『wallow』水しぶきがあがった。 次から次へと子どもたちがプールへと飛び込んでいく。 「あっちぃ」 大学に入って2回目の夏休みに入った。 高校時代よりもずっと長い夏季休暇も彼女がいなければ、ほぼ無趣味な銀時にはイベントらしいイベントもない。 と、なれば、貧乏学生のすることなど知れている。 自給の良い深夜の警備のバイトを目いっぱい入れて、昼は寝て過ごす。 懐は潤うし、ちょっとだけ頑張って起きれば新装開店に並ぶことだって出来る。 ただ、これには落とし穴があった。 今年は猛暑だったのだ。 格安ワンルームは容赦ない太陽光で蒸し風呂のようになる。 備え付けられた古いエアコンを目いっぱい稼働させても、寝苦しく、パチンコに飛び込む気力さえ奪った。 そんな寝不足気味の日々。 銀時の元へ朗報が飛び込んで来た。 プールのチケットを手に入れたという悪友・坂本のメール。 二つ返事で飛び付くしかない。 ホテルのプールなら、さほど暑くないだろうし、大人なお姉さんばかりだろうから目の保養、あわよくば、ひと夏のアバンチュール…。 そんなことを考えて、飛びついた…というのに。 「黒モジャ、こらぁどういうことだ?」 大学に入って、つるむようになった坂本と同郷の高杉と桂、そして、銀時の四人は並んで眼前に広がる光景に何度も瞬きする。 ややあって、銀時と同じ感想をもったらしい高杉が不服なことを隠しもせず、坂本を睨んだ。 「どういうことも何も、プールじゃないがか」 確かにプールだ。 そこに誤りはない。 ただ、銀時や高杉が想像していたような『ホテル』のプールではなく、ホテルの屋外に設置された子ども向けのレジャープールだった。 巨大な滑り台から浮き輪に腰かけて落ちてくるのは、精々中学生止まり。 突きつけられる現実とじりじりと照りつける太陽は寝不足の頭には決して優しいとはいえない。 「楽しそうじゃろぅが?」 「ダイナマイトボディのお姉さんは?可愛い女子高生は?性に奔放な短大生は?」 「あはははははは、金時おまん、そげなこと期待しとったかよ?」 「いや、フツーすんだろ?なぁ、高杉」 人工的に流れていく水面は日光を反射し、ランダムに裸眼を攻撃する。 こういう健康的な刺激で無い、不純な刺激を求めてきたというのにと、坂本の髪を全部むしりとってやりたい衝動に駆られてくる。 「しかも、こんな炎天下の野外プールとかねぇよ…暑すぎっだろ」 「ふむ、暑さは確かにいただけない。ただ、ここにいらっしゃる大半のおねーさま方が 人妻であると思うだけで、なかなか興味深いものはある…」 「そりゃテメーだけだ。ヅラ!俺に人妻属性はねぇ」 高杉も調子外れなコメントを差し込んでくる桂を睨み、口をへの字に結んでいる。 これではナンパできるか否か以前の問題だ。なにせ対象がいないのだから、どうしようもない。 それでも、暑さから逃れる為に、開き直って水に浸かる方がマシだろうかと首をこきりと鳴らした拍子に、見慣れた集団を見つけてしまった。 ほぼ、同時に相手もこちらに気がついたようだ。 「あれ〜!銀時じゃないか!」 ゴリラだ。 もとい、ゴリラに似てはいるが、どうやら戸籍上は人間として登録されているらしい同じ大学の男が手を振って近づいてくる。 「なんでぃ、旦那方も来てたんですかい?」 気だるそうな声の主もゴリラに続いてやってくる。 いかにも女受けのよさそうな柔らかいルックスのサディスティック星の王子だ。 「おうよ。このバカ本に騙された」 「いつか旦那、選り好みできなくなって、ホモかロリコンに走るかとは思っていましたが… そうですか、こっち選びましたかぃ」 「違ぇぇぇぇ!」 「なんと!貴様ら…そんな不純な目的で…」 「黙れ、ヅラ」 「俺はお妙さん一筋ですぅ。