うれゐや

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【シリーズ】 | ナノ

『the new term』






私立銀魂高校三年Z組は個性派揃いである。(というか集められていた)

そんな中でも、俺、坂田銀時は、どちらかというと、生まれながらの銀髪(と天然パーマ)、紅玉色の瞳、ゆるい態度で目立つ生徒だと思う。

両親は交通事故で中学三年生の時に他界して天蓋孤独の身だ。
駆け落ちしたらしい両親の葬儀は、弔問客も少なかった。
淡々と葬儀屋と保険会社の手続きが進行し、
気がついた時には全て片付けられぽつんと広い部屋に自分ひとりが残されてる状態だ。
悪友達も気を使ってくれたが、正直なところ、寂しいとか悲しいとかいう感情が理解出来ないほど唐突だったのだ。

保険会社や役所との手続き。
高校入学。
ばたばたと時間だけが過ぎ、『死』というものを悼むことも考える間もなく過ごす日々。
保険金で遣り繰り出来るから、別に苦学生というわけでもなく、
小言をいうのは後見人になってくれている寺田綾乃(銀魂高校理事長)ぐらいで
気分で授業に出たり出なかったり、一応赤点取らない程度の勉強と出席数を確保。
面倒事がない程度に彼女を取り替え、ふらふらと生活していた。

そんな自分は、あのひとに出会って激変した。


あのひと、土方十四郎は採用2年目の若い教員だった。
初年度、銀時の二年Z組の副担任を一年勤め、
今年持ち上がった形で三年Z組の担任となった。

その一学期最初の進路面談の時だ。
両親のことを調書で知ったらしく、大変だったなと述べた土方に
「いや〜、二年も経つと親がいたことさえ、幻だった気がしちゃうんだわ」
冗談めかして、少しだけ本音を混ぜる。
下手な同情はいらない。
特に問題なく生きてる。
だから、構って欲しくないし、放っておいてもらいたいのが正直なところだ。

それなのに、急に、土方は立ち上がり、机を挟んで座っていたこちら側に寄ってきて、銀髪の天然パーマの頭を抱き込み撫ではじめた。

「お前、親御さん亡くなった時、泣いてないだろ?」
「え?」
「恥ずかしいことじゃねぇから、泣きたきゃ泣けばいいし、
 理不尽だと思えば、喚いたり、我が儘言っていいんだ」
とても木っ端恥ずかしいことをされ、かつ言われていることはわかっていたが、
何故か振り払えなかった。
普段、チンピラのような教師らしくない口調で3Zメンバーを怒鳴り散らす声と
同じものだとは思えないゆったりとした声。
おまけに土方からは、タバコの臭い以外にも、何だか良い香りがする気がした。

(泣いていい?)
そんなこと言われたことがない。

(俺は泣きたかった?)
言われてみれば、茫然としている間に、滞りなく片付き、
『銀時くんは立派だね』
『一人でも安心だ』
大人達は、牽制するように口にする。

(頼ろうなんて思いもしなかったけど、ババアが声かけてくれた時は嬉しかったっけ…)

「あ…」
自分の頬が濡れていることに驚いた。

しばらく、そのままの状態であったが、呟くように土方が声を発した。

「泣くってのは、こどもの特権だからな。今のうちに泣いとけ」
「こどもじゃ…ねぇよ…」
照れ臭いというか恥ずかしくて顔があげられない。
相変わらず、天然パーマに指を絡めるように撫でる手はやさしい。

「…そうか。そいつは失礼したな。
 …ま、俺の実体験だから、おとなしく参考にしとけ」
苦笑する気配に少しムッとする。
睨みつけるように腕の中からそっと土方を見上げた。
担任教師は日頃の人相の悪さをすっかり潜め、綺麗な笑みを浮かべていた。

