うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『花の名前 くちなし・前篇』



「暑い…」

ギラギラと街が眩しい。
梅雨が明けたと思った途端、茹だるような暑さが襲ってきていた。
エアコンのない万事屋でダラけて過ごすよりは小さな依頼でもこなしている方がまだ建設的かもしれないと珍しく殊勝なことを考えて出かけた。
までは良かったのだが、渋滞に巻き込まれている。
神楽と新八は道交法に囚われない定春の背に乗って、薄情にも一足先に行ってしまった。

スクーターなのだから、車の隙間をぬって、渋滞から抜け出せそうなものだが、今日はギッチリと歩道際ぎりぎりに詰めている車が多く、前に進めそうにない。
走っている時は大して熱さの気にならないバイクも一度立ち止まると車よりずっと地面からの熱の影響を受ける。屋根がないから影もない。メットの中は蒸れに蒸れて、汗がこめかみを伝い流れ落ちていく。
やはり、無茶だと判っていても人通りの多い休日の歩道を爆走するべきかと着物の袖で汗を拭った時だった。
賑やかなスピーカーが後方から鳴り響いた。

「緊急車輌が通りやす。道を開けてくだせえ」

どこぞで聞いたことのある江戸っ子訛り。
感情のあまり篭らない独特な声。

「避けねぇやつは公務執行妨害で迷いなく轢いちまいまーす」

真選組一番隊隊長殿だと声のありかを探す。
キョロキョロと見回せば、先程抜け道として使うことを思案した歩道を一台の真っ黒いバイクが人ごみの隙間をぬって走ってきていた。
大型バイクの後部席で沖田がハンドタイプのスピーカーで警告しながら爆走してくる。
運転している男は黒のフルフェイスを被っているから顔はわからないが、この猛暑にバイクスーツをしっかり着込んでいる。
白バイではない。
バイクは詳しくないが、1000tは超えているだろうか。

かなり急いでいるのか、スピードを緩めることなく、歩道を走り抜けていった。

「あっぶね」

だが、沖田達が通り過ぎた歩道は人々も左右に寄り気味になり、今なら銀時のスクーターも通れそうだと頬を緩める。
何とか車道から歩道へと滑りこみ、沖田の後を追うように走り出した。





しばらく進むと交通渋滞を引き起こしていた元凶兼事件現場が見えてきた。
銀時はいったんエンジンを切り、押しながら近寄る。
どうやら漸く片付いたようで現場を副長である土方が部下達に指示を出している。
さすがに気温34度を超えると隊服は暑いのか、上着を脱ぎ、珍しくスカーフまで外していた。

銀時は想い人をそっとみつめ、逢えた幸運を喜び、同時にため息をついた。
垣間見える鎖骨あたりや腰回りが一段と細くなった気がする。
やがて、土方がずいぶんと短くなった煙草を携帯灰皿に押し込むのを合図にして、第二陣、第三陣と散っていった。

「旦那、渋滞からは抜け出せましたかい?」
「総一郎君じゃん」

銀時が真選組のドS王子の通ったぺんぺん草も生えそうにない道を利用したことに気が付いていたのだろう。
あれだけ現場に急いで駆け付けた風であったのに、仕事をする風でもなく傍に寄ってきていた。

「総悟でさぁ、旦那。いい加減このやり取りも飽きてきやしたぜ」
「さっきは大爆走だったじゃない。もう片付いたの?」
「そういうクレームの類は全部土方さんに」
「総悟!次、行け」

急に土方の声がが沖田を呼び、二人で一斉に振り向いた。
向けられた視線二つのうち、銀時のものにはさらりとだけ、沖田のものに強く土方は視線で返す。

「ま、ここは片付いたんで直ぐに渋滞も緩和されます。
 ただ、爆破予告自体は未終結ですんで、旦那も巻き込まれねぇようにしてくだせぇ」

じゃ、と軽く手を挙げ今度はバイクではなくパトカーに乗り込み去っていった。
沖田が肩をすくめるだけで、大人しく指示に従っているところをみると、大きな捕物らしい。

「慌ただしいねぇ」

ボリボリと頭をかきながら視線を上げれば、そこに土方の姿はまだあった。
土方は渋滞を交通整理するために残った部下に何事か伝えると、高さ2メーター足らずの生垣が作るわずかな影に移動した。
街路樹はかなり立派な白い八重咲きの花を満開につけ、甘い匂いをあたり一面に漂わせている。
そこに半分凭れるように腕を組み、何やら思案中らしく、空を視線を彷徨わせていた。

