うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『4years later R』





「先生…好きだ」
坂田に抱きしめられて、耳元で囁かれる。
心地好い声に耳朶を刺激されて、ゾクリと身を震わせてしまった。




「坂田…」

新しい職場に挨拶にやってきた、元教え子を校門で待ち伏せた。
教え子の名前は坂田銀時。
俺、土方十四郎に5年前からこうやって告白し続ける稀有な存在。

どこがお気に召したんだか…
最初、好きだと言われた時は正直またかと思っていた。
自慢ではないが、俺は昔から結構(男女問わず)想いを寄せられる機会が多かった。
だが、昔恋人を目の前で失ってから、そういった感情から遠ざかるようにしていた。


だからこそ、今だに不思議だ。

坂田に関しては、いつものように、その場で返答しなかった。

ミツバが逝ってからちょうど5年目。
もふもふとした手触りの銀色の髪と普段はやる気の死んだ魚のような目をしているくせに、時々見せる強い柘榴色の視線。
大型犬のように飛びついて来てくれる手を、いつでも振り払うことが出来なかった。

逆に、大人のズルさで、コイツを試すようなことをしたりもした。



「大学ちゃんと4年で卒業して、社会人になっても気持ちが変わらないなら、くれてやるよ」
そう言って、卒業する日にお前に言い渡したね。
まるで、お前の為みたいなふりをして


あの頃はまだ、逃げられるなんて思っていた。


いざ坂田が大学に入って思い知らされたのだ。
毎日見ていた銀色が消えてしまって初めて感じた喪失感。

きっと広い世界を見て、彼は新しい物を
いくらでも素晴らしい物、素晴らしい人物を見つけるだろう。
それが望ましいのに。

少しでも可能性を引き留めておきたい欲求。
それを抑えきれずに、小さな餌を撒いてみたり…。
大学に入って、広い世界を見たお前が、
せっかく戻ってきた自分の中の温かい感情がすり抜けていくのが、恐くなっていた。

卑怯な俺。


でも、進学しても、お前は諦めずにいてくれたから。
今日、応えてみよう。
この学校に戻ってきてくれたお前に。


「銀時、待たせたな」
「こんな卑怯者でよければもらってくれ」

坂田はむっとしたような、それでいて泣きそうだしそうな顔をした。
そして、そのまま黙りこんだまま、俺の腕を強く引き校内へと引き返し始める。


「ちょっ…と?!どこ行くんだっ」
「ごめん」

引きずられるような体勢だから、銀時の顔は見えない。
ごめんってなんだ?



引っ張り込まれたのは、俺のテリトリー。
数学準備室。

「ごめん」

再び引き寄せられ、口づけられる。

「ぎ…ん…」
名前を呼ぼうと少し開いた口に銀時の舌が侵入してくる。
唇を、歯茎を、舌を絡め、吸われ、貪るようなキスが落ちてくる。


息継ぎさえ、思うように出来ず、空気を求め、喘いだ。

「十四郎…」
改めてファーストネームを呼ばれ、銀時を見返した。

そこには、かつてこの場所で不安そうな顔を晒していた子供はいない。
欲に濡れた一人の男の顔。
ぞくり…あてられたように俺の中の何かが覚醒する。

「ごめん」

もう待てないからごめんと。
銀時の唇が耳をはみ、三度の謝罪。

俺はすっかり翻弄されていて、部屋の内鍵が締まる音もどこか遠く、
手を引かれるまま、ソファへと誘導された。

ネクタイが引き抜かれ、
唇はそのまま首筋を辿る。

「ん…」
また、ぞくりと快感が腰辺りから上がってくる。
「耳も首も感じるんだ…」
かわいい…とまた耳に舌を差し込む。

「や…」
「ここは?」
いつの間にかシャツはボタンを外されていた。
胸の飾りを摘まれる。
「あ…」
女でもないのに、妙に甲高い声をあげてしまった自分にびっくりし、口を手で塞いだ。

「十四郎の声、聞かせてよ」
塞いでいた手は頭の上で封じられ、今度はそこを、べろりと舐められる。

「ひっ…」
喉が引き攣るような声がこぼれる。
銀時は器用に片手だけでベルトをはずし、一気にズボンと下着を抜き去った。

「ちょっ…と、…待…て…」
「無理だから。十四郎だって、もう今更でしょ?」
確かに俺の中心はゆるく天を向きはじめていた。
まだ、直接触れられたわけではないのに…羞恥で顔に血が上る。

