うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『不可視 invisible』





−side G−



触れて。
感じて。
何度でも。
これ以上隠せない。
苦しくなるくらい。
強く惹かれてる。
気づいてる?

「気持ち、よかった?」
まだ、少し息の整わぬまま、銀時は土方の髪を指で梳きながら、問うた。
連れ込みタイプの宿に入って、なだれ込むように一回、抜かぬまま、二回…。


「何盛ってんだか…」
先程まで、喘いでいたせいか、掠れている。その声が銀時は好きだった。
「そりゃね。愛しい副長さんがひと月も相手してくんないから」
ギュッと後ろから抱きしめる。

「ベタベタすんな」

事後の土方は切替が早い。どんなに乱れた後でも、すぐに鬼の副長に戻る。
タバコ片手に、携帯に緊急の連絡が入っていないか確認している。

(そんなところも好きだけどね。銀さんとしては淋しいよね)

「なぁ…」
「なんだよ?」
「俺達の関係ってなんていうんだろ?」
土方は黙った。

お互い、これまで気持ちを言葉にしたことはない。
なんとなくで身体を最初に繋いでから、もう随分になる。
約束するでもなく、ふらりと気分と時間が合えば閨を共にする。

していることだけ見れば、ただのセフレ的な関係。
特別な感情を伴っていて欲しいと表にだすことはしない。それが暗黙のルール。

「…腐れ縁…だろ?」

予想通りの答え。
模範解答。

銀時は元攘夷志士『白夜叉』
土方は武装警察真撰組『鬼の副長』

別々の世界
お互いが持つ地図が今の日常で重なる分には、問題ないかもしれないが、いつ過去の遺物が火種となるかわからない。

今のバランスは本当に際どい。
うまくはゆかない未来しか想像出来なかった。
いつでも、離れられる距離を保たねばならないと思っていた。

(でもな、そろそろ限界なんだよ)

銀時は吐息をこぼす。
姿を見つけるだけで震える程、歓喜したり、土方が誰かに笑いかけるだけで乱れる気持ちを隠しておくには…

(お前の一番は真撰組だろうけど)

心が呼ぶままに、本能が叫ぶ声聞けば
あなたしかいらないと心は告げる。
こっちは覚悟なんてとっくに出来てるんだよ。


銀時は、タバコを取り上げ、灰皿に押し潰して、口づけて囁いた。

「俺だけのものになってくれない?」

それは危険な賭け。
さぁ、のるかそるか。

土方、お前はどうする?











−side H−



やめる?
進める?
どちらを選ぶの?

抱き締め会うたび
体駆け巡る感情を優先?
口には出さないけど、強く惹かれてる。
軽口が得意な、お前の本気こそ、どこにある?

久しぶりに土方と銀時は褥を共にした。
土方の仕事である武装警察は対テロ組織だから、勤務も流動的だ。
ましてや組織のナンバー2ともなれば、非番が一か月ないということもざらだった。

連れ込みタイプの宿に入って、なだれ込むように一回、抜かぬまま、二回…。

「愛しい副長さんが相手してくんないから」
盛るのも仕方ないでしょ。ギュッと後ろから抱きしめられる。
「ベタベタすんな」

時々、銀時は冗談めかして、土方が恥ずかしくなるようなセリフをささやく。
羞恥心を煽らせて、楽しいらしい。

(ドSだからな…いちいち気にしちゃいけねぇ)
タバコをくらえ、片手に、携帯に緊急の連絡が入っていないか確認。
冷静さを呼び集める。

「なぁ…」
「なんだよ?」

「俺達の関係ってなんていうんだろ?」
銀時の問い掛けに土方はかたまる。

お互い、気分と時間が合えば閨を共にする仲。
特別な感情を伴っていて欲しいと表にだすことはしない。それが暗黙のルール。

「…腐れ縁…だろ?」

予定された答え。
確定的真実。

二人のため立場上、ギリギリのリスク。
銀時は吐息をこぼす。
時々みせる切なげな表情に土方はドキリとした。

(そんな顔、やめてくれ)

期待してしまうから。
本当はもっとお前を知りたい。
もっと触れたい。こころまで。

(真撰組も銀時も両方手にいれたいなんて…)
なんて、おこがましい。

(しかも、お前から言わせたいのだ。俺だけそんな風に求めてるわけではないと思いたいがために)

銀時は、タバコを取り上げ、灰皿に押し潰して、口づけて。
そして囁いた。

「俺だけのものになってくれない?」
「!?」

それは危険な賭け。
なんて魅惑的な…

さぁ、のるかそるか。

のってしまえば…
この銀色が、眼差しが手に入るのか?
一度手をとれば、もう土方は戻れなくなるであろう自覚があった。

(袂を分かたねばならなくなった時、自分は堪えられるのか)

そるならば…
いつものおふざけと流せば現状維持。
ただ心の底にチラチラとたまっている熱の鎮火方法を考えねばならない。

(いや、待てよ)
土方は思い留まる。
また、一人期待しているだけで、深い意味はないのかもしれない。

ならば
「上等だ。のってやらぁ」
噛み付くようなキスを返す。

本気を見せずに、舌先三寸で世を渡る男だから…

「これ以上ないってくらいの本気、見せてみろや」

柘榴色の瞳が少し驚いて、そして、とても真摯な色を浮かべた。

「…覚悟しろよ」

危険な賭け

戸惑う気持ちと迷い
もう止められないなら、どうか…

最後の切り札。
自分は証明される側。逃げ道。

俺はずるいから。

(頼むから、俺が刃を向けなきゃならない状況だけは作ってくれるな)
二人は静かに再び重なった。






『不可視 invisible』 了



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