スクーターを道路脇に駐輪し、銀時はそっと近づく。

「部下働かせて、副長さんはサボりですか?コノヤロー」
「本当は今日は非番なんだよ。一服ぐれぇでごちゃごちゃ言うな」
「なら、こんな暑いとこ、立ってねぇで銀さんとそこのファミレスでパフェ的なものでもどうよ?」
「さっき、総悟にまだ片付いてねぇって聞いたんじゃねぇのか?ぼけ。今は連絡待ちだから、まだ動けねぇ」
忌ま忌ましげに舌打ちをして、携帯をふって見せた。

言葉尻を捕えるなら、仕事中じゃなかったら付き合ってくれたのかと追い込むことも出来そうだ。
鬼の副長だ、真選組の頭脳だと言われている男だが、私事に関しては抜けている部分や絆され易い面も少なくない。もしかしたら、短時間であればお茶ぐらいなら付き合ってやってもいいと思ってくれたのかも、なんて。
少しだけ、ほんの少しだけ期待をしてしまった。

「で、爆破予告だって?」
「明日の花火大会狙いだ。そういやチャイナ達は?」

花火。
言われてみると少し遠いが湾岸で行われる花火に神楽が友達といくかと、お妙に浴衣の着付け頼んだとか騒いでいた気がする。
聞いた時にはワンパークを読むのに忙しすぎて、ハイハイと流していたが万年金欠の万事屋に新調してやる余裕はない。
肝心の浴衣はどうするのか、子ども二人でどうやって行くのか、聞いていていないなと今更ながら首を傾げながら、土方と会話を続けた。


「定春なら渋滞知らずだから、一足先に仕事行かせた」
「テメ!子どもだけ働きに行かせてパフェもへったくれもねぇよ!サッサと行けよ。
 このマダオがっ」
「ひっでぇなぁ。元はといえば、オタクらが渋滞させるからだろ?今から行きますぅ」

今日少し懐が潤ったなら、浴衣本体は無理でも髪飾りの一つぐらい、いや、まだまだ洒落けよりも食い気の方が勝っている少女であるから、露店で買い食いする小銭の方が喜ぶだろうか。
何にしても、潤ったなら、である。
でも、もう少し土方とまったり話していたい気持ちもあった。

白い花がぽとりと花びらを、土方の頭上に舞い落ちてくる。
払ってやろうと、手をのばそうしたが、払うまでもなかった。
触れる前にサラサラとした髪の上に、留まることなく自然にするりと滑り落ちていく。

「おい、花びら。白いから何か同化しちまってるみてー」
「?!」

土方の手が持ちあがり銀時の髪に触れてきた。
黒髪とは対照的に髪を滑り落ちることなく留まった白い花びらをつまみ取り、土方は梔子の花かと頭上を仰いだ。
銀時の密かなる動悸なぞ全く気にもとめず、クルクルと花弁を手で遊ばせてからその甘い香りを嗅ぐ。

「ま、どちらにしても今日明日大人しくしてろ。ヘタな騒ぎ、起こすんじゃねぇぞ」
「わーってるって。こっちだって好きで面倒事に巻き込まれるてるんじゃないんですぅ」

触られたくないわけじゃない。
けれど、不用意な接触は心臓によろしくない。
心臓に毛が生えているとはよく言われるが、実はドSは繊細で打たれやすい生き物なのだ。
誤魔化すためにも出来るだけ、ふてぶてしく聞こえように心掛け、半ヘルを被る。

「じゃ、お仕事頑張れや」
「テメーこそ、しっかり働いててチャイナに浴衣ぐらい買ってやれよ、甲斐性無しが!」
「ウルセーよ。ファミレスデートはまた今度ね」
エンジンをかけ、動揺したままスクーターをスタートさせた。





そんなやり取りがあった上で迎えた、花火大会当日のことだ。

「銀ちゃ〜ん。見るヨロシ」

元気に恒道館から神楽が万事屋に戻ってきた。
玄関から走ってくる軽やかな足音からも、その機嫌のよさが窺える。
花火大会は日が落ちてからであるのに、張り切っている神楽は午前中のうちから、着付けの為に出かけていたのである。

