うれゐや

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【献上品・企画参加】 | ナノ

『Startline―roomshare T―』




坂田銀時は居酒屋のバイトを終え、真っ直ぐアパートに帰る。
これまでならば、帰りにコンビニに寄って立ち読みしたり、甘い物を物色したりしてダラダラとたどり着くまでに無駄に時間をかけて帰っていた。

それが、一変したのはほんの2週間前から。


学生ばかりが入った古いコーポタイプの2階。
午前2時にも関わらず、銀時の目指す角部屋の電気がついていた。

カンカンと鉄製の階段が比較的大きな足音を拾い上げるが、
生活リズムなど大学生にはあってないようなものだから気にするような人間などいないだろう。

玄関ノブをひねると鍵を掛けていないそれは呆気なく開く。


そして、1DK特有の狭い敲きに明らかに住人のものでない大きな靴を見つけて銀時は盛大に眉をしかめた。


「ただいま」
「おぅ、銀時おかえり。お疲れさん」
迎えの言葉を寄越したのは、予想通りの人物。
リビングにでんっと居座っている銀時にとって招かれざる客だった。

「ゴリラ、何にひとんち上がり込んでるわけ?」
「近藤さんはゴリラじゃねぇ」

大学の一期上の先輩でもある近藤に向けられた言葉は、その隣に座していた人物に予想通りの突っ込みを入れられる。

目つきこそ悪いが、スラリと均等のとれた肢体に、すっとのびた鼻筋、厚くもなく、かといって薄くもない唇。
控えめな黒く真っ直ぐな黒髪。

青年は土方十四郎。
銀時と同じ学年、同じ学部に通う大学生であり、この部屋の主である。

そして、銀時の片思い中の人でもあった。




「いや、ゴリラだろ?毎回毎回、土方のノートアテにしやがって!
 いい加減オメーも飼育放棄してしまえよ。
 ゴリさんもさぁ、いい加減に空気よんでよ」

銀時と土方は大学に入って知り合った。
同学年、同学部学科ということもあり、必然的に構内での遭遇率は高く、
最初のうちはお互いによく似た意地っ張りさと、喧嘩っ早さもあってぶつかることも多々あった。
それは講義内での討論から始まり、お互いの周りから見れば悪食だと言われる嗜好についてだったり、果ては天然パーマだとか、開いた瞳孔だとかお互いの身体的特徴にまで至る内容で繰り返されてきたのである。

しかし、ある日銀時は気が付いてしまった。

本来面倒事を避けて通る傾向のある自分がなぜ、わざわざ反りの合わないと思われる土方が気になって仕方ないのか。

情けないことながら土方の事が気になって、つい悪態をつき、揶揄うような言葉を発するのは、実は小学生が好きな異性にかまって欲しくてとってしまう行動と何だ変わりがないのではないのかと。


自分の行動に疑いを持って半年、自分の性癖を自覚して足掻くこと半年、
そして、それでも変わりそうにないモヤモヤした気持ちを口にしたのが、2年の夏のことだったのだ。


振られても顔を暫く合わさずにようにと、「付き合って」と伝えたのは夏季休業に入る直前。

意味を取り違えられていたらしく、宙ぶらりんな状態で放置された上に、
バイト先に合コンしていた土方を見た時には眩暈がした。

無理やり、銀時の「付き合う」意味を土方に理解させて、なんとかメールアドレスを聞き出し(盗んだともいう)ても何だかんだと、土方は拒絶らしい拒絶をみせなかった。
かといって受け入れるつもりがあるのかないのかわからない土方は、ごく普通に銀時を家に上げる。
じゃれるように体に触れても、多少の抵抗はされるものの、本気で振り払いはしない。


そして、とうとう秋も終わり、北風が厳しい季節を迎える頃。
銀時は次の行動を起こしていたのだ。



「いや、空気読むのはテメーだ!ただいまじゃねえだろうが」
「へ?だって、ここ俺のウチじゃん」

丁度、銀時のアパートの契約更新が近かったことを理由に同棲に持ち込んだのだ。

「んなわけあるかぁ!テメーが勝手に押しかけてきたんだろうが!」
「え〜、住むところがないなら、いても良いっていったじゃん」
「アホか!普通泊めてくれっていったら、ずっと居座られるとか思うか?
 家財一切処分してまで!」
土方が、身体いっぱいに使って、部屋の惨状を差ししめす。


転がり込んだ銀時の荷物は大学で使うものと、衣類、そしてジャンプぐらいしかなかったが、それが1DKのフローリングいっぱいに広げられている現状。
捨て身の行動だと言われればそれまで。
人のいい土方につけ込んだといわれても仕方ない行動だと自覚はある。

「いいじゃん。寝るところは確保できてるんだし」
今度は、銀時が視線で寝室代わりに使っている半二階の作りになったロフトを指示した。


「本当にお前ら仲がいいなぁ」
朗らかに、意味が分かっているのかいないのか近藤が笑い、二人の頭を撫で回す。

「近藤さん。違うからな。これは…」
「そうそう、仲がいいから!ゴリラは黙って帰れ。バナナあげるから!」
「バナナはどっちでもいいんだけど…俺はトシのノートがあれば…」
「んなもん!持ってけ持ってけ!」
押し付けるように、銀時は近藤にノートを持たせ、玄関へと追いやった。

「んじゃ、トシ!明日返……」
「悪い。近藤さん」
無理やり締められる玄関扉の音で言葉の最期はもはや聞き取ることが出来なかった。


「坂田!テメー」
「あ〜、もうちょっとタンマ」
ぎゅっと、銀時は土方を抱きすくめる。

「ちょっ」
「土方不足充電させてよ。充電」
ほぼ同じ身長であるから、お互いの顎が丁度肩に乗る。
土方は、銀時のふわふわした髪が首筋にあたり、くすぐったさで身を捩りながら反論する。

「テメっ昼、大学で会っただろうが!」
「あれから何時間たってると思ってんの?」
銀時の囁く普段より低い声が土方の鼓膜を震わせた。
また身を捩るが、それ以上の抵抗は見せないのだ。
密着した身体。
熱を持ち始めたことを誤魔化すにはあまりに近すぎる距離。


「オイ…」
「ん?あ?…ごめん」
下半身を擦りつけるような動きは無意識だったらしく、銀時は慌てて身体を離し、激しく頭を掻きむしった。
惚れている相手が腕の中にいれば、反応するのはお年頃だから仕方ない。

それにしても、と銀時は息を吐く。
いくら天然な性格だとしても、いい加減に接触の意味も銀時の欲求も理解できているはずだ。
それなのに、抵抗らしい抵抗をしない土方。
もしかしたら、暗にオーケーを出されているのだろうかと思ってしまうが、
あまりにそれは楽天的すぎるとも思う。


「シャワー行ってく…って」
くんっとシャツの裾を引っ張られて方向をかえかけた足を止められる。



「土方くん?あのさ?んなかわいいことされると銀さんの銀さんがばーんだからね?」
「………ろう」

俯いて、やや悔しそうに結んだ土方の口元から小さな声が零れた。







『Startline―roomshare T―』 了



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