うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『Butterfly spread sideH』






卵は孵って、幼生に
幼生は、やがて蛹になって
羽化をした。

割れた卵はもとには戻らない。

壊すほど絶え間なく、自分の欲を
何度も何度も、注ぎ込み、

アナタは自分の犯した過ちに
ボクを汚したつもりで、汚し切れなかった誤算に
自身の内側にある深淵に


慄くアナタは何?





(眩しい…)

ゆっくりと、瞼を持ち上げる。
土方は、そうして、眩しい蛍光灯の光に数回瞬きを繰り返した。

(寒い…)

次に思ったのはそんなこと。

ゆっくりと今度は上体を持ち上げる。

そこは、殺風景な部屋。
ベットの上だった。

軽くかぶりをふり、自分の状態を確認する。

(確か…お参りにいって…銀八にここに連れてこられて…)

足元に転がる、自分のジーンズと下着。
中途半端に脱がされたニット。
銀八のベルトでひとくくりにされた腕。

どちらの物ともしれない体液でドロドロになったシーツ。

「ぁ…あ…?」

喉が潰れて、声が出なかった。



見回すが、そこに部屋の主の姿は見えない。

「ぃ…て…」
こすれて、朱く後の残った手首から、歯を使って、ベルトをなんとか外してしまう。


そして、自分の身体に目を向ける。
これまで、銀八と情交に及ぶときには、こんなことはなかった。


まず、学校内であること。
みっともない喘ぎ声など国語科準備室の外に漏らすわけにはいかなかった。
万が一人に見られても対処できるように、脱がされるのは下だけだった。

必要最低限。

何もかもが、効率的に。

必ず、土方に最後の選択をさせ、ズルい大人の理屈で最大防御を施していたというのに。

どうしたことだろう。

今日の銀八はおかしかった。

人目をはばからず、真昼間の神社から、自分を拉致するように連れ出し、
学校ではない、完全な銀八のプライベートな空間に押し込め、
土方の返答など待ちもしないで、

苛立った、感情のまま、土方を貫いた。


いたる所に残された鬱血跡。

初めてだった。


今までは、その赤い瞳の奥に潜むものを見せることなどなかった。
深淵はまっくらで、微かにチラチラと昏い炎を微かに感じさせるだけだったのだ。

緩いふりをして、
何にも執着などしない顔をしている大人の銀八が、
完全におかしくなっていた。



おかしくしたのは俺?

土方は細く細く、口元に笑みを浮かべる。
そして、まだ、軋む身体を叱咤して、ベットから降り立った。


銀八は自分の行動が理解できないのかもしれない。

首を絞められ、体を揺さぶられながら、
薄れる意識の中、最後にみた銀八の表情。

あの独占欲に塗れた、罪深い顔。


くすくすと忍び笑いがこぼれる。

取りあえず、シャワーで体と清め、部屋を片付けよう。

きっと、銀八はしばらく帰ってこない。


土方は手首の痣にそっと口づけ、風呂場を探しに寝室を出たのだった。




卵は孵って、幼生に
幼生は、やがて蛹になって
羽化をした。

子どものボクは、じぃっと、大人なあなたを観察する。


やがて、大人になるために。
やがては、あなたに追いつくために。

浅はかにも、自分のことを無垢な生き物だなんて思っているあなた。


色は変わる。
真っ白い魂も、
はばたくための羽の色も。

総ては、自分の殻を砕いた赤い瞳を捕らえるために。


割れた卵はもとには戻らない。

壊すほど絶え間なく、自分の欲を
何度も何度も、注ぎ込み、

ボクを汚して自分のところまで引きずり降ろしたかったあなた。


違うんだ。
貴方が、ボクのところまで下りてきて?


卵から孵ったのモノは一体なんだったのだろう?
他人事のようにボクは嗤うのだ。



『Butterfly spread sideH』了  



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