「愚民ども!眩いばかりの美しさに平伏すがいいネ!」
「あ〜似合う似合う」
鼻をほじりながらではあるが褒めておく。

神楽は白地に濃紺の地に、大きな白い花がデザインされた浴衣をきていた。
帯はピンク系。細かい金糸が施されている。今の流行なのか浴衣なのに帯留めもある。
手には可愛らしい手提げ。
カラフルな配色ではないが、神楽の肌の白さと薄桃色の髪が映え、綺麗にまとめられていた。

「銀さん、よくこんな良い品、揃えられましたね」
一緒に恒道館から出勤してきた新八が荷物をおろしながら言った。

「あ゛?それ、お妙からじゃねぇの?」
神楽は銀時にねだりもしなかったから、お妙に借りるかどうかするのだと思っていたのだがともう一度浴衣を見る。
見るからに上質な着物を神楽が自分で、いや万事屋で買えるはずも無い。
かといって、古典柄ではない粋な意匠の浴衣は新八の姉のイメージではないから彼女のお古というわけでもなさそうだ。

「男に貢がせたアル」
「「はいぃ?」」
ちょっと酢昆布一箱…というレベルの話ではない。
女物の値段なんて知るよしもないが、安い物でないことぐらい直ぐにわかる。

「いい男は、いい女に貢ぐ価値を知ってるアルヨ。
 私がそよちゃんと花火に行くって話したら、黙って用意してくれたネ」
こんな小娘に一式ぽんと用意する物好きなどそうそう思いつかなかったが、高杉のところの自称フェミニストの例もある。
まさか、どこぞで知り合った少女趣味の中年にでも買わせたわけではあるまいなと神楽の顔を凝視した。

「………で、一体その色男は誰なのかな?神楽ちゃん?」
頭の禿げたお父さんの顔がちらちらと脳裏に浮かび、いやいやいや、お父さん、神楽ちゃんの知識は昼ドラの影響が大きいですから。白髪のお父さんの影響じゃないですからと言い訳ともいえないことを考えながらの恐る恐るの確認だ。

「トシちゃんアル」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ。土方さん?」

万事屋中に響き渡る新八の声がどこか遠い。
よくよく考えてみれば、先日会った時に神楽の浴衣ぐらい新調してやれと言われた、気もする。あの時点で神楽が貰い物の浴衣しか持っていなかったことを知っていたということだ。

どういった経緯なのか、土方と神楽は最近仲が良い。
しかし、女子どもに弱いとはいえ、あんな高価そうな浴衣をほいほいと下心もなく普通与えるだろうか。
ただ単に神楽が土方に懐いていて(主にたかり目的で)、土方がそれに流されるという風にみていたのだが、もしも違ったならば…。
思考がとんでもない方向に飛んでいきかけて下唇を無用に引っ張って誤魔化す。
ぐるぐるとループし、二度と戻ってこれなくなりかけた心を自分と一度は褥を共にしたのだからそんな趣味はないはずだと己に言い聞かせた。

身体を繋いで初めて想いを自覚するなんてことをしてから、自分の軟弱さに嫌気がさすことが多い。
来るもの拒まず、去るもの追わずの距離感で、爛れた恋愛しかしてこなかった。
距離を取ることで、余裕を持ちたかった。
いつだって、飄々と自分を保ちたい。
なのに、土方と向き合うと、自分にもまだこんな感情が残っていたのかと気がつかされる。

「あ、もう約束の時間アル。じゃ、今晩はモテない男同士楽しめヨ」
スキップしそうな足どりで、掻き回すだけ掻き回すとチャイナ娘は玄関に走っていってしまった。

「新八ぃ」

そういえば、今日一緒だという『そよちゃん』なる神楽の友達を見たことがないし、禿げたお父さんが何処からともなく聞きつけて襲来してきても面倒だしぃとごにょごにょと口の中で続ける。

「俺たちも花火見物いってみっか?」

神楽は言い訳だ。
十二分に承知している。
テロ対策のため、どうせ真選組が警備しているのだ。
うまくいけば、今日も土方の顔を見られるかもしれない。

多分、新八も承知しているだろうが、素知らぬ顔で戸締りに動き始める。

丁度、午後3時を万事屋の時計が回る、そんな時間だった。





近くの公園で待ち合わせをしている。
そう聞いていたために万事屋を遅れて出発した銀時と新八でも神楽たちを見つけることは容易だった。
詳しいことは神楽にもわからないらしいが、そよという娘は『シンソウのレイジョー』だとかで、自由に外を出歩けない、ぐらいの話は銀時も聞き及んでいた。
今日も兄が出かける混雑に紛れて抜け出すとも。