(うわっ、反則!?)
今まで気がつかなかった、というか男だから眼中になかったのだが…

(ドストライクじゃね?!)
キツメの目元に、音がしそうな長い睫毛、さらさらとした黒髪、通った鼻梁。

「ん?どした?落ち着いたか?」
視線を感じたのか、小首を傾げる。

(や〜め〜て〜。かわいいからぁ)
女子が騒ぐ理由がわかった気がする。

「俺!帰るわっ!」
「あ、坂田?」
荷物を引っつかんで、進路指導室を飛び出す。
こうして、気が付くと、坂田銀時は恋に落ちた。







去年副担任していたにも関わらず、ほとんど土方個人の事は知らなかったので、
早速を始める。

(去年一年間が勿体なかった)
男だと顔どころか名前すら覚えることが苦手な銀時は
副担任の事はほとんど鬼の数学教師である事くらいしか知らなかった。

去年、新卒採用の24歳。
いきなり二年目で受験を控える三年の担任を任されてしまったは、
三年Z組担任予定だったベテランが、心労から病休になったからだったりするらしい。引き受け手のない問題児ばかりのこのクラスに副担任とはいえ堪えられた土方にお鉢がまわったそうだ。
ダーク系スーツを卒なく着こなせるルックスの良さと丁寧な授業、
半面、口の悪さと時々しでかすマヌケな一面で親近感をもたれ、
生徒のみならず、PTAからも絶大な評価を得ている。
極度のマヨラーで、ヘビースモーカー。
生徒一人一人に真面目に向き合い、公平に扱ってくれる。
そう、公平なのだ。

男、好きになるなんてありえない…
今まで付き合ったのは女ばっかりだったし、どちらかというとナースとか人妻好きだし…
と悶々としたが、知れば知るほど存在を追ってしまう。
みんなと同じでは満足出来なくなっていた。


男同士であろうが、好きなんだから仕方ない。
割り切ってしまうと行動は早いもので。
今まで来るもの拒まず、去るものは追わない主義だった銀時に悪友達にも驚かれた。
(そして、からかわれた)
出来るだけ側に近づきたくて、率先してクラスの仕事を引き受けたり、個人的に話をする機会を作る。
土方は仕事の邪魔をしない限り、相手はしてくれる。
しかし、人気のある教師の周りにはいつも引っ切り無しに誰かいて、同じような対応。


みんな同じ適度な距離感。

「俺さ、先生のこと、好きなんだけど?」

数学準備室に集めた課題を届けながら、思わず口に出してしまった。
指導要録をまとめていた土方が目を上げた。

「あ?」
きょとんとした顔がかわいいなんて年上のしかも男に感じるなんて末期だ。

「だから、好きです」
「おぅ、ありがとうな」

……………あれ?

「先生?俺、今告ったんだけど?」
「あ?だから、ありがとう」

通じてないよ。この人…
言われ慣れているのか、あまりに軽い口調。
まぁ、一応伝えたからね

それから、一応告ったことだしと、抱きついてみたり
(そして一人ムラムラしてしまうのだが)したが、
苦笑いされるだけで、リアクションがかえってこない。
(あまり、ひつこくするとアッパーだったり、蹴りが容赦なく飛んでくるのだが。
 結構、暴力教師だ。)
学生時代から剣道馬鹿だったらしいから、体育会系のノリくらいにしか感じないらしい。

ってことは、他にもこんなことする奴がいたってこと?
うわっ。こんなフェロモン垂れ流しの癖によく無事だったなぁ…

感心するやら心配になるやら、俺の好きな人はかなり天然らしくて、いろんな意味で目が離せなかった。


恋を自覚して、三ヶ月。
告白して二ヶ月。
あっという間に夏休みが目の前に迫っていた。







賑やかながらも穏やかな昼休み。
銀魂高校三年Z組の教室に鬼担任の怒りの声が轟いた。

「さ〜か〜た〜」

教室で悪友達と購買で確保してきた菓子パンを頬張っていると、
かわいい俺の想い人が鬼の形相で目の前に立っていた。

「あ、せんせい。久しぶり〜」
「朝のHRで会ってるだろうが!?それより何だこの進路希望は?!」
きっちり、ツッコミは入れてくれる律義な担任にニヤニヤ頬が緩む。
キツメな目元、通った鼻梁、小さめな口。どれも銀時のストライク。口も悪いが極々たまに見ること出来る笑顔。

