うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『an introduction』



「ひふみよいつむななやここのたり ふるべゆらゆらとふるべ」
「ひふみよ…いつ・・む…難しいよ」
幼い十四郎はむうっと頬を膨らませて、祖母に抗議の声を上げた。

「じゃあ、ひぃふうみぃよいつむななやこことぅ…これなら言える?」
「ひぃふうみぃよいつむななやこことぅ?」
「そうそう!十四郎は上手ね」

はんなりと祖母の優しい手が3歳児の頭を柔らかく撫でる。

「じゃあ、次はね…」

祖母が教えた、不思議な響きの言葉たち。

十四郎と祖母の内緒の言葉。

「覚えておいて。もしも銀色の…」


そこで、土方十四郎は目を覚ました。






「あれ?」

自室のベットからの見慣れた天井が視界に広がっている。
(ばあちゃんの夢…そういや、そんな時期か…)

儚げな風貌をたたえた十四郎の祖母は、3歳の秋に他界。
この13年、毎年、命日の季節になると十四郎は祖母の夢をよく見る。

優しく、たおやかに、しかし凛とした風貌をもった祖母と実際に会ったのは数えるほどだったと思う。
だが、なぜだか、深く十四郎の心に残り続ける人であった。


「さて!」
静かに零れ落ちていた涙をやや、乱暴に拭い、勢いよく十四郎は起き上がる。

幼かった十四郎も、今年で16歳。
剣道部の副主将を務める高校生に成長していた。


「おはようございます」
「おはよう。十四郎」

台所に入ると、父が新聞を広げながら、コーヒーを飲んでいた。

「今日、部活休みなら、紙類だけでいい。蔵の虫干しをしておいて欲しいんだが…」
確かに、今日は部活は休みだし、近藤たちとの約束もない。

「父さんは?」
「会社でトラブル起こっているらしいから出勤。
 『日』があまり良くはないが、短時間なら大丈夫だろう。
 来週末は天気が下り坂だから今日明日中に片づけておきたいんだ。
 私も午後には戻るから」
仕事人間の父は幾つかの企業の役員を兼任している。
自身が持つ会社、というわけでもなく、役員報酬やコンサルティングのようなことをしている。
であるから、基本的には在宅の形で仕事をして、ごく稀にこうやって出かけていくのだ。

「わかった。いつも通り?」

新聞を畳んだ父はいつも通りだとゆったりと笑った。





広々とした自宅の庭にでんっと存在する蔵。
頑強な南京錠に鍵を差し、久方ぶりに重たい扉を開ける。

そこには先祖から引き継がれたもの、曽祖父が趣味で集めていたという壺や掛け軸、書物が所狭しとならんでいた。
それらに全てに手をつける必要はない。
書物や掛け軸、湿気に弱いものを母屋へ運びだしてから掃除をするのが今日の作業だ。

「さすがに埃っぽいな…」

通常ならもう少し早い季節に一度しておくところだったが、この数か月不幸事や行事が重なり先送り先送りとされていたのだ。
マスクを持ってくるべきだなと思いながら、扉を全開に広げ、全体に光を導いていく。

先ずは換気用に付けられた小窓を開けようと中に入った。


かちゃ…
かちゃ…

何か音がする。

「な、なんだよ…?ネズミか?」
辺りを見渡すが、生き物の動く気配はそこには何もない。

本来、十四郎は幽霊の類の物があまり得意とは言えない少年であった。
可愛がってくれていた祖母はよくお化けの話をしてくれたからお化けは怖くない。
だか、幽霊のような透けてみえるようなものはどうにもご遠慮したいと常々から思っている。


ぎしり…
ぎしり…
やはり音がする。

(幽霊なんて、非現実的な物は存在しねぇ!)

