うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ




Side 銀時



北斗心軒を出て、銀時は考えていた。


土方との間に今回生じたのは『喧嘩』の原因が問題なのではない。

当初はすぐにいつものとおり軽口をきいて、流せる程度のものだったのだ。
それがタイミングを一度二度はずすうちに、踏み出せなくなってしまっただけ。

この先、いくらでも起こりうるであろう現象であり、二人の未来を途切れさせる可能性をも示唆していた。

未来。

互いを護り合う関係ではない。
互いの護りたいものと天秤にかけたならば、互いの比重は明らかに軽い。

土方は強い。
自分の助けを乞うことは一生涯ありえないであろうし、助けるのは他の人間の役割だ。

いつかは。
いつかは自分を置いていく。
土方も。
「置いて行かれること」は恐ろしい。

どこをどうポジティブに考えようとしても、そこにたどり着くのだ。
それにマダオな自分といつまでも共にあるよりは、安定した結婚を取ることのほうが良いに決まっている。


では、どうするのか。
土方を自由にしてやるのか。

「…無理だ」
自嘲する。

今更なかったことには出来ない。
銀時に在る『土方十四郎』という人間は消せやしない。

消せやしないなら。

そんな風に結論が出掛け、土方をどうやって捕まえようかと思案の方向を変えかけた時だったのだ。


小石がブーツのかかとにぶつかった。
勢いはなかったから、後方から来た誰かの足が弾いたものだと想像がついた。

ただ、覚えのありすぎる気配に足が止まる。

消せやしないなら。


「土方…」

振り返り、黒い着流しを着た男を見止め、頬が緩む。

人はどうやって恋だ愛だと相手を認識し、
唯一の人だと位置づけることができるのだろう。

思い込みかもしれないではないか。
自己愛かもしれないではないか。

それでも銀時は土方を視界に入れた途端、自分は選び間違っていないと確信した。

消せやしない。
ではない、「消させない」。
自分の中で、土方の中で。
なかったことに出来る出来事なんて一つもない。

こんなにも全身が求めている。
狂おしいほど。

驚いた顔の土方は少し幼くみえる。

愛おしく、大切にしたいと思い、同時に壊してしまうほどその身体を蹂躙して独占したいとも思う。


「土方」

もう一度呼べば、土方は我に返ったようで、いつもの強気で真っ直ぐな瞳が銀時を射抜いてきた。


「明日はお休み?」
「…あぁ…」

長い睫は揺らがない。
蒼い瞳は拒否の色がない。

「あの、さ…知ってるか?」
「?」
「確か今日ってさ、初めてお泊りした日だった気がすんだけど?」
「………」
沈黙が続き、あれ出だし失敗したかと後頭部を掻いた。


「ばーか」
「馬鹿ってなんだよ?」
「今日じゃねぇ…今日は2回目だ。一回目はテメーんちだ。もう3週間もすぎてる」
「いんや!あの日はオメー泊まらなかったからカウントしませんー」
「語尾を伸ばすな!いい年して!気持ちわりぃ」
「うるせぇ!つうことで今晩はあん時の宿に決定な?」
「はぁ?」
まだ話の流れについてきてはいなかったようだが、
土方も気恥ずかしい「記念日」を覚えていてくれたことに気を良くしてそのまま手を引く。

幸いにも今日は監視の目は銀時の感覚を刺激していない。
ようやく、こんなマダオの報告書が書きあがって撤収したのかというところなのか。


用心するに越したことはなく、路地を奥へ奥へ奥へ。

古臭い愛の字が頭につくホテルに息をひそめ、息をつめ飛び込んだ。
無理やり手を引かれた態を装ってはいるが土方の足はちゃんと動いていた。
本気で拒む気があるならば足を踏ん張ればいい。
お得意の抜刀をすればいい。
土方にはその力がある。

素直でないのはお互い様だ。

引いた手と引かれた手。
つかず離れずの距離を心地よく感じることもあれば、逆に耐えきれないこともあるかもしれない。

作用する方向に相違がないなら、考えても無駄な事。

そのことで傷つけることも勿論あるだろう。


適当な部屋のボタンを押して、出てきた鍵を受け取りエレベーターに乗り込んだ。

開錠し扉を開ければ、締め切った部屋特有のにおいが鼻につく。

「がっつくなよ。ここまできて逃げねぇよ」

電気も付けぬまま、
片手で土方を掴んだまま、
片手でブーツを脱ごうとして土方に苦笑される。
土方を掴んでいた手を離せば、確かに両手が使える。
吹っ切ったつもりでいたが、そんな何でもないことにも気が付かないほど焦っていたらしい。

こわばったように離すことの出来ない手をさわりと土方が反対の手で撫でてきた。
懐かぬ野生動物が初めて自分からすり寄ってきた瞬間のようなしぐさに煽られる。
手を壁に縫い付け、顔を寄せた。