「あ、女王さん」
「よかった。抜け出せたアルネ」
いざとなったら迎えに乗り込もうかとおもったネと胸を叩く神楽にそよは笑う。

「まだ花火までは時間アルから、ぶらぶら流そ」
少女たちは手をつなぎ歩きだす。そして、連動して二人も動いた。
そよは物珍しげにキョロキョロと辺りを見渡しながら、時折神楽に質問をし、神楽もなにやら偉そうな口調で説明しながら楽しげに進んでいく。

「なんか神楽ちゃんとは全くタイプの違う大人しそうな子ですね」
「そうだな…」

十分な距離を保ちながら、新八がぼそぼそと告げる感想におざなりな返事を返しながら、銀時は辺りの気配に意識を馳せる。
少女二人の後を付けている人間が他にもいる。

「新八、お前はこのまま二人を追え。気をつけろよ」
「銀さん?」

銀時はすっと狭い路地に静かに入り込み、一気に走り出した。
いきなりの行動に呆気にとられながらも、新八は銀時の指示を遂行するために足を動かし続ける。
そんな様子をいくつかの目が見つめていた。



「よっ」
「ぎゃっ!」
いくつか路地を曲がり、目的の人物の背後へ回り込んで、銀時はその肩に手を置く。

「だ、旦那?」
「なぁに、うちのお嬢、ストーカーしてのかなぁ?ジミー君よぉ」

さすがの銀時も意識していなければ、大衆に紛れ込んで存在を見落としていたであろう男。
銀時達同様、神楽の跡をつけていたのは真選組の監察筆頭だった。
その山崎が体を固くしたのは一瞬だ。
表立っては土方のパシリだとか、ストレス解消要員にすぎないように見えもする。
だが、気が弱そうに見えて、その実、この男は肝が据わっている。
そうでなければ、敵地に単独で潜入するなんて芸当をあの土方に任されるはずがない。
山崎が動く=土方が絡んでいる。
その図式と無条件に山崎が受ける土方の信頼に苛立ち、不機嫌を隠そうともせず尾行の対象について話を切り出した。

「やっぱ副長さんはロリコン趣味あるわけ…?
 あんな浴衣まで一式そろえてくれちゃって」
「は?旦那も心にもないこと言わんでください」

やれやれとばかりにあまりに呆れたという態度で首を振られ思わず一発小突く。

「俺のターゲットはもう一人のお嬢さんの方ですよぉ」
「『シンソウのレイジョー』?」
「なんだ、事情ご存じならいいんです。そんな感じでお願いしますよ」
真選組が大々的でないにしろ警護につく、ということは攘夷浪士の目に留まると危ない立ち位置にいる人間なのか、幕府内部に係わりのある家の出、なのだろうと銀時は耳に小指を突っ込んだ。

「子どもって恐ろしい…」
「ですよね〜。って、見失っちゃったじゃないですか!」

柳生九兵衛を始め、セレブと呼ばれる階層の人間と付き合いがゼロではないが、気軽に絡みたいとも遊びたいとも思う類の人種ではない。
まぁ、ガキはどんな状況でもガキにすぎないのだろう。神楽に気負いや引け目の類は見られなかった。

「大丈夫大丈夫。新八が追ってるから。あれ?そういや、爆破テロはカタついたの?」
「まだです…メンツにかかわるってことで、将軍は予定通りの参加です。
 副長、人員も時間も足りなくてぴりぴりしてるし…。
 本当に、こっちの件は旦那に全部任せて俺、本隊に戻りたいですよ」
情けない顔の訴えに、銀時は再び辺りの気配を探る。

「あれ?まさかたぁ思うが、護衛ジミーだけ?」
「えぇまぁ…副長がチャイナさん経由で耳に入れた情報でしたけど、
 本来ウチに正規の命令出てるってる件じゃありませんからね。
 会場は入ったらそれとなく応援が付きますが…って、旦那!?」

考えてみれば、『抜け出す』と言っていた。
大人たちを出し抜いてきたのなら、護衛がつくはずも無い。
しかし、神楽たちを追う気配は少数だが先ほどまで確かにあった。
逆を言えば、銀時たちと山崎以外の気配は第三者のものということになる。
銀時は大通りに飛び出し、新八と少女二人の姿を探す。