自分に言い聞かせると、正体を確かめるべく、耳を澄ませてみる。


音は十四郎の足元から聞こえてくるようだ。

「床下?」

どうせ、片づけをしているうちに汚れるのだからと、構わずに埃のつもる床に耳を付けた。


「・・・・せ」
音と混ざって、小さな小さな声が聞こえる。

「え?」

間違いなく人の声。

「……出せってんだ…コンチクショウ…」

多少くぐもっているが、人の言葉に聞こえた。


(な、なんで??人!? 人がいんの?えぇ?なんかのドッキリかなんかか?これ!!)

ふと、床に顔を付けたまま、視線を動かすと取っ手のようなものが見える。

(地下?)

声の主はどうやらこの下にいるらしい。
鉄の取っ手には、黄ばんだ紙が巻きつけられていた。
どう見ても数年、数十年単位で開けられた風はない。
では声の主は別の入り口から入り込んだのか、もしくはどこかの音をひろっているだけなのか。

十四郎は古めかしいノブに手をかける。

かけただけだったのだが。


ばきり


鈍い音が鳴り響き、しまったと後悔した時には十四郎の身体は、砕けてしまった扉ごと落ちて行ったのだった。






「おい!おい!」
ぎゃんぎゃんと男の声が聞こえてくる。

「起きろってば!」
「…う…」

頭が痛い。
いや、肩も背中も、そこかしこが痛い。

「死んだのか!オイっ!」
「うるせぇってんだ!ゴラァ!!」
十四郎は重たい瞼をこじ開けて、先ほどから降ってくる声に罵声を浴びせ、起き上がる。


「生きてたのか」
「当たり前だ!勝手に殺すんじゃ…ね…ぇ」

痛む頭を抑えながら、まじまじと声の主を見つけ、声を失った。




それは銀色をしていた。


重力に逆らって跳ね返った銀色の髪。
今の時代の物とは思えない、白い流水文模様の着物。
瞳は、深い紅色。


銀色の髪の隙間から除くケモノの耳とふさふさとした尻尾は1本ではなかった。

「おい…この刀抜いてくれよ」

そして、「それ」は地下室の壁に1本の刀によって縫い付けられていた。
つんつんと、長く伸びた爪で、刺さっている刀を指示す。

「なんなんだ!テメーは?!」

明らかにおかしい。
刀が突き刺さっている場所から出血の様子もない。

十四郎は混乱しながら、怒鳴る様に問うた。


「ぎゃあぎゃあ、うるせぇんだよ!発情期ですかコノヤロー!」
「ちげーよ!テメーの方が五月蠅せぇんだよっ!」

幽霊ではない。
透けてなどはいない。
実態はありそうに見え、存在感もしっかりはっきりとそこにある。
だが、どう見ても人外だ。

「いいから!抜けってんだよ!」
「いや!テメーなんか理由があって、ここに閉じ込められてんだろうが!
 冗談じゃねぇ!」

銀色の瞳が眇められ、十四郎を射抜く。

「オメー、意外にパニクッてねぇな…『土方』か?」
「だったらなんだってンだよ!」

混乱を十分しているとはおもうが、言われてみればどこか現実と実感できていないというべきか、祖母のおとぎ話の中の出来事に出くわしたかのような気分で、口先だけは、意外に冷静に見えているのかもしれない。

「なぁ、これ抜いてくれたら、俺、お前の願い事かなえてやっから…頼むよ」
「願い事?」
「そうそう」
囁くように銀色の狐は細く笑い、長く白い指で柄を撫でた。

「別に叶えて欲しいことなんざねぇよ。自分で叶えりゃいいことばっかりだかんな。
 それより、テメー、解放されたら、どうするつもりだ?」
「そりゃ、閉じ込められていた150年分の憂さを晴らすためにひと暴れ…って痛ぇ!!」

