『Egg』
君はまだ、たまご。 まっさらなしろいしろいたまご。 何にも染まらず、染められず純粋を体現したような真っ直ぐな心根。
しろい、ちいさなたまご。
入学式の時から、目についていた。 無垢な存在。
黒い外観とは裏腹に、なんと染まらない純粋培養。 周りを取り囲む環境が彼を作るのか たしかに、穏やかな満ち足りた家庭。 (友人関係を見る限り、ドエスだったり、ストーカーだったりと一概に『穏やか』とは言えないが)
では、彼の根底が何にも揺るがない軸を持っているのか。
無駄に綺麗な外見。 無駄に愛想のない言葉。
彼はいつか孵化するのだろうか? その時、どんな色に染まっている?
「多串くん」 「………多串じゃねぇ」 銀魂高校の屋上も、そろそろ夏休みを迎えようというこの季節では、蜃気楼さえ起こしていそうだ。 コンクリートの床は、給水塔の影とはいえ、かなりの高温を保つ。
「こんなところで暑くないの?」
初めて見かけた頃は、ただの教科担当。 2年目に入って、クラス担任になり、そのまま3年まで持ち上がって、早4か月目。
確かに、そこいらの女とその場限りの関係を結ぶのにも飽きていた。
綺麗な君。 無愛想なくせに、ストイックな対応をするくせに、男も女も引き寄せる。
だからといって、男、しかも生徒なんて選択肢はない、かとも思ったが、まぁ、卒業するまでの暇つぶしにはなるかもしれない。
そういう趣向で観察してみても、この卵は相変わらず。 からかって、言葉で煽ってみても、相変わらず初心な反応に変化はなく。
つまらない。
つまらない。
俺の視界をちょろちょろと掠めていた存在は、今や大きなモノに。
それが気に喰わない。
誰にも染められない? いや、染めたい。
気に喰わないから。
その強気な瞳を、涙で濡らし、俺に縋らせてみたい。 這い蹲らせて、俺を求めさせたい。
卒業までの残りの時間ぐらい、楽しませてもらおう。
なかなか道を踏み外しそうにない君だから。 ココロなんて、とても穢れそうにない君だから。
カラダから引きずり落としてみよう。
「こんなところで、タバコまずいんじゃない?」 「………」
あれだけ、見ていたんだから、知っていたよ? 君がその年でかなりのヘビースモーカーだって。 こっそり、ここで吸っていたことなんて。
「内申心配?」 「……見逃してくんねぇの?」 内申より、最後の大会が…ぽつりとつぶやく、君。
あぁ、大好きな近藤に迷惑かけたくないんだね? その事実が、また、俺をイラつかせる。
「先生のお願い、聞いてくれるなら考えなくもないけど?」
へらりといつもの笑みを浮かべる。 あからさまにホッとした君。
甘いね。
甘いよ、本当に。
君はまだ、たまご。 まっさらなしろいしろいたまご。 何にも染まらず、染められず。
無垢なたまご。
彼はいつ孵化する? 俺の希望通りのタイミングで壊してみようか。
さぁ、ゲームのはじまりはじまり。
『Egg』 了
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