うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ





注意書き

・基本的に万事屋と真選組メンバー入れ替えたパラレルです。
・舞台設定は原作で。
・プロローグなので、銀土色は薄めです。しかし、基本は相変わらずの銀→(←土)。

以上を踏まえて、お気に召さない可能性あるかたはバックでお願いします。












「やっぱり、トシさんが書いてくれると違うわぁ」
「じゃ、それで出来上がりってことで。毎度あり」
女から、恋文の手直しと代筆の報酬を受け取り、男は立ち上がった。

「あら、もうお帰り?トシさんなら、サービスするからゆっくりしていってくれたらいいのに」
「すまねぇ。あいにく今日は次の仕事が入ってるんだ」
苦笑いをして、申し出を断る。

「あら、残念」
しな垂れかかる女をするりと躱しながら、トシと呼ばれた男は店をでた。


ここは、江戸、かぶき町。
夜の蝶たちが住まう場所。

客を引き留めるための文。
本気の心を伝えるための文。
別れを告げるための文。

携帯電話なんて便利なものが天人と共に入ってきた昨今ではあるが、まだまだ、その需要はゼロにはならない。

今日も、それらを代筆、フォローする「万事屋トシちゃん」は引く手余ただ。

「『黒鬼・紫鬼の双璧』と呼ばれた男が今や恋文屋か」

煙草に火をつけようと立ち止まったところに声がかかる。

「キャバクラの呼び込みをしてるアンタに言われたくはねぇな。
 それに恋文屋じゃねぇ。万事屋だ。近藤さん」

「そう言うなよ。トシ―。攘夷活動するにも先立つものは必要なんだからさ」
ガハハハと豪快に、ゴリラにも似た、ガタイの良い男が笑った。

トシ―土方十四郎は少しだけ、やわらかな笑みを口元に浮かべた。




攘夷戦争とよばれた戦いがあった。

強大な科学力と数を誇った天人たちの前になす術なく、次々と仲間は倒れ、
皆を率いていた自分たちもその袂を分かつ。

ひとりは、指名手配になろうとも、攘夷活動を地下で続ける。
ひとりは、すべてを破壊するために、憎んでいたはずの天人とさえ手を組み、裏街道を走る。
ひとりは、その戦場を経済に乗り換え、広大な宇宙で商売という戦いに身を投じる。

そして、ひとりは、どこにも行けず、この町にいる。


攘夷を今更行うといっても、すでに天人は多大な影響力をこの国に伸ばし、
多くの民はそれに順応している。

今更、排除するなど…

『万事屋』と呼ばれる、何でも屋を営み、自分の守れる範囲いっぱいに手を伸ばし、
つつましやかに生活できればいいと土方は思っていた。

そして、いつのまにやら、増えた従業員二人を養っていくために、苦肉の策で始めた手紙の代筆業…これが、思いのほか小銭稼ぎになって、いまや本業を抜く勢いで収入のほとんどを占めている。

もともと「フォロ方十四フォロー」なんてふざけて呼ばれていた苦労性がこんなところで役に立つとはしていなかったのだが。

土方は、情報をフルに使って、物事を潤滑に回していくというゲームじみた行為も嫌いではないが、体を動かして対価を得るような仕事の方が向いている自覚はあった。


「おっと、ヤバいヤバい。じゃ、トシ。総悟とザキにもよろしくな」
近藤が、大きな体格に似ない素早い動きで身を翻した。


「ト〜シ〜く〜ん」
銀色の毛玉頭が前方から突進してくるのが見えたからだった。

「チッ…この…汚職警官がぁ!!」
土方はなんの迷いもなく、腰に下げていた木刀を抜き、毛玉に突きを繰り出す。

それを難なく躱すのは、武装警察真選組副長・坂田銀時であった。


「おいおい、いきなり出会い頭、突きってどうなの?
 仮にも自分の恋人に対して、それはないんじゃない?!」
「いつ…テメーの恋人になったよ?!ゴラァ!! このクソ天パ〜!!」
突きの軌道を上に逃がし、そのまま上段からの攻撃に修正した。

「え〜?それ聞いちゃう?初めて会った屋根の上から!!」
坂田はそれをニヤニヤしながら、逆に前に出てきながら避けた。

「ちげーよ!! 池田屋であったのが最初じゃねーか!!」
「じゃ、生まれた時から決まって…へぶし!!」
振り下ろした上段を下から跳ね上げると見せかけて、土方は坂田の脇腹に回し蹴りをいれた。

「こんのセクハラ警官!!」
「ん。セクハラ警官なのは土方君に関してだけだから…」
完全に入ったと思っていた蹴りは微妙なバランスで避けられていたらしく、決定打にはなっていなかったようだ。

坂田がうずくまったのはほんの短い時間でしかない。
逆にぐいっと坂田の腕が土方を掴む。

「メシ食いにいこ?銀さん昼飯まだなんだよね。 おごってやるから」
「………次の仕事入ってるから、1時間以内なら付き合ってやらぁ」

(よし!一食浮いた!)
などという内心を押し隠し、渋々の態を装って土方は返答する。

「え〜1時間?それじゃ、銀さんメシ食えても、土方喰う時間ないじゃん」
「いや、喰うな。俺は喰わんでいい」
「はいはい」

返答はおざなりに返される。


ずるずると引きずられるようにメシ屋に連行されながら、

(なぜ、毎回毎回この手を振り払えないんだ?)
と、土方は首を傾げるのだった。





『よろず事、承り候』 了





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