最後まで銀色の言葉を聞かずに十四郎は、刀の柄を握り、ぐりぐりと銀色の身体に捻じ込む。

「な!なにしやがる!オメーは鬼か!嗜虐的嗜好持ちなのかっ?!」
「鬼だとか、テメーに言われる筋合いねぇし!なんだその嗜虐的って!違ぇよ!」

ごんと銀色の頭を殴ってやった。
そうしながら、やはり殴れるなら自分にも勝機があると少し余裕が出てきた。

そんな十四郎の心情になど気にすることなく、銀色の獣は大袈裟に頭を擦りながら、突然距離を縮めていた十四郎をふんふんと銀色が鼻を鳴らして匂った。

「今度は、な、なんだよ?」
「オメーうまそうな匂いがするなって思ってよ」

舌なめずりする音に、十四郎は出来る限り後ずさった。

前言撤回である。
人外の銀色に対して警戒は怠ってはならない、そう自分に言い聞かせる。

一つ深呼吸した。
何事においても舐められたらお終いだ。

(うまそうとか!こいつ俺を喰う気か?)


そして、自分が落ちてきた辺りを見上げる。
地下室から蔵へは梯子が付いている。
自力で地上に出ることが叶いそうだ。

「俺は帰るからな!テメーのことは父さんが戻り次第処理する!」
ほっとしながら、十四郎は登っていく。

「そんな悠長なこと言ってられるかね…」
十四郎の背に辛うじて聞こえた小さな声を無視して地上へと急いだ。




「なんだこりゃぁ!!」
地上に上がっていくと、辺り一面黒い霧のようなものが覆い尽くしていた。

取りあえず、母屋に走り、携帯電話で父親を呼び出す。
だが、携帯の電波はつながらない。
会社の方へもダイヤルしてみるが、だれも出る気配がない。

(しかたねぇ…直接行ってみるか…)

自転車を納屋から出し、自宅の敷地から飛び出していった。


見慣れた街並みが黒く覆われている。

そして、十四郎は気が付いた。
通りかかった公園のベンチで休む老人が、砂場で遊ぶ子供たちが、みな黒い霧に覆われて、倒れている。

「大丈夫ですか!」
黒い霧のようなものはまとわりつくように十四郎の周りにも寄ってきてはいたが、覆い尽くすことはなかった。

駆け寄り、抱き起すと、一瞬子どもの身体から、消えかけた黒が執拗にその体内に入り込もうとしている。


「そんな悠長なこと言ってられるかね…」
あの時の言葉が耳によみがえる。


そして、浮かんだのは、祖母の顔。

「銀色ってまさか…」
毎年繰り返して、このシーズンに見る祖母との思い出。

(あのとき、ばあちゃんは…)

「ひふみよいつむななやここと」
数え歌のように。

「一二三四五六七八九十 ふるべゆらゆらとふるべ」

ゆらゆらと揺れる魂を。
定着させる強いことのは。

子どもの顔に生気が幾分戻った気がした。

十四郎は、申し訳ないけれど今は何も出来ることがないと、子どもを同じように倒れる母親たちのもとへ運ぶことだけすると、再び自転車を漕いで、全速力で自宅へと戻って行った。





「ゴラァ!銀色ぉ!!」

がんっ
今度は自ら勢いをつけて地下室への梯子を駆け下りる。


「お早いお戻りで」
にやにやと銀色は嗤った。

「あの霧はテメーの仕業か?!」
「うんにゃ。ここが開いたおかげで俺の妖気が呼んじまった瘴気じゃね?」

体力のない奴とか、霊力の弱いやつじゃなけりゃ大した被害ないんじゃね?と他人事のようにいう銀色を十四郎は睨みつける。

「おいおい!瞳孔開いてんですけど?多串くん?」
「多串じゃねぇ!土方だ!」

「土方多串くん?」
「そっから離れろや!土方十四郎!」

のんびりとした、銀色の雰囲気に、ペースを崩されて十四郎は怒鳴りあげる。

「テメー!その瘴気ってのどうかできんのか?」
「そりゃあねぇ…銀さんくらいの大妖ならねぇ…これでも、れっきとした…」
のんびりと自慢話に移りそうな空気を打ち破る。

「じゃあ、どうにかしやがれ!」
「えぇ?面倒なんですけど〜。それにコレ抜いてくれないと無理だしねぇ」
つんつんと銀色が刀を指さす。
どうやら、柄に触れることは出来るようだが、それ以上どうにか出来るわけではないようだ。