今日はバイト先の店長からタダ券もらったからであって、 下心などこれっぽっちも…」 不毛な会話を聞き流しながら、銀時は視線を二人の背後にめぐらせた。 この二人がいるということは、必ずと言っていいほど、出くわすもう一人が近くにいるはずだ。 「近藤さん、何やって…あ?てめェら何でこんなとこに…」 やはりいた。 真っ黒く、ねじれた部分のない小さな頭に太陽の光が映り込んで、いわゆる天使の輪なるラインを描いている男・土方十四郎の姿を見止め、銀時はこめかみに血管を浮かせた。 「それはこっちのセリフだっつうの!てめェ、俺のストーカーか何かですかコノヤロー」 「誰がストーカーだ!てめェの方が俺を追っかけてきてんだろうが!ゴラァ」 この場にいる人間は皆、同じ大学に同年入学ではあるが、学部が違う。 サークルもバイト先も一緒なわけでもない。 唯一、同じ学部にいるのが、この土方だった。 見目涼やかな土方は大学でも女子にモテる。 同じ学科、選択科目もよく被っている銀時はその様子をよく目にしていた。 何度ストレートパーマをかけても無駄になってしまう天然パーマのせいにしたくはないが、ことごとく、人気のある女子は土方に流れた。 それを妬むわけも根に持っているわけでもない。 本来嫌いなタイプというわけでもないが、どうにも互いに互いのことを気に喰わないと感じてしまう。 避けて通りたいのに、何故か何かと遭遇し、その度に衝突する二人なのだ。 「ちょっとトシ!そんな大きな声ださない!お妙さんにバレる…」 「俺は泳げるって聞いたから来たのに、ガキ用のプールってどういうことかと思えば、 やっぱ、そんなことかよ!俺は帰るぜ?胸糞悪ぃ天パ見ちまった…」 カチンとこめかみにもう一つ血管が浮いたのが自分でもわかった。 帰れ帰れ、こっちこそ、てめェのマヨ光りしてる頭なんざみたくねぇんだよ、清々すらぁ。 そう思ったのに、口から零れ落ちたのは、逆に土方を煽る言葉だった。 「へぇ〜ふぅん?土方君はここじゃ楽しめないってか?つまんねぇ男だなぁ」 「おいこら、腐れ天パ…何が言いたい?」 何言ってんの俺。 さっさと追い返せ。わざわざ、モテ男をこの場に残して、数少ない妙齢のオンナの競争率をあげることはない。 けれども、一向に口は停まらない。 「まぁ浅いしぃ?流れるプールってのは意外にコツいるからね。 器用な銀さんは、泳がなくても、うまーく人を避けながら、超高速で回れるけど、 土方くんには無理だよね〜。まっすぐしか泳げないもんねぇ〜」 「んな訳あるか!?」 「いや、それ以前の問題?こんなすましたツラして、実は泳げませんでした〜ってか?」 「なんだ、土方、カナヅチだったか?仕方ない。俺がレクチャーしてやろう」 「カナヅチじゃねぇし!こんなゆるーい流れなんざ、超ちょーーーーうハイスピードで 制覇出来るわ!」 本気か冗談だかわからない口調でまた桂が入ってくる。 カナヅチというキーワードに一瞬ひやりとするが、どうやら、それ以上銀時の不利になるような話にはならなかった。 「へぇ?じゃあ、昼飯賭けるか?」 「上等だ!ゴラァ!」 受付の横にあった看板を思い浮かべる。 うろ覚えだが、ホテルのランチバイキングなら魅惑のスイーツも食べ放題に決まっている。 圧勝して、土方の金で糖分摂取を思う存分してやる。 もやもやする心の内を誤魔化す様に自分に言い訳をし、勢いよく浮き輪を装着した。 「ここから浮き輪で1周、泳ぐのは無しな?」 「山崎!浮き輪貸せ!」 それまで、存在に気が付いていなかった地味な男の腕から土方は浮き輪をひったくる。 「「せーのっ」」 そうして、そのまま、ほぼ同時に二人は流れるプールに飛び込んでいた。 