うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『deep sensation』



side K

5月6日午前2時。
世はまさにGW真っ只中。

「あ〜もう働きたくねぇ」
最後の客を見送ったNo.1ホストは、肩を下ろしため息をつく。
坂田金時の所属するホストクラブも連日満員御礼だった。

「みんな、家でゆっくり過ごしゃいいのに」
「うちとしては、ありがたいこと、この上ないじゃないですか」
「まぁなぁ…」

ホストクラブに通う主流は、働く女性になってきている。
一時の癒しを。
一時の主役になるために。
金時達は、夢と愛を振り撒くのだ。
口当たりの良い言葉なら、いくらだって、囁ける。
戦地で今際に聞かせる言葉よりずっと気は楽だし、女の子達が喜ぶのを見るのは楽しい。

それでも、今回の10日連続勤務はかなりの疲労を金時にもたらしていた。

「金さん、明日は休んでいいですよ」
新八の言葉に目を見張る。
「マジでか?」
「流石に連休最終日ですし、夜通し遊ぶお客さんも少ないと思いますから」
そうは言うものの、どうしても疑ってしまうのは、このケツアゴ新八が敏腕すぎるマネージャーだからなのだが。
「神楽のお守りとか、そんなオチはねぇよな?」
「神楽ちゃん?確か、スイスじゃなかったかな…今頃は」
「よし!すぐ帰って布団にダイブすんぞ!呼び出しには一切出ないからな!完全オフにす…」
高らかに宣言しかけて、目の隅に黒い塊を見とめた。

しなやかに、夜の街を足早に歩く漆黒の男。
まるで、ネコ科の獣が夜の散歩をするように、軽やかに、それでいてしっかりと確信に満ちた足取りで。


かぶき町ナンバーワンホストの座をキープしつづけている坂田金時は、ただ今、対マフィア・テロ対策組織真選組の若き副長との距離を縮めようと秘かに活動していた。(身内の間では決して密やかではないのだが)

なぜ、魅かれるのか。
理屈ではない。
ホストなんて職業についているのだから、女に困っているわけではない。
ただ、魅かれていた。
それは、根底に潜む本質が似ているという同族意識からなのか。

初めて、路地裏に会った時から、黒い獣に魅かれてしまったのだからしょうがない。

恋だとか愛だとか。
そんな言葉が当て嵌まるのかどうかなんて知らない。

ただ、渇望する。



「金さん?」
新八も視線の先を追い、あぁと納得する。
「あぁ、土方さんだ。今日、あれ?昨日か…誕生日でしたっけ?」
「あ?なんでオメーが知ってんだよ!ケツアゴメガネのくせに」
「メガネもケツアゴも関係ないでしょうが!ボクはただ、姉が近藤さんがそんなこと言ってたって…」
「あんのゴリラ…」

半分命がけで新八の姉・お妙の情報を餌に、土方の上司から基本プロフィールを聞き出したというのに。

「で?プレゼントは何を用意したんです?」
「却下された」

そうなのだ。
拾った猫にかこつけて、先日会った時に探り入れた。
だが、あっさりと、
「誕生日だぁ?仕事に決まってんだろうが。欲しいもの?ねぇよ。別に」
そう返されて、金曜日の晩にグレイを預けて以来会っていない。
GWは、金時も出ずっぱりなので、連休中は十四郎のところに行ったままだ。

欲しいものなどない。
根底で似ているということは、金時と同じ。

欲しいものなんて思いつかないのだろう。
金時も、今でこそ、十四郎が欲しいかと思うが、物欲という意味でそう、拘りがあるわけではない。
だから、理解できないこともない。
でも、贈る側としては、それはそれで困るモノだと今更ながらに思う。

「こういうとき、似すぎているってのも困るよね…」
「本当に、土方さんにかかっては、金さんも形無しですね」
楽しそうに笑う新八の頭をげんこつで殴り、店に急いで上着と財布を取りに戻る。



ただ、ゴリラは言っていた。
5日は無理でもどこかで休ませないとならないと。
足取りからして、きっと上がりだ。

約束は取りつけていない。


「さて」
一日遅れではあるが、勝手に祝わせてもらおうことにしよう。

金の獣は、地面を蹴り、駆けだした。







side H

世はまさにGW真っ只中。

「トシ、明日は休めよ」
上司が、帰り支度をしながら、そう声をかけてくる。
「あぁ…そうだな…うん。コレが片付いたら、休みもらうわ」
目の前に積もりに積もった書類の山。
「ううん…終わる?それ…」
「終わらせる…」
ディスプレイの光でいい加減にしぱしぱしてきた目を抑えつつ、そう返事をする。

「すまんな。トシ…誕生日の日ぐらい早く帰してやりたかったんだけどよ」
「別に構いやしねぇよ。いい歳して誕生日だとか祝う予定何てねぇから」
自分の誕生日だろうと、なんだろう何も変わらない。
ただの連続した日常。

「あれ?金時は?」

近藤の問いに、一瞬何を言われたかわからなかったが、それが最近腐れ縁ともいえる間柄になりつつあるかぶき町のホストを差すことに気が付き、思いのほか大きな声で問い返してしまった。

