『Chrysalis-sideG-』
卵は割れた。 そうして、無理やり孵化させた、無垢な幼生。 育ててみよう 染めてみよう
真っ白な君は何色にも染まることが出来るはずだから。
負のエネルギーを
ボクの汚いドロドロした感情を ボクの満たされることのない独占欲を ボクの止まらない劣情を
乾いた砂漠の砂の如く、吸いこんで見せて…
夏休みも終わり、気が付くと土方の高校最後の大会も終わっていた。 後は、卒業まっしぐらというこの時期になると、本来3年生の担任をなんてものは本来忙しいものである。 しかし、銀八の受け持つクラスは一風変わったメンバーであると同時に、己の道に迷いないものたちばかりでもあったから、意外なことに進路について浮だつことも少なかった。
願書や推薦のための書類仕事が若干増えたぐらいなもので、平穏無事な2学期だといっても過言ではない。
願書を頑なに提出しないただ一人、を除いては。
「土方、進路の調書、いい加減に出せよ。1学期の最初と変わってなくても一応必要だからな」 「……」 「答えないなら、放課後、二者面談」 「今日は用事が…」 「なら、家庭訪問する?準備室にくる?」 「…行きます」 忌々しげに、憎しみさえこめられた視線を土方から受ける。
それさえ、ぞくぞくと下肢を刺激する、一因にしかならない。
高校をいう虫かごのなかで育てる、この幼生をまだ離してはやれない。
「で、オメーいい加減に進路、教えろよ」 「………」
「あぁ、答えられないか。口はふさがっているもんな」 小さな口に、自分の中心を咥えさせながら、意地悪く言う。
自分は教員椅子に座り、足の間の黒い髪に触れた。 ぐいと髪を引っ張り、すこし顔を上げさせると、悔しそうに睨む土方の青灰色の瞳。
「さっさと、終わらせてよ」 ぞくりと、自分へのみ向けられる、その視線に雄が反応する。
この行為を最初にさせたころに比べると、土方はかなり、うまくなったと思う。 短期間に、それだけの経験を積ませたということでもある。
だが、まだ少し刺激が足りない。
頭を押さえ、自らの腰を動かし、土方がうめくのも構わず一度目の終点を目指す。 喉の奥へ。
顔を汚してやりたい欲求もないことはないが、学校では後片付けが面倒だ。 かといって、自宅や校外で逢瀬を交わすような危険は冒したくなかった。
げほげほと土方はむせ返るが、吐き出しはしなかった。
「で?」 その様子を気遣うでもなく、『進路指導』を続ける。 「この…」 「お前が選んでるんだよ?いつだって」 悪態をつきかけた少年をやんわりと諭す。
なにも自分は強制したことはないと。
確かにあの暑い屋上で喫煙していたことに関しても、こういう行為をすることも、いつだって力づくで強制したことはない。 あくまで、本人の意思を『尊重』したお願いにすぎない。
ビデオカメラの撮影内容をばら撒くといった脅迫じみたセリフを言ったこともないし、第一、実際に映っていたかどうかさえ、土方は確認していないのだ。
嫌なら断ればいいのだ。 脅したりなど、強要などしていないのだから。
ずるい大人の論理。
「…進学はします」 「土方?」
卒業が近づいている だからこそ、今知りたいこと。
「でも、まだ…言えません」 「言えないって…こんなんでも一応クラス担任だからね?知らないと困るんだけど?」 「適当にごまかしていてください。得意じゃないですか、そういうの…」
なんだか、最近ふてぶてしくなった? ほんのりと、いじけたようにも見えて、柄にもなく可愛く見えてしまう。
大切にしたいような気持ちなんて、要らないのに。
これはゲーム。 土方が卒業するまでの、ひと時のゲーム。
「土方、おいで」 自分の足の間から立ち上がらせ、ベルトに手をかける。
「先生…きょうは早く帰りたいんですけど…」 「そう?でも、このままの状態じゃきついんじゃない?」 口でしている間に土方自身も興奮してきたのか、兆していることを指摘する。 それをそろりと撫で上げた。
「ほら、おいで?」 邪魔な衣類を取り除き、座った膝の上にまたがらせる。
腰を引き寄せた。
「イイ子だ」
つぷり ジェルを指になじませ、 中指を押し込み、一番感じてしまう場所を探り、奥へ奥へと浸食していく。
夏服の上から、胸の飾りはやや荒く噛みしだいてやると、白いシャツは唾液で濡れ、突起が赤く更に立ち上がった。
「あ…」 思わず漏れた声と同時に彼自身もふるりと揺れた。
「声、出すと放課後とはいえ、誰かくるかもよ?」
わざと感じるところばかりを責めながら、耳元でささやく。 必死で声を抑えようとする自分の手の甲を噛みしめる土方の様子にほくそ笑んだ。
「ほら、どうされたいの?」 すっかり育ってしまった彼がぬらぬらと光り、銀八の白衣にシミを作る。
「ねぇ?」 腰が揺らめき始めたところを見計らって、それまでしつこいくらい触れていた場所から指をずらした。
「あ…?」 直接的な快感が遠のいて、苦しそうに土方の眉がしかめられた。 感じる部分を外しながら、それでも3本に増やした指を速めて、揺さぶり続ける。
「言わないと…」 「せんせ…」
すでに3本入っていた指を一気に抜き、自分の猛ったものを入り口に押し当てる。 先だけを少しだけ入れ、なぶるように蕾をなぞった。
「俺はどっちでもいいよ?」
一度口でしてもらったし? 指を今度は土方の口に差し込む。
「どうするの?」
選ばせてあげるよ?
土方の瞳は既に赤く、濡れていた。
「先生…です」 「聞こえないよ?」
土方は顔を見られたくないのか、銀八のふわふわした頭を抱え、かすれた声で答える。
「お願いだから…」 「なに?」
「先生が欲しい…です」
めまいがする。 メガネを取り去り、机のうえに放り投げた。
完全に手に入ったかのような錯覚をおこす。
土方の中を、犯して満たした。 土方のうめき声と、徐々に上がってくる吐息が耳元で大きくなる。 衝動のままに腰を振れば、かすれた声がまた、己を刺激する。
あぁ、これはゲームであるはずなのに…
終わらないゲームなどない筈なのに エンディングを見たくない。
卵は孵って、幼生に 幼生は、やがて蛹になって
いつの日か、畳まれた羽を広げ、旅立つのだろうか
そんな日なんて来なければいい じっと、その衣の下から、外の世を覗うその、黒い瞳を潰してしまい 羽をピンで縫い止めて
刻々と近づく『卒業』の文字に
この腕の中に、居ながら その瞳が見据える将来を語ろうとしない少年に苛立ち
ボクは何度も何度も 彼を貫くのだ
『Chrysalis』 了
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