うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

【参之一】






―銀壱―



おかしい…
坂田銀時は首を傾げる。

「オメー、次の休みいつだ?」

なんだかんだと、土方の非番に酒を飲みに行くようになり、気がつけば、月は如月に入っていた。
安い酒とそこそこ美味いツマミを出す店で、ひとしきり、お互いの身内の困った話だとか、最近見たドラマの話だとか…
他愛もない、本当に他愛もない話をして、ほろ酔いになった頃、どちらともなくお開きにする。
軽口を叩いたり、言い合いをすることもあるにはあるが、険悪な空気にまで発展することもない。
比較的、穏やかな時間。

桂や坂本達と賑やかに飲み明けた空気とも、長谷川と愚痴を零しながら、べろべろになるまで飲み明かす空気とも違う。

いやな空気ではない。
ただ、やはり空気の示す意味がわからない。

土方は銀時のことを好きだと言った。

だが、これは恋情を向ける相手と二人だけで飲みにきたという空気だとは思えない。

あまりに普段通りすぎた。
若干、土方の怒りの沸点が日中出会う時よりも低い気はするが。

新年会と称した最初の誘いの時にあの朱に染まった顔を見ていなければ、こんなにも混乱していなかったのかもしれない。
タダのジョークだったのだと、思い込めただろう。


そして、必ず別れ際に

「オメー、次の休みいつだ?」

次の約束を口にするのは自分の方。
それも、気にいらなかった。


「…10日後…」
返る声色は、あまりに淡泊。


「10日後ねぇ。相変わらず副長さんはお忙しいこって」
パサパサと傘に落ちてくる雪の音を聞いているのか、少しぼんやりと上向き加減だった視線が、困ったような色を含み銀時の方に降りてきた。

「近藤さんがな…」
「ゴリラ?」
「今月、チョコレートがどうのってイベントのせいで浮足立ってやがる」
「あぁなるほど」
バレンタインが近かった。
近藤のことだ。
お妙の消し炭のようなダークマター欲しさに、すまいるの売上貢献の為に日参しているに違いない。

去年は銀時も、数個(新八と連名のものもあったが)貰うには貰えた。

「オメーはいくつくらいもらうんだ?」
「あ゛?」
思いつきで口にした質問に、土方の眉間の皺が深くなる。

「だから、チョコ」
「甘ぇもん苦手だから、受け取らねぇ」
「うわっそれ何気に自慢?自慢してるよね?」
顔だけは綺麗だからな・・・
そんなことを考えながら、軽口は止まらない。

「してねぇよ。テメーこそどうなんだよ?」
「そりゃ貴重な糖分だからね。まぁ、銀さん、もってもてだから、いつもしばらく食うに困らないくらいもらうんだけど…」
自分でいいながら、少し虚しくなってきた。

「嘘つけ。マダオのくせに」
自分のことを好きだと言った口で、くつくつと笑われる。

少しむかついたままでてきたのは、

「そういや、オメーはくれねぇの?」

土方にチョコをねだるような言葉だった。







―黒弐―



おかしい…
土方十四郎は首を傾げる。


「オメー、次の休みいつだ?」

なぜ、坂田銀時は自分を誘うのだろう。


なんだかんだと、土方の非番に酒を飲みに行くようになり、気がつけば、月は如月に入っていた。


安い酒とそこそこ美味いツマミを出す店で、ひとしきり、お互いの身内の困った話だとか、最近見たドラマの話だとか…
他愛もない、本当に他愛もない話をして、ほろ酔いになった頃、どちらともなくお開きにする。
軽口を叩いたり、言い合いをすることもあるにはあるが、険悪な空気にまで発展することもない。
比較的、穏やかな時間。

日中、会えばお互い憎まれ口を叩きあい、時には胸ぐらをつかみあって、殴り合いさえしてしまう仲だというのにもかかわらず、二人で会うようになって、少しずつ空気が変わってきている気がする。

いやな空気ではない。
ただ、やはり空気の示す意味がわからない。


土方は銀時のことを好きだと言った。

もしかしたら、銀時はそのことを失念しはじめているのかもしれない。
タダのジョークだったのだと。

ただの腐れ縁。
そう思ってくれた方が有難いと言えば、有難い。

期待はしない。
当たり前のことだが。


そう思うのに、必ず別れ際に

「オメー、次の休みいつだ?」

次の約束を口にするのは銀時に惑わされる。
腐れ縁から、知人ぐらいには昇格させてもらったと解釈してもいいのだろうか。


「…10日後…」
雪が降り積もってきた、傘を内側から見ながら、シフトと行事をそこに思い描き、答える。

「10日後ねぇ。相変わらず副長さんはお忙しいこって」
本来8日後の14日が休みだったのだが。
ゴリラのような自分の大将を思い起こし、苦笑する。

「近藤さんがな…」
「ゴリラ?」
「今月、チョコレートがどうのってイベントのせいで浮足立ってやがる」
「あぁ」
2月14日はバレンタインだとかいう、天人の持ち込んだ風習が根付き始めていた。
すっかり、ストーカー業が板についてしまった、近藤は何の迷いもなく、14日はすまいるに繰り出す。
その前哨戦として、暫く日参の日々が続くに違いない。


「オメーはいくつくらいもらうんだ?」
「あ゛?」
突然の問いに眉を顰めてしまった。

「だから、チョコ」
「甘ぇもん苦手だから、受け取らねぇ」
「うわっそれ何気に自慢?自慢してるよね?」

「してねぇよ。テメーこそどうなんだよ?」
知っている。
銀時はモテないモテないと自分では言うが、秘かに思いをよせている女人がいないわけではないということを。

「そりゃ貴重な糖分だからね。まぁ、銀さん、もってもてだから、いつもしばらく食うに困らないくらいもらうんだけど…」
「嘘つけ。マダオのくせに」

笑いがこぼれる。
それは、銀時を笑ったわけではなく、自分のことを嘲笑うもの。
貰うには貰ってるんじゃないかと。


「そういや、オメーはくれねぇの?」

心の声が聞こえたのかと、固まってしまった。




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