「第一、俺これ以上焦らしプレイには堪えられないよ?」

銀時を受け入れるつもりがないわけではなかったが、
まさか、いきなり学校内でこんなことになるなんて…

「おいっ、汚ねぇからっ」
「大丈夫…だから全部見せて」
迷うことなく、土方自身を銀時は口で慰め始める。
水音が耳に痛い。
羞恥する心と期待してしまう心で身をよじる。
頭が徐々に真っ白になってしまう。

「も、駄目…さか…た…口はな…」

銀時の頭を引きはがそうとしたが、もがいたが、すでに腕に力は入らず、そのまま
耐え切れず、あっさりと気を放ってしまった。

「あ、やべ。飲んじゃった」
「は?おま、何てことして…吐けっ」
女にもされたことないのに…
と慌てていると、坂田は俺の予想と異なる言葉を口にした。

「ローションなんて…先生持ってるわけねぇよな?」
「は?」

ローション?
顔に塗る?

クエスチョンで頭がいっぱいの俺に坂田が困ったような顔をする。

「先生、男同士ってここに入れるんだけど…」
知ってる?

「は?」
ゆるゆると後ろの蕾に触れられ、戸惑う。

「初めてだから…ゆっくりやってみっけど、どうしても嫌なら言って」
そうっと唾液をのせた指先が内臓へと侵入していく。

「っ!」
「痛い?」
心配そうな顔をして、指をとめる。
優しさをみせながらも、紅い瞳の奥にある欲の炎を見つけ、
そんな余裕のない顔をさせていることが自分である事実に体温が更に上がってきた。

「大丈夫だから」
挑むように、口の端を上げて、今度は自分からキスをする。

「せんせ…」
掠れた声で呼ばれ、いつの間にか寛げたのか、銀時自身を土方に擦り寄せてきた。
そして、土方の手をそこに導き、握らせる。
お互いの熱が手の中で今にもはじけそうになり、
銀時の指も深く、そして入口を拡げるような動きにも激しさが加わりはじめる。

「ごめん。も、無理」
「ぇ?」

二人のモノを摩っていた手を外され、今まで指が弄んでいた場所に熱をが宛てられる。

「う…ぁ」
器官が拡げられる生々しい感覚が下肢に訪れ、思わずうめき声がこぼれ落ちる。

「すっげぇ…うれしい」
「あ……」
何か言葉を紡ごうとして、失敗する。
ゆっくりとゆっくりと時間をかけて、深く深く穿たれ、根幹を揺さぶられ…
はくはくと溺れかけた魚のように空気を求め、空を仰いだ。

身体の中心を銀時で満たされ、
既に苦しいのか、
痛いのか、
うれしいのかよく解らない。
解らないが、自分の心の内側までが満たされていることだけが、理解できた。

「十四郎」

力の加減なんてできなかった。
挨拶のために念入りにプレスされてきたであろうワイシャツの背は、握りしめた土方の汗ばんだ指で既にくしゃくしゃだ。

「十四郎」

何度も名を呼ばれる。
しかし、それに応える余裕すらない。

「ぎ…」
ミツバを失った後、喪失した隙間はあまりに大きくて。
それを埋めるものなどありえないと思っていたのに…

「こんな…オッサンのどこ…が、いいんだか…」
やっとのことで発した言葉は、甘さの破片さえない。

「まだ、そんなこといってんの?」
「んっ」
更に身体が壊れそうな程のエネルギーが打ち付けられ、また思考が混濁していく。
土方の高ぶりも銀時の手で擦りあげられ、先からとろとろと体液が零れ続ける。

半端ではない痛みと。
ぎちぎちに埋め込まれた熱の圧迫感と。
涙と、唾液と、カウパーと。

全部といった言葉を証明するかのように銀時の唇は身体のいたる所にキスを落としていく。

「も、逃げられないからね。俺、束縛するタイプだから」
紅い瞳に囚われた。

「ぎん…とき…」

名を喚ぶ。
漸く、声が口から毀れでたのは腹の中に暑い飛沫が注ぎ込まれた後だった。




就職祝いを一応してやろうと予約しておいたビストロも、きっと無駄になるだろう。

来週からは、『同僚』になるのだ。
いくらなんでも、また校内で無体をまた働かれても困るな。
まだまだ、ガキの指導は必要か…

そんな他愛もないことを考えつつ、意識を失っていったのだった。




『Never stop −4years later R− 』 了




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