「くそっ」

神楽の戦闘力からすれば、大抵の敵は凌げるだろうが、あんな大人しそうな連れを人質になど取られることになれば…と想定し、杞憂であれと願う。

「旦那」

山崎は銀時の様子から、只ならない事態なのだと直ぐに携帯の短縮ダイヤルを押した。

「山崎だ。あぁ、例のGPS追跡しろ。至急だ」
普段ののらりくらりとミントンラケットを振っては上司に殴られている姿からは想像つかないような機敏な口調で指示を行っている。

「GPS?」
「えぇ、副長が浴衣用意する時に万が一にと帯留めにGPS仕込んでいたみたいなんです」

用意がよい、というか用心が過ぎるとも思う。
一体どこの令嬢だという悪態は一時飲み込んで、少女たちが入りそうな店の看板を探す。

「俺は一応、このあたり、もう一度探してくるわ」

小店に入り込んで、一時見失っているだけであれば問題はない。
けれども、神楽の姿も、あとをつけていた筈の新八の姿もその近辺にはやはり見つけることができなかった。



「旦那っ」
山崎の慌てて駆け寄ってくる様子に銀時は眉をしかめる。
吉報ではないと直ぐにわかるその表情に肩を強張らせた。

「そこの店の裏口に手提げが…」
間違うことなく、それは神楽が見せびらかしていたデザインと同一のものだった。

「新八は?」
「店主の話では、女の子二人がストーカーされているからと店の裏口を借りて外へ出ようとしたらしいんです。それを追って男の子も…ってことですから、一緒なのかと」
「GPSは?」
「感度悪いんで微妙なんですが、海…埠頭方面へ向かっているようです」
昨日、爆破テロ予告が出ていると沖田たちがむかったのは花火大会会場に最も近い埠頭ではなかっただろうか。

「旦那、副長からです」
山崎が土方に連絡を取ったのか、自らの携帯を銀時へ差し出してきた。

「土方?」
『万事屋、話は山崎から聞いた。
 恐らく今回のテロを首謀している連中は花火会場のどこかで騒動を起こして、
 将軍を狙ってくるつもりらしい。
 昨日の捜索で埠頭近くの倉庫街に大量の爆発物が持ち込まれている事までは判ってる』
「神楽と新八は巻き込まれた?」
そよという娘の出自など知りはしない。
友達などそんなもので選ぶもんじゃない。
それでも、歯切れの悪い説明からくみ取った予測には自然と棘が入った。

『…その爆弾系を使って、今晩に動くならば、GPSどおり、
 海、もしくは会場近くにチャイナ達は連れて行かれるかもしれん。
 ただ、同じ一派でなかった時は全くの見当はずれになる』

「GPSを取りあえず信用して、花火会場の方へむかう」
『おびき寄せるために武器の類はそのままにしている。
 総悟が倉庫街に、船舶エリアに原田がいる。何かあれば声かけろ』

神楽や新八が簡単にやられる奴らじゃないのはわかってはいるが、焦る気持ちは抑えられない。
手がかりがあるなら、それに縋る。
もしくは腹は背に変えられないから使えるツテは全部使うつもりではあったが、思いもかけない申し出に銀時は急に毒気を抜かれた。

「…珍しい…」
『なにがだ?コラ』
イラッとする気配が携帯越しに伝わってきた。
余計な事をするな、真選組に任せろといわれるならば、わかる。
停められても銀時が動くことを知ってはいたとしても、土方が素直に真っ正面から真選組の人間を銀時の「助勢」にという点で驚いたのだ。

「俺に協力的だなんて。暑さで到頭、副長さんもおかしくなったか?」
『言うに事欠いてそれかよ。テメーが何処でくたばろうと関係ねぇが、
 うちもお転婆なお姫さんには無事に戻ってもらわにゃならねぇんだよ』
「じゃ、精々税金分働いてもらうわ」
『テメーは払ってねぇだろうがっ』
土方のお約束のツッコミを聞きながら、少し口元に笑みが浮かぶ。
信頼、というのとは少し異なるが、それでも銀時にこちらを任せると土方が決断した。
迷わなかった。
そのことに意味があると、緩んだ頬を引き締め通話終了のボタンを押した。

「ほい」
「旦那、これ、ないと追跡結果わからんでしょ?使ってください」
山崎の携帯だが、返却を断られ、逆に押し返された。

画面に映ったGPSの座標確認の為にも、移動後の連絡ツールとしても確かに必要だ。
漏れ聞こえていた会話で状況を察したのか、土方の行動を予測していたのかと別の意味で苛立って、山崎の頭をもう一度小突いてから、一度愛車を取りに万事屋に駆け戻ったのだ。





『花の名前 くちなし』 了


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