「あ゛?」 目が覚めると真夏の空も日射しもなく、クリーム色の天井が広がっていた。 寒すぎず、暑すぎず、心地よく調整された空調。 シンプルに纏められた調度品。 学校の保健室のようでも、ありホテルの一室でもあるようでもあり。 そこで、急に記憶が繋がった。 「くそっ」 考えてみれば、いや、考えずとも間抜けな行動だった。 流れるプールで競争を始めた銀時と土方は勢いよく流れ始めた。 あまりの勢いと形相に水遊びをしていた子どもたちは慌ててプールサイドに上がり、囃し立てる。 『泳がない』との条件はついてはいても、水面下でバタ足くらいは勿論する。 互いに最短を行こうと、ぶつかっては悪態をつき、互いの浮き輪を引っ張りあった。 ほぼ並走していたが、やがて、水の流れに加速されて、最終コーナーに差し掛かる頃にはもはや己で制御することが難しくなっていた。 気がつけば、目の前にカーブが迫っていて。 少しでも勢いを弱めようと壁を強く蹴った途端、浮き輪が銀時の体から抜けたのだ。 銀時は目をぎゅっと強めにもう一度閉じる。 閉じて、完全に視界を遮ってから、そっと片方だけ瞼を持ち上げた。 けれど、景色は先ほどと一向に変わる気配はない。 恐らく、今いる場所は、ホテルの医務室だろう。 諦めにも似た感情に浸りながら、手のひらを蛍光灯に翳してみる。 銀時は実のところ、泳げない。 別に何かトラウマがあるわけでもなく、水が怖いわけではないが、どうにも水に身体が浮く気がしない。 海に行こうと、浅瀬のプールであろうと、浮き輪が手放せない。 浮き輪を使っても一向におかしくはない状況であったからこそ、普段から何かと張り合っている土方を挑発も出来たのだ。 これが、クロールでのスピード勝負などであれば、最初から煽りもせず、早々に面倒臭いと場を離脱していた。 そのはずだ。 そうでなければならない。 勝てる可能性があったからこその挑発であって、土方を引き留めるための捨身では…けしてないはずだ。 「んなアホ…な…?あれ?」 顔を横に傾けると、隣のベッドには黒い頭が寝かされていた。 見慣れた横顔に、息を飲んだ。 土方は泳げる筈だ。 泳ぐ目的で近藤の誘いに乗ったと言っていたのだから。 なのに、何故、一緒になって運び込まれているのか。 しかも、まだこちらは目を覚ましていないらしい。 「気がついた?」 今度は土方とは反対側から声がかかって、顔をそちらへと向けると白衣を着た女性が近づいてきていた。 ホテル常駐の医者か、救護係の人だと踏んで、小さく、どうもと呟くような声で答えた。 「軽い脳震盪と熱中症になりかけね。 貴方、寝不足気味だったんじゃない? ゆっくり身体を起こして。 気持ちが悪くないようだったら、そこにある水分飲んでおいて」 清楚な水色のシャツにタイトスカート。 白衣を纏っていても、豊満な胸であることは容易に想像できるスタイル。 隙のない少し濃いベージュのストッキングが足のラインを引き締め、禁欲的にみせつつも、色気を隠し切れていはいない。 余裕がありそうな大人の女だ。 大学でもなかなかお目にかかれないタイプ。 こういう出会いを求めて、やってきたのだと唾液を飲み込む。 年上のお姉さんに手取り足取り、テクを実地で伝授頂けるチャンスが目の前にある。 十代男子の頭の中なんて、エロいこととエロいことと、イヤラシイことで埋まっている。 「あの…」 さて、どう話しかけるべきか。 弱った年下を演じて、庇護欲を煽るか、強引にお礼をすると食事に誘うか。 「あぁ、お友達?大丈夫よ。水かなり飲んじゃったみたいだけど。 貴方が急に水に沈んだもんだから、慌てちゃったのね。 