「土方」

緊張のせいか声がかすれた。
喉も乾いていた。
それよりも土方に飢えていたから、彼から水分を得たら一石二鳥だとばかりに口づける。

舌先で唇をなぞるようにすれば、答えるように緩みが出来る。
迎え入れられる口腔内は柔軟に銀時を受け入れた。

舌を絡め、舌下から歯列をなぞる。
2人分の唾液が混ざってくちゅりと水音がたった。
それでも、乾きはまだ治まらないと文字通り貪るように味わう。

「…ん…ぅぅ…」

苦しそうなうめき声にも似た音を土方がたて、ようやく呼吸すら奪っていたことに気が付いて、口を離す。

「悪ぃ…余裕ねぇ」

何度も身体は重ねてきたというのに、緊張する自分が可笑しい。
唇をする合わせながら囁き、ベッドのあるスペースへと移動する。
移動する間も唇を頬に、目尻に、首筋にスライドさせながら、手は忙しなく帯を解く。
緩んだ拍子にごとりと刀が床に落ちたが土方はかすかに身体を強張らせただけで銀時の手を止めようとはしなかった。
逆に、土方の手が銀時のベルトにかかり内心驚いた。
今まで何度身体を重ねても、恥じらいの方が勝っているのか土方がそんな行動をとったことはない。

着物の襟から指を差し入れ、なだらかな肌に手を這わせる。
古くなって盛り上がったようになっている傷を指先に、綺麗なだけではない部分を伝えてくる。
鍛えられた決して柔らかくはない傷だらけの身体。
それでもこれ以上の触り心地はない。

とんっとたどり着いたベッドに倒れこむ頃には、着流しも襦袢も洞爺湖もベルトも通路に落として、身に着けていなかった。

土方の長い指が洋装のファスナーを上から下へと引きおろしていく様が扇情的でたまらなくなる。
はむりと内耳に舌を差し入れ、耳朶を甘噛みすれば押し殺した甘い声が吐きだされ手が止まってしまった。

惜しむ気持ち半分。
一刻も早くつながりたい気持ち半分。

胸の尖りを指で、舌で転がしながら、すでに頭をもたげはじめて土方の半身を下着から解放してやる。
ゴムに少しひっかかり揺れる様まで愛おしいなどどれだけ毒されているのか。

とっくに自由になっていた土方の両手は片や目元を覆うように、片や縋るように銀時の服を掴んでいる。

爪の先で軽くひっかくように、陰茎をなぞり、鈴口を弄る。
直接的な刺激に全身が跳ねる。
とろりと指先を濡らす蜜を掬い取って口に含んだ。

今度は直接蜜を零す場所に舌を細くして差し入れ、味わってみる。

苦いだけのはずなのに、それだけではない気がした。
脳内物質が見せる幻想かもしれないし、一言でいえば気のせいかもしれない。

それでもどんな甘露にも負けない甘さを銀時の脳は感知する。

「気持ちいい?」
「…っ…は…は…ん…」
荒い息はもはや甘ったるさしか含んでいなかった。

手をのばして備え付けてあった使い捨てローションを歯で破り、自分の猛ったものも空気に触れさせる。

少し腰を浮かさせ、双丘の谷間に垂らしながら指を移動させた。
蟻の門渡から菊座へとマッサージするかのような動きに、土方の呼吸が小刻みになる。

「どこがいいの?」

銀時をこれから受け入れる淵をくるくると水分を含んだ指でなぞれば、刺激が足りないとばかりに顔を隠していた手が動いて恨めしそうに青い瞳が睨んでくる。

今日は啼かせることより繋がりたかったのだと思いだし、少し笑って指を1本差し入れた。

押し広げるように動かし、二袋目のローションを流し込む。
じゅぶじゅぶと卑猥な音が響き、指を土方が締め付けてきた。
音で煽る効果を狙ったわけではなく、純粋に今日は早くつながりたかっただけなのだが、思いのほか自分の指で身体を引きつらせるように蠢く土方の姿態は銀時を更に煽る。

「すげ…」

奥まった場所にあるシコリを遠慮なく擦り上げ、胸の飾りをこりこりと刺激すれば更に抑えきれなくなった悲鳴のような息が土方の口からもれた。

ゆるゆるとその手が持ち上がり、胸に触れていた銀時の手を掴んできた。

「…なに?」

痛かったのだろうかと手を離しかければ、つまんだ手は土方によって自身の中心に運ばれた。
腹に付くほど立ち上がり、はらはらと蜜を零し続ける土方自身は確かに限界に近い。
内腿もひくりひくりと震えている。

ちょっと待ってと銀時はずいぶんと柔らかくなった入り口に熱の棒を宛がった。

「…んっ…っあぁ…ぁ」
狭い内壁にぐっと腰を押し込めば、眩暈がした。

頭の芯がじんじんとして、全身が心臓になったかと思うほどに脈打つ気がする。

「…ちょっと我慢な…」

苦しさで、達しかけていた土方が角度を緩くしていたが、まずは奥まで入ることに専念した。
上に下にこねまわしながら、最奥へと向かう。
下生えがあたり、隙間なく密着するころには、また淫蜜が土方からあふれはじめた。


