うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『Chrysalis-sideH-』






卵は割れた。
そうして、動き出した世界。
目の前に広がる一面の銀色。

何をあなたは求めるの?
ぼくをどこへと導こうというの?

ただ、無機質に
ただ、黒々とした感情を
隠しているのか、いないのか


負のエネルギーを

あなたの汚いドロドロした感情を
あなたの満ちることのない独占欲を
あなたの止められない劣情を

あなたが望むのならば、希望通りに返してあげよう





夏休みも終わり、気が付くと剣道部最後の大会も終わっていた。
後は、卒業まっしぐらというこの時期になると、再三確認の為に進路希望などというものが配られる。
普段はやる気のない仕草とスタンスを保つ我らが3Z担任・坂田銀八も、一応担任らしいことをするつもりがあるのか、いつまでも提出しない調書に対して執拗に催促をしてきていた。



「土方、進路の調書、いい加減に出せよ。1学期の最初と変わってなくても一応必要だからな」
「……」
「答えないなら、放課後、二者面談」
「今日は用事が…」
「なら、家庭訪問する?準備室にくる?」

「…行きます」


普段、なんら問題行動を起こすことのない土方十四郎の唯一の校則違反。
いや、法律で禁じられた行為であるから、違法行為なのか…
夏前に偶然見つかった、屋上でも煙草行動。

それ以来、部活停止を盾に担任坂田と不毛な行為を強要されている。




場所は銀八のテリトリーである国語科準備室。
そこへ呼び出されるということは、そういう流れになることは必然となっていた。

どうして、この男はこういう風にしか自分に触れてこないのだろう。
ぎりりと、瞳孔が開いていると言われる三白眼で銀八をにらんでやる。

真っ直ぐに見つめる視線を受けて、表面上はやる気のなさそうな顔をしながら、昏い笑みが口元に浮かんでいることを見逃してやりはしない。


あなたが本心がどうであろうと
孵化させて、虫かごに入れている以上、あなたは餌をあたえてくれなければならないのですよ?



「で、オメーいい加減に進路、教えろよ」
「………」
「あぁ、答えられないか。口はふさがっているもんな」

自身を口で頂点へと導かせながら、意地悪く銀八は言う。
自分は教員椅子に座り、足元に土方を膝まづかせた状態で。

ぐいと髪を引っ張り、痛みに眉を顰めて、見上げるとそこには悦に酔ったような銀八の紅蓮の瞳。

「さっさと、終わらせてよ」
求められているという満足感に、自分だけが、この担任の視線を独占している事実に雄が反応する。


最初にこの部屋へ導かれた頃は、この行為の意味が分からず、ただただ混乱していた。

なぜ、こんなことを男である自分に求めるのか?
後腐れがないからなのか、生意気な態度をとる自分にムカついてたのか。

ただ、短期間に、何度も繰り返され、先の行為まで求められるようになってくるとその過程は崩れてくる。


やる気のない態度と教職についているとは思えない言動はもとからのことだが、
面倒事を本来嫌う傾向がある銀八が、生徒にしかも、学校内で起こす行動としては異常だろう。
それまで、ただの国語科担任からクラス担任、3年間という短い高校生活の一部。
通り過ぎていくはずだった存在が、土方の中で大きく変わっていったのは事実である。

一度目の頂点を一人で迎えた銀髪の男の吐き出した欲を、苦しいながらも嚥下してやる。



「で?」
あくまで、呼び出した口実を、『進路指導』を再開する。

「この…」
「お前が選んでるんだよ?いつだって」

悪態をつきかけた土方を担任はやんわりと諭す。

なにも自分は強制したことはないと。

確かにあの暑い屋上で喫煙していたことに関しても、こういう行為をすることも、いつだって力づくで強制されたことはない。

あくまで、土方の意思を『尊重』したお願いにすぎない。


嫌なら断ればいいのだ。
脅したりなど、強要などしていないのだからというのだ。

ずるい大人の論理を振りかざす。


「…進学はします」
「土方?」


あぁ、この人は怖いのか。
最近、土方が気が付いた事実。


「でも、まだ…言えません」
「言えないって…こんなんでも一応クラス担任だからね?知らないと困るんだけど?」
「適当にごまかしておいてください。得意じゃないですか?そういうの…」


本当に欲しいものを欲しいと言えず
教師という顔を振りかざしながら、すべての選択肢を土方に投げかけて
逃げ道を作っているのだ。


本心をあくまで本心を見せるつもりはないらしい。
いや、ずるい大人はその感情の本幹を理解してさえいないのかもしれない。



これはゲーム。
土方が卒業するまでの、ひと時のゲーム。

銀八にとっては、周囲に秘密を隠し通しながら、土方を翻弄するゲーム。
そして、土方にとっては、銀八に…



「土方、おいで」
自分の足の間から立ち上がらせ、ベルトに手をかける。

「先生…きょうは早く帰りたいんですけど…」
学校にも、親にも、秘密で頼んでいる家庭教師のもとへ通っている曜日なのだ。

「そう?でも、このままの状態じゃきついんじゃない?」
たった今、土方の口で果てた銀八自身こそ、もう、兆していることを指摘してみてやりたい。



「ほら、おいで?」
妙に魅惑的は誘いをかける紅蓮の瞳にくらりとする。


衣類を取り除かれ、座った膝の上にのせられた。

腰を引き寄せれる。

「イイ子だ」


つぷり
中指を押し込み、一番感じてしまう場所を摩る。
夏服の上から、胸の飾りも噛みしだかれる。

「あ…」
思わず漏れた声と同時に自身もふるりと揺れた。

「声、出すと放課後とはいえ、誰かくるかもよ?」
わざと感じるところばかりを責めながら、耳元でささやく。

必死で声を抑えようとする土方の様子に銀八はほくそ笑んだ。

「ほら、どうされたいの?ねぇ?」

あくまで優位を保とうとするのか
もし、土方があられもない艶声を思いのままあげて、現場を誰かに見られたならば、一番困るのは彼自身だろうに。

じらすように、なぶるように銀八の指が、蕾をなぶる。


「言わないと…」
「せんせ…」

すでに3本入っていた指を一度抜き、自分の猛ったものを入り口に押し当てる。

「俺はどっちでもいいよ?」


本当にどちらでもいいのというのか?
きっと、ここであっさり、土方が引いたならどうするのだろう?


指を今度は土方の口に差し込む。

「どうするの?」

選ばせてあげるよ?

土方の瞳は既に赤く、濡れていた。


「先生…です」
「聞こえないよ?」
土方は顔を隠すために、銀八のふわふわした頭を抱え、かすれた声で答える。

「先生が…欲しい…です」



酩酊感がぐらりと脳を侵す。

一気に侵入して二人はつながった。




あぁ、これはゲームであるはずだけれども…

エンディングは迎えたくない。



卵は孵って、幼生に
幼生は、やがて蛹になって

いつの日か、畳まれた羽を広げ、旅立たねばならないのだろうか

そんな日なんて来なければいい

じっと、飛び立つ日を迎えることなく、駕籠のなかでずっと過ごせたならば
この紅蓮の瞳に縫い止められたまま


いつのまにか、このゲームを
束縛を
心地よいと

けだるげな銀八の中の闇に飲まれてしまったから



刻々と近づく『卒業』の文字に
この腕の中に、抱え込んだ銀色を

まどろんだ、この閉鎖的な空間でしか、二人の先を考えることのできない
将来を語ることのできない大人に



何度も何度も貫かれながら

ぼくは
蛹のまま、薄皮の中から、そっとほくそ笑むのだ。





『Chrysalis-sideH-』 了



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