引っ張りあげようとしたんだけど流されちゃったらしいわ」 女医の言葉に一気に頭を駆け巡っていた算段は飛び散った。 土方が銀時と並んで眠っている理由は溺れかけた自分を土方は助けようとした為だったのだ。 ナンパどころではない。 完全に色々失敗である。 恰好が悪いことこの上ないと口をへの字にして、仰向けで眠る同級生の横顔を眺め、ため息をつく。 どうにも、この男に関しては、距離を掴み切れないことが全ての原因だ。 ついつい、突っかかってしまう。 乗ってくる土方も土方だから、銀時一人が悪いわけではないが、今回のことは巻き込んだ感は否めない。 「じゃ、お友達呼んでくるから」 白衣が出ていくと、やけに静かな空間が出来上がった。 聞こえるのは、部屋を冷やす空調と土方の寝息。 「暢気に寝やがって…」 水を半分ほど飲み干し、元の位置においてから、隣で眠る男の顔を改めてまじまじと見た。 普段、何かと角を付き合わせているくせに、よく考えてみると瞳が隠れている状況は初めてな気がした。 瞳孔の開いた瞳が隠されているとヤケに幼く見える。 (まつげ…長ぇな…) 二つのベッドは本来はカーテンで隔てることができるように出来ていたが、今は知り合いだからなのか、遮るものは何もない。 少し身を乗り出しさえすれば、結露したペットボトルで濡れた手が届く。 「失礼しまーす」 入室してきた恐る恐るといった様子の声に銀時は我に返った。 (今…何をしようとしてた?) のばしかけた己の手のひらを見つめる。 自分の行動がよくわからなかった。 「あ、目が覚めたのって旦那の方だったんですね」 「悪かったな」 声の主である地味な男の後にぞろぞろと続くはずの人間の影は全くなく、銀時は訝しむ。 「あれ?」 「あ、桂さんは帰りました。 高杉さんと坂本さんはホテルの室内プールの方で知り合ったお姉さん達と…」 「何だと!?あの黒もじゃっ!んな場所あんなら先につれてけよっ!っつか! 倒れてる俺はほったらかしですか?!コンチクショー」 「俺に言わんで下さいっ。俺だって、近藤さんが志村さん追いかけて消えたり、 沖田さんが荷物押し付けて帰んなきゃ、さっさと帰れてますっ」 そう反論しながら、ドサリと銀時、土方二人分の荷物を床に降ろした。 「じゃあ、旦那あと頼みますね」 「へ?ちょっ?!冗談じゃねぇよ。なんで俺が…」 「アンタが煽んなきゃこんな騒ぎにならなかったんでしょうが!後、頼みますよ! 俺、この後バイト入ってるんで、土方さん、連れて帰れませんから」 それを言われるとちょっと反論が難しくなる。 確かに先ほど、自分でも今日は銀時が火に油を注いだ感が否めないと思ったばかりだったゆえに、口を結んでしまった。 「じゃ!」 「オイィィィ!」 ぱしり体質の男は銀時が黙り込んだことをいいことに、そそくさと出て行ってしまった。 自分でもわざとらしいと思うため息を深くつく。 下を向いた流れで、着せられていたバスローブの内側を確認すると、水着のままだ。 一度だけ、眠ったままの土方に目をやってから、なんとなしに土方に背を向けて、鞄の中から服を出して手早く着替えた。 調整された室温の中で眠っているうちに、ほとんど乾いてしまった天然パーマはいつも以上に収拾がつかない。 まるで、銀時の頭の中の状態をそのまま表しているかのような絡まり具合にイライラは増す一方な気がして、無駄だとわかってはいても、タオルでガシガシと拭く。 拭いて、もう一度、ペットボトルで喉を潤した。 それから、大きな深呼吸を二度ほどしてから、土方のベッドへと近づいた。 「おーい!起きろー。置いて帰っていいですか?坂田君、先に帰っていいですよ〜」 銀時は土方の頭を手で無理矢理返事をさせるように動かしながら、一人芝居なのか寸劇なのか微妙な声かけをしてみた。 