「…本当に自分じゃどうにもなんねぇのか?大妖さんよ?」
流石に十四郎の言葉にむっとした様子で銀色の眉間に皺がよる。

「この『村麻紗』は俺の妖気吸い取る力があるんだよ…。
 銀さんほどの大妖だからもっているものの、普通のあやかしなら一発で消滅だな」
「ふーん…じゃあ、取引だ。天狐。それ引き抜いてやる代わりに皆を助けろ。
 ただし、自由になっても暴れたり他を襲うんじゃねぇ二度とだ」
「ご免だね」
「あ?」
「オカシイだろう?俺は刀を引き抜いてもらうだけ。願い一つだ。
 それに対して、オメーの願いは二つ。
 割にあわねぇ。算術もできねぇの?」

確かにと十四郎は下唇を噛みしめる。
平等ではないと言われたらそこまでだ。

なら、あとは取引の材料になるか解らないが、祖母の言葉を信じるしかない。

「なら、俺ももう一つ差しだしゃいいんだな?」
十四郎は出来る限り、挑発的に、自信があるようにみえるように言い放つ。

「もう一つ?」

銀色も取引の条件を変更してくるとは思っていなかったのだろう。
少し、間の抜けた表情になって問い返した。

「テメーが瘴気とやらを片づける代わりに、俺は刀を抜く。
 他に手を出さないかわりに『俺を喰らえ』」

先程「美味そう」だと獣は言った。
そして祖母もまた言ったのだ。
だから、それが取引材料になるなら、他に十四郎の選択肢はなかった。

「は?オメ…それ…意味わかってる?」
「たぶん…」
「たぶんてオメー…」

夢の切れ際、祖母の言葉。

「覚えておいて。
 もしも銀色の天狐が、銀時が目の前に現れたなら、あなたが贄になるの」


『喰らえ』
そう言えと祖母はいつもの微笑みを浮かべて、言い放った。

「銀さん本来男は喰わねぇ主義なんだけどね〜。
 ま、いっか…オメー霊気強ぇしいい匂いすっから結構滋養あんだろ…
 本当に喰っちまっていいんだな?」
「おう。取引だからな」


ばりばりと銀色―銀時は天然パーマの頭を自らかき乱すと、指先を長い爪で少し切り裂き、浮かび出た玉のような血の粒を十四郎の眉間に擦り付けた。

「人の子は嘘をつくが、俺たちあやかしには通じねぇ。
 一度結んだからには契約は必ず履行されなくちゃなんねぇ。
 てめぇの血肉一片たりとも他のやつに渡さねぇよ?」
「嘘なんざつかねぇ!このクソ天パ!」

てめぇにくれてやる。
そういって、十四郎は、『村麻紗』の柄に手をかけて一気に引き抜いた。





「ずっりぃ〜」
「ずるくねぇ」
日がすっかり傾き、西日が庭を赤く染めあげていた。

『村麻紗』の呪縛を解き放たれた、銀時はあっという間に黒い霧を噴き払ってしまった。
あまりの呆気なさに十四郎は、大妖というのはまんざら嘘じゃないらしいと感心し、そして銀時への依頼内容と解放では比重が違い過ぎたのではなかっただろうかと己の早計さを後悔をした。

だが、約束は約束だ。
銀時も祖母も言っていた。
妖は嘘をつかない。
たばかることはあるが、嘘ではない。
甘言の先にある言葉を告げないだけ。

覚悟を決めて、静かに数を数えながら、じっと銀時の餌になるために先程から静かに座して己の最期を待っていたのだ。

しかし、いつまで経っても何も起こらない。
そっと、眼を開けると、悔しそうな銀時の顔が目の前に拡がり、先程のずるい発言を告げられた。

「オメーわかってて契約した?」
「いや…」

銀時と十四郎の間に横たわる抜身の『村麻紗』が畳に突き刺さっていた。

「俺、さっき床の間においたぞ…」
「うん、みてたんだけれどね…」

もう一度、と十四郎は『村麻紗』を床の間に置き、座布団に戻る。

「じゃ、いただきま〜…」
ぎらりと銀時が爪を振り上げ、殺気が解放された。
途端に、ひゅんと音を立てて、再び『村麻紗』は二人の間に飛んできて、再び間を割くように突き刺さる。

