うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『graduation from…』





去年、進級ギリギリの出席日数だった俺の生活は受験で一転した。
冬休みも夏休み同様、毎日学校に通い、1月のセンター試験に向け、詰め込んでいた。
ま、先生に会いに行くってのがメインといえばメインなんだけど。

しかし、28日の仕事納めから正月三が日にかけては、
さすがに学校も閉鎖され、会えない日がつづく。

「あー、会いてぇなぁ」

今日で四日目。
あと三日もあるのに。
たった七日間が想像以上に辛い。
夏はまだ大丈夫だった気がする。
学校外で会える口実なんて、思いつかないし…
これってヤバくないか?
卒業したら、(先生に会うために出席してるし、餌に釣られて成績も上がってしまっていたから今更留年は無理だ)もっと接点なんてなくなってしまう。

ぐるぐる

思考は止まって受験勉強どころではない。

ジミーにも側に居続ける為にはまず自分の足元固めて置くべきだと奨められたことも、
手伝って、進学することには迷いはない。
スタートが遅かった分ぼんやりしている時間は本当になかった。

解っている。
わかってるけど、キツイよなぁ

先生も正月は実家帰んのかなぁ
で、またミツバさん思い出す?

ぐるぐる

チクショ
気を紛らわせようと、テレビをつける。
定番の正月番組。
毎年変わらない内容に数分画面を明るくしただけで電源と落とした。

気晴らしに遊びにいこうかとも思ったが、元旦早々悪友達にからかわれるキツイ。
地味に落ち込む自分の姿が見える。

去年はバイトしてたかな、クリスマスに引っ掛けた女と初詣の帰りにセックスしてたか?
何だか随分前の出来事のようだ。


そんな風に畳の上でごろごろ転がりながら過ぎていかない時間を過ごしていた時だった。

ピンポーン

アパートの呼び鈴がなる。
訪問者の予定はない。
高杉達か?

いつでも居留守使えるように、静かにドアに近づいたが、覗窓から見えたのは思いもかけない人間の姿だった。


「先生?!」
俺は勢いよく扉を開ける。

「よぉ、生きてるか?」
愛しいひとが立っていた。

「な、なんで…?」

本物…?
俺かなりキテタから。脳内物質が作り出した幻かと半ば本気で目を疑った。

「いや、お前一人暮しだから差し入れ。正月だからお節を少し持ってきたぞ」
不在の場合も考えていたのか、発泡スチロールの保冷バックを差し出してきた。

「お、おいっ」
思わず、腕を掴んで引き寄せた。
バランスを崩した先生がドアの部屋の中に、そして俺の腕の中に収まった。

「ホントに先生だ」
すん、とタバコの匂いを嗅ぐ。

先生が俺の家にいる。
なんて甘美な誘惑。
激情に任せて行動してしまいたい。
貪るように、先生を暴いて、俺の物にしてしまいたい…

「おい、坂田?」
抱きしめたまま葛藤して動けない俺を気遣かってくれる。

「何かあったか?」

人の気もしらないで…
身に危険感じないんだなぁ…
何だか情けない気分だ。
男として認めてもらっていない証拠のようで。

「信じてね。先生が好きなんだ」

俺がどれだけ好きだと伝えても、拒否しない代わりに、受け入れもしない。
なんて中途半端な繋がり…

あなたしかいらない。
「先生が、こうして気に留めてくれるの、担任だからだよね?
 やっぱり、卒業したら、生徒じゃなくなったら、関係なくなるんだよね?
 会うくらいは許してくれる?厭じゃない?」
足元に落ちてしまった保冷バックを視界に入れてつぶやく。

「坂田…お前…」

「俺はね、先生を困らせたくはないんだ。
 でもね、どんなに頑張っても、俺の心はあなたから離れられないんだ」
男同士であっても構わない。
あなただから好きになった。

先生はやさしい。
取り留めもなく零れだす俺の言葉をじっと聞いている。
そっと、体を俺から離すと、ポケットから煙草を出し火を付けた。

「お前の気持ちが嘘だとはいわねぇが、憧れからくる一過性のものだ」

そしてゆっくりと煙を吐き出すと言い含めるかのような物言いでゆったりとそう言った。

「じゃあ、一過性のものでなければいいの?少しは考えてくれるってこと?」
そのやさしさに付け込んででも傍にいたい。
拒否しないなら、どうか少しの希望を。
絶望だけじゃ暗い欲望でおかしくなってしまいそう。
卒業という言葉。
あなたの『生徒』でなくなる不安。

先生は、苦笑いしながら、もう一度長く紫煙を一度吐いて、
今度はきっぱりと言葉を紡いだ。

「そん時はしかたねぇな」
「え?」

しかたないって何?