顔を隠していた手をどけさせ、キスをする。
これだけは言っておかねばと、動きたい衝動にうずうずとする腹の奥をなだめすかした。

「なぁ…俺さ、覚えていくから」
「ぁ…あ?…」

溜まっていた涙がまばたきすることで左右に流れていく。
何度も何度も不思議そうな顔のまま、まばたきを繰り返し、それから何か答えに行き当たったのか、快楽でとろけかけていた目元がさらに赤くなった。

「…馬鹿か…」
「そこは否定できねぇけど、お互い様だろうよ」

唇で目元に触れれば、当たり前のことながら、しょっぱい味がした。

「お前んなかに入るよ」
「っ!」

実際につながった身体だけのことではないと正確に理解した返事とばかりに、
埋め込んでいた自身が蠢いた内壁で天国へ持って行かれそうになる。

『土方十四郎の中に入る』

唇から発する言葉よりも身体の方が本当に正直だと苦情を述べた。

「ちょ!締めんな!あやうく発射するところだっただろうが!」
「ぐだぐだ…言ってねぇで…」
「あーハイハイ。そうでした。今日は俺の服脱がせてくれるぐらい我慢できないんでしたね。十四郎君は」
「ちがっ!…ッ!…ぁ…」
砲身でぐるりと中を一混ぜ、抽挿を始める。
いつもよりもローションを使ったせいもあり、ぐちゅぐちゅと水音が激しく耳を打った。

でも少しでも長く、熱い土方の中にとどまっていたいと思うのに、気持ちが良すぎて気を緩めると直ぐにでも達してしまえそうだ。

繋がることのできる時間なんて、いくら頑張ったところで限界がある。


それでも…
銀時は諦めて、本能のままに、土方をむさぼった。
口を合わせ、息を奪い、
土方の良いところを擦って、捏ねて、かき回す。

とろんと溶けていく様をみているだけで銀時も快感が増していくなんて。

何か言葉を、気持ちを伝える言葉を
そうは思うのに、こんな場面ですら紡ぐことができない。

「十四郎…」

2人の腹が生暖かいもので濡れ、狭い内部がさらに収縮して銀時を締め上げて、
惜しいと呻くが堪えきれずに熱を放った。

腰を数回振って最後の一滴まで中に注いでしまっても、抜き出したくなくて黒い頭を掻き抱いた。
覆いかぶさるようなその動作に重いと文句を言われるが、気にしない。
どうせ本音ではないのだ。

「なぁ…テメーは…」
「ん?」
肩に暖かい息がかかり、クレーム以外のことを話すならと身体を少し浮かせた。

「いい話が来てるんじゃ…ねぇのか?」

本気でなんのことだかわからずに首を傾げる。
「橋田屋の未亡人、それに明後日城にいく」
そう補足され、最近周囲をちょろちょろしていた人間のことを土方の耳にも入ったのかと納得したが、お房のことは良くわからないがヤキモチを焼いてくれていることだけはわかって頬の筋肉が緩んでしまう。

「いい話も何も…なぁ?要らねぇ話だしな」
「そうだな…
 こんな天パで糖尿でマダオでって珍獣もらおうなんざ物好きはそうそういねぇか…」
「珍獣扱い?つか!三重苦みてーな表現やめてくんね?
 そんなに土方くんは苛められたいの?
 あ、そうか、そういうことな。なんだ言ってくれれば直ぐにでも…」
腰を動かせば、自分の放った白濁がつなぎ目から溢れる卑猥な光景に、硬度など直ぐに増していく。

「え?は?な…っ盛…るな!」
「2か月分、取り返さねぇと…」
「な…に…いって…ぁぁ…っ!」

まだ話足りないことがあるらしいが、口を再び合わせることで話は終わりだと黙らせた。




狂熱が落ち着いて、ゆっくりと貴重な非番を一緒に過ごして、
手帳かカレンダーを買いに行こう。

曜日も暦もついていない。
白紙のカレンダーがついたものがいい。

月と日付。
そこに、記憶を探って今までの記念日を書き込んでおく。
これから起こる何気ないことを記念日にして書き綴ろう。

365日分のスペースがすべて埋まるまで、
いや、おなじ日付にいろいろな記念日が重なって、書くスペースがなくなっても。

いつか
いつか
いつか。

互いの魂に従って背を向けることになる日がきても、
互いの護るべきものの為に刀を突きつけあう日がきても、

どちらかが先に刀を握れなくなって、立ち止まる姿を目にする日がきても、
どちらかが永遠にいなくなったことを風のうわさで聞くことになる日がきても、

憶えておけるように。

日常でいい。
何気ない日を記念日という呼び方に変えて。

「キミヲアイシテル」だなんて言えないから。

憶えていく。


そっと傷だらけの互いの指を絡めて、
それだけ、決めたのだ。





『憶』 了





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