うれゐや

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『浸食』





24時間体制で江戸の治安維持を守るために作られた武装警察真選組。
その隊士たちが住まう屯所の奥まったところの配置された副長土方十四郎の部屋を深夜訪れるものがあった。

「副長」
「入れ」
誰何の声さえなく、障子の外からの問いに、土方は入室の許可をする。
時間に関係なく、この副長のそばに馳せ参じることを許された監察筆頭の特権。

「お休みでしたか?」
「あぁ、今日の接待は早く片付いたからな」

身体を起こしているが、布団の上で土方は自身の直属の部下を迎えた。


「報告か?」
「いえ、明日から例の一派に潜入開始しますんで、ご挨拶に」

着崩れた夜着。
その隙間から垣間見える肌はアルコールにおかされ、赤く染まっている。
いつもなら、鋭い瞳も、まだ覚醒しきれていないのか、頼りなく、やや幼く彼を見せていた。

「しばらくかかりそうだな」
「えぇ、横のつながりが強いトコですからね。受け入れられるまでに時間がかかるとは思います」

山崎は土方ににじり寄った。

「ってことで、可哀想な部下に、先にご褒美くれませんか?」
「ずいぶん、気の早ぇ話だな」

するりと夜着の隙間から手を侵入させる。
それを咎める言葉が発せられないことを承諾を踏み、そのまま胸の小さな飾りをつまんだ。

「ん…」
小さく身じろぐ仕草が山崎の劣情を煽る。

「先に褒美もらって、失敗しやがったら、切腹もんだからな」
「はいよ。わかってますって。副長不足でミスをおかすより良いでしょ?」

吸い付くような肌に手を這わせ、べろりと舌を滑らせる。

「ぁ…ぁ…」
土方の中心に唇を寄せ、刺激を与えると、甘い声と共に兆しが見え始め山崎は満足する。
懐から用意してあった潤滑油を出し、指になじませ、そっと秘めたる場所へ差し込んだ。

「んっ」
流石に一般隊士の部屋からは離れているとはいえ、屯所のなかであるから、いつ人が部屋に近づくかわからない。だから、土方は手で、口元を抑え、声を戒める。

くちゅり
くちゅり
水の音。
徐々に増やされていく指の数。

ぽたりぽたり
どちらのものとも判断出来かねる先走り。

「土方さん」

名を呼び、猛ったものを彼の中心にあてがって、ゆっくりゆっくり入っていく。

じわじわと侵入する。
一気に頂点を目指すのでもなく、欲をぶつけ合うのでもなく…

監察部は土方副長直属の機関だ。
隠密を要する任務を担うことから、人選においても土方自らが行ってきた。
山崎本人も引き抜かれてきた一人だった。
地味なことが特技となる職業があるだなんて、あの頃は思わなかったものだが。

その時から
あなたのそばにいるために

仕事と称し、一番近い場所にまず立とう。
仕事と称し、プライベートにも立ち入って、あなたの存在に近づこう。

徐々に徐々に浸食する。

褒美と銘打ち、与えられる快楽を。
あなたは、ただの欲の処理と思うかもしれない。

でも、離さない。

たとえ、あなたの心が他にあっても。
一度、懐に入れたものを無碍には出来ないあなたの性分さえ、利用する。

立場を、体を、心を浸食していく。

大丈夫、気は長い方だ。


浸食した先に見るのはどんな風景だろう?
山崎は土方にわからぬよう、俯いて笑った。




『浸食』 了
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