「大学ちゃんと4年で卒業して、社会人になっても気持ちが変わらないなら、
 こんなオッサンで良ければくれてやるよ」
「!?」

そんなこと言ってくれちゃっていいの?
約束?約束なんだよね?
4年後、予約ってことで間違いない?

「数学と同じだ、証明してみせろや」

相変わらず、強い光を放つ瞳がにやりを笑った。







そうして高校最終学期。

土方の予想とは裏腹に2月に入っても、三年Z組の登校率はかなり高かった。
就職や推薦が決まっているものは、出席日数さえ足りていれば(高杉のように推薦が決まっていても日数が足りていなければ強制だが)出て来る必要ないのだが、変わり種のこのクラスメイト達はあまりにいつも通り教室に存在している。
それでも、卒業式の練習等始まると、元三年Z組の解体を実感せざる得ない。

先生と俺との距離は変わらない。

俺は、先生が新年早々放った約束というか餌の為に必死になっていた。
本当は、一つランクを落とした滑り止めはもう結果が出ていたのだが、第一志望に意地でも通りたかったんだ。
センター試験の結果はボチボチ。2次は間もなくだ。


「銀時、そんなに俺と一緒の大学に入りたかったのか?」
桂が参考書にかぶりつく俺に声をかけてきた。

「うっせ。余裕な奴は黙ってろ」
奇しくも桂とは学部は違うが、同じ大学を目指すことになっているのが少し癪だ。
その大学を選んだのは一重に、先生の自宅にも職場にも程よく近いから。
なんて不純な動機だけど。

「何をいう。何事も油断は大敵というもの。貴様の先の期末試験のようなミスは…」
「もう黙っててくれ…」

いやなこと思い出させてくれる。
クリスマス二人で過ごせる機会を自ら棒に振ったのだから。
入試、本番に同じことしてしまったら目もあてられない。

現金な物で、餌をチラつかされた効果なのか、
毎日、校内で顔を見ることができていた効果なのか、
自分でも呆れるほどに、心は落ち着いて(焦りがなかったわけではないが)目標に迎えた。

「最後には笑ってやる!」



そんなこんなで本命大学の合格発表まではあっという間だった。

短期集中が自分に合っていたのか、見事掲示板に自分の受験番号が貼り出されていた。
しっかり写メに自分の番号を証拠代わりに写してふと迷う。
さて、報告どうしよう?
電話?
メール?
いやいや、学校に会いに行く?


「近いのだから、やはり直接報告が筋であろう」

あ、桂も一緒に見に来てたんだった。
声でようやく、どれほど自分が舞い上がっていたか気が付いた。

本当は一人で行きたかったが、成り行き上仕方ないと
二人で先生のところへ向かうことにした。




「おめでとう」
先生はにこやかに対応してくれた。

そう、あまりにフツーに。
ありきたりのホメコトバ。

今後の入学についての手続きや注意事項。

これは何?

珍しく職員室だから?
桂も一緒だから?
教師と生徒の見本のような。
もうすこし…
他の人間と違うリアクションを
何か違う言葉を
期待してしまっていたのは間違いだったのか。

俺は混乱して、放心したまま自宅に戻り、卒業式当日を迎えた。









私立寺田学園銀魂高等学校 第37回卒業証書授与式
そう書かれた立て看板。
3年間、過ごしたこの学校で、
あなたに出会って
俺の世界は動き出した。


卒業証書授与。
人数が多いから、卒業証書は壇上で受け取らない。
卒業生席にその場に立ち、返事だけ。
証書本体はあとで、教室で受け取ることになる。

「坂田銀時」

先生の低いけど、よく透る声が俺の名前を読み上げてくれた。
フルネームで呼ばれる機会なんて、あとどれくらいあるだろう。


教室に戻って、最後のHR。
この教室で聞くであろう最後の声。

「俺はあまり演説得意じゃないし、テメェらに訓示出来そうなほど、人生歩んでない」
「だから、俺自身がこの二年間、久々に楽しかったから」
「ありがとうございました」
先生は深々と頭を下げた。
そして、ニヤリ
「じゃ、散会!」
と、呆気なく、終わりを告げる。