「は?はあぁぁぁぁぁあ?なんで、あんな腐れ天パ?」
「いや、仲良いだろ?お前ら。一緒に過ごすのかと思ってたんだが?」
「ねぇよ!大体アイツ、今は稼ぎ時だって言ってたし!そんな暇あるんなら、ナンバーワン張れてるうちに稼いどけってぇの」
GWはなかなか自分のマンションに帰る時間が安定しないとぼやく男に、猫を連休中自分の手元に置いておくと提案したのは自分だ。

「そうかそうか!うん!よかったよかった」
「なんだよ?近藤さん?」
「ちゃんと、トシは金時のこと大好きなんだなって安心した」
「なっ?!なに言ってんだアンタ!つうか、何処をどう見たらそんな風に話が飛ぶんだよ?」
「う〜んと。そうだなぁ。トシってさぁ、一度懐にいれちゃうとなんでも赦しちゃうじゃない?でも、逆に興味ない人間には結構明確なライン引いちゃうんだよね」
「う…それとクソホストとどう関係あんだよ?」
その辺りは多少なりとも自覚はある。
仕事での付き合いであれば、潤滑に事が進むように多少の愛想なり、情報なりを収集するが、その他での関わりについて、できるだけ避けて通る傾向があるのだ。
付き合いの長い近藤はそのことを言っているのだろう。

「そんなことは本当はトシが一番よくわかってんじゃないのか?」
じゃ、俺はお先に帰らせてもらうけど、本当にやすめよ!ガハハハと豪快に近藤は笑い、5月6日になろうかという時刻に帰って行ったのだ。


最終的に、土方が紙の山を捌き倒し、庁舎をでたのは2時に差し掛かろうとするころだ。


「あ〜さすがにこれ以上は働けねぇ」
疲れが蓄積されている自覚はある。
このGW中、特に目立った騒ぎも、内偵の進展もなかったが、代わりに書類の山を片づけ続けていたのだ。
肉体を、というよりも目の疲れは最大に近づいていて、偏頭痛さえ襲ってきている。

足早にかぶき町を通り抜け、駅へと向かう途中、近藤が揶揄したホストがいる店の前を通る。

「いや、本当になんでもねぇから…」

閉店の時刻は過ぎているから、きっと店内で片づけをしているか、帰っているだろう。
だから、顔など見るはずはない。
そう言い聞かせていたというのに、よりによって、男は店の前にいた。
マネージャーの志村新八とともに、客の見送りだったのだろうか、なにやら立ち話をしているようだった。

夜の街の色とりどりの人工灯が、遠目であっても金時の金色の髪に反射して、不思議な色彩を作り出していた。
少し、斜に構え、気だるげに立つ姿。
死んだ魚のような目をしているくせに、突如として、獰猛な獣に変わる様は見ものだと思う。

視線は合わせず、気がつかれないように足早に歩いた。


確かに、おかしい。
普段の自分であれば、わざわざ、かぶき町のホストとこんな腐れ縁を、
しかも、その深さを増させてしまうような行動を自らとることはありえない。

相手は同性のホストだ。
しかも、中国系マフィア、夜兎の神楽と懇意にしている男。
仕事に関わるならば、距離は置いておくのが定石。


そう考えると、あの金色の獣に、魅かれていることを認めざる負えない。
理屈ではない。
肌の下の、深いところで、何かがざわめいている。
ただ、魅かれていた。
それは、根底に潜む本質が似ているという同族意識からなのか。

初めて、路地裏に会った時から、金色の獣なら、食い殺されてみるのも面白いかもしれないと思ってしまったのだからしょうがない。

恋だとか愛だとか。
そんな言葉が当て嵌まるのかとは思えない。


誰かの執着するなど自分にはありえない筈だ。
そう思うのに、希求する。
身体の深いところから。

認めたくはない感情だが。


「十四郎!」
声とともに、強く腕を引かれた。
「さっきから呼んでんのに気が付きゃしねぇんだから!」
「あんだよ?なんか用か?」
自分でも愛想のない応えだと口をへの字に結んだ。
今自分が向かっていた思考に動揺していた為の結果でもある。

「オメーなぁ、用が無ければ声かけちゃいけねぇのかよ?」
「そうだな」
気を落ち着けるために、煙草を取り出す。
「あ?何それ?金さん傷つくぜ?さすがにそれは〜」
「で?」
「あぁ、今から俺んち来ない?」
傷ついたといいながら、口調はけして怯まない。

「なんで?」
「俺も明日休みだし、こんな時間だから帰るところなんだろ?
 うちで宅呑みとかどうよ?」
「俺は…」
「明日休みだろ?」
クエスチョンで尋ねながら、確信じみた話っぷりでタクシーを呼びとめるために男は手をあげる。

「おい!俺はまだ…」
行くともなんとも…そう答えかけて、思わず口を閉じてしまった。
じんわりと掴まれたところから、伝わる熱量と、
それに反応してる自分の鼓動に。

「大丈夫だって。取って喰いやしねぇよ」

静かに、
だが、底知れぬ光をもって囁く金色に息を呑む。

「上等だ」

そういって、出来るだけ不敵に見えるように笑ったのだった。




『Melting Point―deep sensation―』 了






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