けれども、一向に返答が返る様子がない。 (憎たらしいぐらいまっすぐだな…) 敢て乱暴に触れた髪は思っていたよりも柔らかくはなかった。 まだ少し濡れた髪は黒々とした輝きをみせている。 「あ〜ないないないない」 自分はホモじゃない。 そっちの趣味などない。 ここにだって可愛いお姉さんとのご縁探しにきたんだから。 ふるりと黒い睫が揺れた。 特段長い訳ではないが、密に生えた睫毛は音を立てた気がする。 「あ…れ?さか…た…?」 ぶつぶつと独り言が五月蝿かったのか。 睫毛が目を縁どり、奥から青みかかった瞳が姿を見せた。 状況を飲み込めずに、何度も瞬かれる睫毛。 熱中症になりかけていたために水分を体が求めるのだろう。 ちろりと赤い舌がのぞいて、渇いた唇を唾液で湿らせようとしていた。 「お…い、てめェ大丈夫、だったのかよ?」 ひどく掠れた声に、ぞくりと戦慄が背を走る。 と、同時に信じがたいことだが、坂田の分身がずくりと反応した。 「おい?坂田?」 自分も気を失っていたくせに、あくまで銀時のことを気遣う声を聞いているうちに、心で鳴り響いていた警鐘が聞こえなくなっていた。 もはや、鳴らし続けても、反省してみても、手遅れとばかりに。 ひと夏の思い出。 そんなアバンチュール的なものを探しにきたつもりで、なにか違う系統のものを見つけてしまった。 「坂、田、そ…の水、寄越…」 数度咳払いをしても、戻らない喉をまずはどうにかしようと、土方がサイドテーブルに置いたペットボトルに指さした。 常識だとか観念だとか糞くらえだと。 まだ多少目眩のする頭は思考することを放棄した。 銀時の持つペットボトルが欲しくて持ち上げた同期生の腕を掴み、一度起こした体を再びベッドに縫い付ける。 衝動のままに。 ひたりと冷たい手首が銀時の熱い掌を冷やす。 「な!?」 当たり前のことながら、白い顔に浮かぶのは驚き。 体温の差が、気持ちの差であるような気がして、腹が立つ。 「おい、どうした?」 わかっている。 ここで、行動に出たならば戻れない。 「ひ、じかた」 ついさっき潤した筈の喉がもう乾いてしまって、切れ切れになった。 無理やり作り出した唾液を嚥下して、口を開く。 口にすれば、今までのような、何となく『彼女』というポジションに置いてみた女たちのようにはいかない。 その場限りと合意で貪った柔らかい躯の持ち主たちのような扱いは許されない。 欲を吐き出した後の、いわゆる、何処かわびしい時間は眼下の男相手に感じたくはない。 同じ大学の、 同じ学科の、 どうにも気に食わない同期生だけではない、土方が知りたい。 息をひとつ大きく吐けば、憂鬱とも期待とも諦めとも違う空気が肺から零れ落ちた。 「あの、な。溺れたみてぇ」 「ん?あぁ。てめェ…」 泳げないなら泳げないで、多分、そんな文句を土方は紡ぎたかったのだと思う。 けれど、銀時はお構いなしに自分の口で言葉を封じ込めた。 土方から酸素を奪って、銀時の唾液を注ぎ込んで。 呆気にとられていた土方が我に返るギリギリまで、咥内をむさぼる。 「な、なな、なにしや…」 「言ったろ?溺れたって」 土方に、なと耳元でささやき、甘く噛む。 クサすぎる科白だ。 恰好なんて全くついていない。 「なぁ、助けろよ」 しかし、追いついてきた体温と真っ赤な顔に、勝算ゼロではないかもしれないと希望的観測を得て、ひたりと銀時は笑んだのだ。 『wallow』 了 拍手、ありがとうございましたm(__)m 今年の夏は本当に暑いです… どうぞ皆さま、熱中症などには十二分にお気を付けくださいね。 (79/85) 前へ* 短篇目次 #次へ栞を挟む |