「殺気たてなきゃいいのかね?」
何気ない様子で、にこやかに銀時が手を伸ばそうとすると、『村麻紗』が自らぎしりと動き、天狐は身を竦める。
手を引いた途端に、爪の先が十四郎の頬を掠め、ちかりと痛みが走った。

「はいはい…ダメなのね…」
銀さんお腹すいちゃってんだけど…情けない表情と共に、耳はうなだれ、尻尾が足の間に入り込む。
まさに、落ち込んだ犬の仕草に十四郎は思わず吹き出す。

「オメっ!誰のせいだと!」
「すまね…俺も喰われてやりたいところなんだが、これがなぁ…」

『村麻紗』を指さし、一気に解放された緊張もあり、堪らずくくっと笑いが漏れてしまう。

「お腹減ったお腹減った!も、取敢えずよ、なんでもいいから、どこでもいいから、少しでいいから食べさせてよ。150年の飲まず喰わずなんだから!」
「う〜ん。俺も痛いのいやだからなぁ…」

喰われるなら一思いにやってしまってほしい。
指や腕を取敢えず、十四郎自身の手で斬り落として差し出す、という猟奇的な状況は出来るなら避けたい。

ぺろりと銀時は先程十四郎の頬を切り裂いた爪を口に運こび、にやりと笑った。

「じゃあさ…」
ずいっと銀時が近づく。

実害がないのなら、『村麻紗』は反応しないのか、今度はぴくりとも動かなかった。

「なっ?!え…は?…ん…???」

十四郎の言葉は余りのことに意味をなさなかった。

銀時にある意味食べられていた。
頬を掴まれ、頬からにじみ出ていた血液を丁寧に舐めとられる。
すぐに止まってしまった出血を惜しむ様に、舌で押し開くように傷痕を嬲り、それでももう大した量が出てこないと判断すると、今度は土方の口の回りを舐めはじめた。

動物が懐くようなその仕草を拳を膝の上で握りしめたら我慢する。
もぞもぞと腰がむずむずとし、魂を吸い上げられるかのように、心臓が大きく脈打った。

銀時の舌はするりと口内へと侵入を始めた。
十四郎のものを絡め取り、嬲り、根元から吸い上げられる。

「お?けっこう、これ良いんじゃね?」

本格的に腰を引き寄せられ、堰をきったかのような勢いで貪るように唾液を奪い取られ始めた。
吸い取られ、喉が渇く。
本能的に重なった唇の間から息を零し、唾液を増やそうと十四郎の喉がこくりとなった。

動いた拍子に銀時の犬歯ががりりっとあたって、口内に鉄錆の味が広がる。
血の味にまた自然と唾液の分泌が増え、更に啜る様に銀時が隈なく十四郎を弄っていった。

「う…」

我に返ったのは、徐々に重たくなる腰の奥だ。
生を貪られたせいか、精の欲求までも目覚めかけている。

「いい加減にしやがれ!」

慌てて身を引き剥し、思わず右ストレートを繰り出していた。

「だって十四郎が約束破るんだもん!」
「「だもん」じゃねぇ!さっさとテメーは蔵に戻って、封印されやがれ!」
「いやいや十四郎君、確かに人を襲わないとは約束したけどね?
 契約に『今回のことが片付いたらまた大人しく封印される』って項目入ってないよね?
 それに、オメーとの契約も不履行のままだし?
 少なくとも、オメー喰らうまで傍に居残らせてもらいますから」
「は?」

にやりではない、にたりと笑う銀色の七つ尾の狐。


「まぢでか?」

十四郎はぐらぐらとする頭の中で、祖母にこういった時はどうすりゃいいんだよと、
苦情をぶちまけたい気分でいっぱいだったのだ。





『Contractor』 了





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