さよならではなく、散会。

また、何処かで会うであろう日の為に。
散っていくだけ。
縁が切れたわけではないと、何処かに含まれたその響きに。

皆が一瞬、ぽかんと口を開けると笑い出した。


そうして、俺は3年Z組を離れたのだ。






教室で名残を惜しみ、カメラを向け合ったり、新しい住所の交換等をみんなしている。

「銀さん、みんな打ち上げ、カラオケ行きますけど、どうします?」
メガネが声を掛けてくれた。

「あー、ちょっと寄るとこあっから、後から追いかけるわ。
 どうせ幹事、新八お前だろ?電話するわ」

担任は、何人かの女子に連れられて、教室をすでに出て行っていた。




こんこん。

通い馴れた数学準備室のドアをノックする。

「せんせ?」

まだ、先生は戻ってきていなかった。
人気者のヒジカタ先生は他のクラスの女子にも囲まれ、
撮影タイムから解放されていないのだろう。

「俺だって、もう一枚くらい…」
待受にはクリスマスに無理矢理撮った二人が。
猿飛に妨害され、少しぶれている。
今の状況を揶揄するかのようだ。
結局、あれから二人で会話らしい会話すらしていない。


不安がばかりが埃のように積もっていくだけ。


「おい」
教員用の机に突っ伏していたのて、先生の帰還に気がつくのが遅れた。

「先生…」
「カラオケ、いかねぇのか?」
「あ、後から行くつもり」

あ、普通だ。
いつもの準備室の空気…
杞憂だった?

「坂田?」
「ね、先生、卒業祝いなんかくれないの?」

いつものこと。
ダメもとで口にする。

「何がいい?」
「え?本当におねだりしてもいいの?」

図に乗っちゃうよ?


「高けぇもんは勘弁な」
「うーん、俺にとっちゃ高いもんかな」

「何なんだよ」
「写メ」

「はぁ?そんなもんでいいのか?」
普段、カメラを向けられると過剰拒否反応するくせに、
今日は撮られすぎて麻痺しているらしい。

「今まで撮らせてくれなかったじゃん」

俺にとっては貴重なんですぅ
ふくれっ面でガキっぽいわかっていても抑えられない不満を口を尖らせる。
先生はすごく複雑そうな顔をしていた。

「なに?そんなに変?」
「いや、そんなもんでいいのかというか、意外だったというか…ま、さっさと撮るぞ」

俺の携帯を取り上げ手を伸ばしてツーショット撮る体勢を作ってくれる。
うわっ顔近っ

「撮るぞ」

携帯の画面に注目

「え?」
何か顔にあたった。
微妙な角度だけど。これって…
先生は画面を確認して、よしなんてうなずいている。

「こんなんでいいか?」
「〜〜〜〜」
「良いようだな。でも待ち受けにするのは勘弁だぞ」

真っ赤になってカタマル俺。
そこには、俺の口の端にキスする先生の写真。
目線はばっちりカメラに向かっている。
高校生ですか?!あなた!?

「マジですか?! 今日、もう先生をお持ち帰りしてもいいってことでしょうかっ?!
 いいんですよね!」
「調子にのんじゃねぇよ。祝いは写メでいいんだろ?」
ちょ、ちょっと待って、じゃ何?
もしかして、最初からお持ち帰りをおねだりってのもありだったってこと?

「そんなわけあるか、バーカ」
でも、先生。耳真っ赤だけど。

「ほら、カラオケ、俺も参加すっから。行くぞ」
照れ隠しなのか、やや乱暴に上着を羽織り、俺の頭をたたく。

「はいっ!」


今日、俺は卒業する。



約束通り、4年間で一人前になって、あなたを掴むから。
少しずつだけど、希望をあなたがくれるなら、俺は頑張れる。



本日、坂田銀時、卒業します。
こどもなだけの自分から。





『Never stop −graduation from …−』 了



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