさせられ、思わず肩越しに振り返る。

「後ろからの方が楽って聞くから」
「いやだ」
「いや、つっても辛いのオメーだぞ?」
「構わねぇ…顔みてぇ」
今の状況が、信じられなかった。
だから、顔を見て確かに自分と繋がるのが坂田だと確認したかった。

「なんつう煽り文句言うんだか…」
「テメーの余裕のねぇ面見てやるっていってんだ」
「あぁ、そういうこと言うわけね?ヒィヒィ言わせてそんな余裕作ってやんねぇからな」
「上等だ」

再び、身体が表返えされると、ゆっくりと灼熱の先端が蕾を押し開く。
出来るだけ身体を弛緩させて、受け入れようと試みるが、指よりも大きいものにどうしても呼吸が乱れた。
はくはくと溺れる魚のように口を開閉を繰り返し、眦からは涙がこぼれた。
両の手は顔の横で握られ、その手に爪を立てるしか出来ない。

「っぁ…」
一番嵩のある部分が通過すると、気持ち楽になった気がしたが、それでも苦しいことには違いない。
腰を更に進めながら、坂田の上半身が土方のものに擦りあわされるように伸びあがってくる。

「…ふっ…はっ」

同時にさらに奥へ奥へと土方は坂田に浸食され、満たされていく。

坂田の腰が己の欲を放つためというよりも何かを探るかのようにゆらゆらと中を掻きまわすような動きをするうちに、堪えようのない痺れのようなものが土方を襲い、思わず高い声が喉からこぼれた。

「こ…こ?」
その一点を嬉しそうに坂田の灼熱でこすられ、眩暈をおこしそうだった。
握られていた手が坂田の背に誘導され、坂田自身の手は土方の中心を刺激する。
痛みはいつのまにか遠のいていた。





重たい瞼を土方は押し上げる。
天井を見つめ、横で上下する布団からはみ出す銀色の天然パーマをみつけて、
夢でもなんでもなく、今自分が横たわっているのが万事屋なのだと改めて認識した。
軋む体を出来るだけ、ゆっくりと起こし、己の身体を見回せばどろどろになった体は清められて、浴衣を着せられているようだった。


そして、勝手にではあるが、水を飲みたいと布団を抜け出す。

嫌われていると思っていた。
それが、なぜか今こんな状況になっている。

坂田の性格上、遊びや興味本位でこんなことをすることはないだろうが、と洗面台で顔を洗い、口を漱ぎ、水を嚥下して初めて気が付いた。
鏡に映った喉元。
瘡蓋になるほど吸い付かれ、齧られた情痕。
まるで田中だか、坂口だかに傷を上書きするかのような行為が蕾や腰の痛みよりも羞恥心をもたらし、思わず洗面台に顔を押し付けるほど顔を落とした。

「と、ともかく…連絡…」

平静を取り戻そうと自分のすべき行動をわざを声にだし、応接室へと戻った。
意外にも隊服はきちんと畳まれ、ソファーの上に置かれていた。
手早く着替え、携帯電話のワンタッチに登録している番号を呼び出す。
コールしながら、何気に万事屋の黒電話の横に置かれたメモ用紙の文字が目に入る。
依頼を受けた時のメモなのだろう。

「…あ…?」

見覚えがある。
すこし右上がりの、しかし読みやすい字。

『はい、佐々木です!副長!お加減いかがですか?』
朝から元気すぎるほどの音量で鉄之助の声が携帯から聞こえてきた。

「あ、あぁ…もう薬も抜けた。問題ねぇ」
『山崎さんが戻ってきてるんで!かわります!』
『あ、副長!田中に背後はありません。単独のストーカーだったみたいです。
 勝手ながら、田中からの手紙をお預かりしまして筆跡鑑定出しましたが、
 本人の主張通り、一通目と二通目以降の筆跡は別人のようです。
 どうしましょう?紙や指紋の鑑定まで…』
「いや、そこまでの必要はねぇ…」
後ろに感じた気配に、言葉を止める。

「なんでもねぇ。迎えをよこせ。5分だ。間に合わなかったら切腹な」
『ちょ!無茶言わんでくださいぃぃ』
山崎の喚く声が鼓膜を打ったが、構わず通話ボタンを切った。

「帰るの?」
「帰る」

死んだ魚のような目をしたまま、柱に背を預けて坂田が立っていた。
そのすぐ脇を通り抜けながら、ほんのわずか歩調を緩める。

「文は改めて」

俯き加減に零した言葉ではあったが、坂田が息をつめたことで通じたのだと察することが出来る。


ガラガラと万事屋のガラス扉を開ければ、陽が今日も昇り始めていた。
まだ遠いパトカーのサイレンの音を聞きながら、煙草に火をつける。


白紙の手紙。
綴りきれない行間。

自分はそんな文になんと返すべきか。
否、なんと綴るべきかなど、土方に白紙を送った男同様、わかるはずもない。

それでも、と
時計と睨めっこしながら血相を変えて飛び込んでくるであろう、山崎の到着を待ちながら、煙草の煙の昇る先を見つめ、小さく笑ったのだ。





『恋文』 了





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