「あ〜、なんかおかしい?」
「おかしいだろ!?幼稚園児か?!てめぇは!」
眼前に突き付けられた調書を悪友達も覗き込み、げらげらと大笑いである。


第一志望・土方先生のお婿さん
第二志望・土方先生の恋人
第三志望・留年


「銀時〜。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…偏差値低すぎだろぅ」
高杉は腹を抱え、身をよじる
「確かに先生は美人じゃけー、気持ちはわからんでもないが…あはははは」
「第一、留年って選択肢はなんなのだ?」
付き合いが長い分容赦はない。
予想以上の笑われっぷりに、少し凹みそうになる。

「だってよ〜。卒業までに第二希望が無理だったら、来年も残って頑張って口説くつもりだから」
「きゃ〜、やだ銀さんが残るなら、さっちゃんも志望変更しなきゃあ」
「このM女!?てめぇはひっつくな!!」
銀時のストーカーとすっかり化している猿飛あやめまで乱入し、収拾がつかなくなる。

「てめぇら、うるせぇ!」
とうとう、土方はキレて教室中に響き渡る大声で怒鳴った。

「坂田!放課後迄にもちっとマシな内容書いて持ってこい!いいな!?」
腹立ち紛れに紙挟みでバコリと天パ頭を叩いて出ていった。


「銀時よぉ。やっぱ、あれ落とすの無理じゃねぇかぁ?」
「押しの一手あるのみ!
 男同士なんだから、ちょっとぐらいの抵抗じゃ負けねぇよ。
 無視とか完全拒否はされてないし」
「いやいや、それは受け持ちの生徒だからだろう?
 基本的にあやつは仏頂面だが、お前相手の時には更に眉間のシワが深い気がするぞ」
生真面目に桂に指摘されてしまった。
「じゃが、銀時もよぉ続くのぉ。直ぐに諦めるかと思っちょった」
「今回は銀さん、本気だから。煌めくから」

夏休みに入れば、銀時もバイトが入れてしまっていて、なかなか会えなくなる。


気合いをいれて、放課後土方の巣と化している数学準備室へと向かった。


「しつれーしまーす」
一応、ノックしておく。
最近、入り浸っているから、何の気負いもない。

「ちっとはマシな内容に書いてきたか?」
職員室は禁煙な為、ヘビースモーカーの土方は、ここにいることが多かった。

「せんせ…」
「ん?」
振り返らず、机に向かったままなのを良いことに背後から抱きついてみた。

「前にも言ったんだけどさ、先生のこと好きだからね」
進路希望は冗談じゃないんだ。
低めの声で、耳元に囁く。
先生の中に少しでも、俺の言葉が染み込むように。

先生の体がびくんと動くのを感じて嬉しくなる。

「わかっているとは思うが、俺は男だぞ?お前、そんな趣味じゃなかっただろ?」
「だね。基本女の子好きだけど。男でもいいから欲しいって思うのは先生だけだから…」

くるりと事務用の椅子を回転させ、唇を寄せた。
拒否されるのも怖くて、触れるか触れないかの羽のようなキス。

「さ、坂田?」
「先生に迷惑かけないように俺頑張るから。側にいさせて?」

「…わかった」
しばしの沈黙のあと、やけにきっぱりとしたいらえがあり、
俺の方が固まってしまった。

「せんせ?」
「だから、わかったって言ってるんだよ」
「いや、せんせ意味わかってる?」
天然だから…

「条件付きで良ければ、お試しで側にいることを許してやる」
ニヤリと大好きなあのひとは笑った。

そして、やはり天然なことを思い知らされつつも、惚れた弱みで条件を飲んでしまう。

高校最後の、怒涛の夏休みが始まった。





『Never stop −the new term−』 了




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