うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『Caterpillar』






卵は割れる。
卵から孵ったばかりの小さな生き物。
幼生。


その殻を半ば無理やり破るのは俺。

ハンプティダンプティ よろしく
割れた殻は、ほら元には戻らない。


「ほら、こっち」
煙草を屋上で吸っていたことをたてに連れ込んだ、放課後、国語科準備室。

この学校じゃ、この部屋を使う教師は僕しかいないから、完全私物化。
職員室からも、クラス棟からも離れた位置にあるから、わざわざここを誰も使いたがらない。


どんどん、自分の物を持ち込んで、今や完全にセカンドハウス。

コーヒーメーカーにジャンプ、ソファーに仮眠グッズ。
欠かせない糖分も買置きがたくさん。
ここで、もう暮らせるんじゃないかってくらい持ち込んだテリトリー。

そこへ君を誘い込む。

「いったい何すればいいんですか?」

ぐいぐいと引っ張る僕に少し不安になってきたの?


「う〜ん、そうだなぁ。とりあえず、そこのソファで自分でシテみて?」
「はい?」
きょとんとして、何を?と全く分かっていない。


やや、強引にソファへ放り込み、ベルトのバックルを外してやる。

「いつも、自分でヌイてんだろ?やってみせてよ」
「冗談きつ…」


無理やり、笑顔を作ろうとして失敗している。
理解不能な状況なんだろうなぁ。

「ほら、手伝ってやろうか?」
返答を待たずに、ファスナーを引き下ろし、彼を取り出す。


「先生!ちょっとっ」
「いいじゃん、見せて?それで、今日の件は一応忘れてあげっから」
そろりと撫で上げると、びくりと身体全体が反応している。

真っ赤になって、正面から睨みつける君にゾクゾクする。
でも、ここじゃ微妙な位置だから…

するりと自分も腰かけ、背後から抱きすくめるような体勢に移動。

「どうする?」

後ろから君の手を取り、自身へと導き、再度問う。
きっと、誰か他の人間に触れられる機会なんて、まだそうない若い性はもう、少し兆しを見せ始めていた。

手を取り、君の手を動かしてやる。下から上へ。

「! こんなことして楽しいかよ?」
「楽しいね。いつも生意気な多串くんの可愛いところ見ることできて」

緩く笑う。


イライラする。
イライラするんだ。
君を見ていると。

気に入らない。
気に入らないよ。

たかが、高校生程度の男に翻弄される自分が。

「可愛くねぇっ!」
反論しながら、快楽に流されてきたのか、こちらが力を入れなくても自分で動かし始めているよ?

「もう限界?」

首筋に唇をあてながら、意地悪く聞いてやれば、さらに真っ赤になってしまう。


「ほら」
べろりと耳朶を舐めあげれば、びくりと反応。

「いやらしいね…土方…」
「あ…ぁ…」

そのまま、頂点へ。

受け止めた白い液体を君の口元へ。

「どう?」
無理やり、口内へ指を押し込み、自身の放ったものを味あわせる。

「このっ変態!」

変態ときましたか…
確かに、女相手にいろいろ試したことあるけど、この程度で言われるとは思ってなかった。

序の口だよ?

「おい?」

口から、僕の手を引きはがし、ソファーから土方は急に立ち上がった。

「これで煙草の件、見逃してくれんだな?」


「うん、煙草の件はね」
「?」

もともと、喫煙くらいのことで、土方を縛ろうなんて思っちゃいない。

折角破った殻。
どうせ、元に戻りやしないのだから。

「あれ、見える?」
ソファーに座ったままの僕を立った体勢で睨む土方の後方を指さす。

「え?」

急に青ざめる様がまた楽しい。 
頭の決して悪くない土方は指の指し示した先の物をみて、すべて悟ったのだろう。

赤いライトは可動している証。
小型のビデオカメラ。


「今日はもう帰っていいけど…」

運動場側の窓から差し込む夕日が土方の白い顔を朱に染めている。

そこに隠れるのは、憤怒なのか、羞恥なのか。


「また、先生とあそんでね?」



卵は割れた。
卵から孵ったばかりの小さな生き物。


その殻を半ば無理やり破ったのは僕。

割れた殻は元には戻らないなら、これからどんな変容を遂げる?

さぁ、僕の色に染まって?




『Caterpillar』 了


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