うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『HappyChristmas?』




高校生と言えど12月ともなると、急に周辺が騒がしくなる。
期末試験さえ終われば、あとはクリスマスから正月まで学外のイベントが目白押しだ。
そして、この時期彼女、彼氏がいるのといないのでは、予定が雲泥の差で全く異なってくるのだ。

「なぁ…土方ぁ」

ダラダラと土方十四郎の部屋で寝そべったまま、ジャンプをめくっていた坂田が声をかけてきた。
この坂田銀時とは中学からの同窓で、何かと腐れ縁が繋がり、なんとなくつるむことが多い。
この部屋でジャンプは禁止だと何度言っただろう。
もう呆れかえるぐらい言い続け、そのうち坂田の持ち込んだジャンプが土方の部屋に山を作ってももはやそれが見慣れた光景でしかなくなるほどには坂田と土方の部屋は馴染んでしまっていた。

「…なんだよ…」
一方の土方は、机に向かって、冬休みの剣道部の練習メニューを睨みつけたまま返事を返す。

「オメー今日、また告られてただろう?」
「あ?あぁ」
情報通で、校内で万事屋なんて何でもや紛いなことをやっている坂田のことだ。
何処かで見ていた人間か誰かに話を聞いてたのだろう、と土方は予測して、細くため息をつく。

「今月何人目だっけ?」
「ん〜忘れた…」
土方はメニューに視線を戻す。

「7人目」
「あ?」
「だから、この5日で7人目だって。オメー覚えてねぇの?」
「忘れた…」
付き合う気のない相手の顔なんて、うろ覚えでしかない。
なぜ、クリスマス前になると、慌てたように彼氏を作ろうと頑張るのだろう。
動機が不純だと思う。

「無駄にモテる奴は違うよなぁ」
「なんだ、テメーこそ、彼女振ったばっかだろうが?」
ひがまれる覚えはないと土方は肩を怒らせる。

「だってよ〜、あの女といたって楽しくねぇんだもん」
「馬鹿かてめーは…特別好きでもねぇ相手と付き合うからだろうが」
基本的に銀時はモテないわけではない。
銀髪、天然パーマという変わった容姿ではあるが、造作は悪くない。
口も達者であるし、気が利く方であるから、年齢=彼女いない歴ではなかった。
が、 長続きはしない。

「…若いから銀さん」
「は?何の関係が…」
「本当に好きな奴をそういう風になることなんてなさそうだからさぁ…
 んでも、ソッチ方面の衝動も定期的に拡散させないとだしなぁ…」
「最低だな…」
「ちゃんと好きになるつもりでお付き合いは始めるんですぅ」

白い眼で見る土方にふて腐れた様な顔で坂田は返す。
土方は、そんな半端な気持ちで誰かと付き合うつもりはなかった。
ましてや、自分に気になる相手がいる時に、好きでもない相手と付き合うという器用な真似が自分にできないことも自覚している。

「そういう、土方はどうなのよ?付き合い長いけど彼女作ったの見たことねぇぞ?」
そっちの方はどうしてんだよ?と床から興味深々な様子で見上げてくる。
その視線を避けるように、土方はそっぽを向いた。

「うっせぇよ。俺のことはいいんだよ」
「オメー…そういや、シモなネタん時は大体シカトしてんけど、女の興味ねぇの?」
「興味があるとかないとかいうことじゃねぇだろうが」
「ほらさ、どんな子が好みなんだよ?やっぱ巨乳派か?
 いや、待てよ、いい歳して童貞くんだからお姉さんの方がいいのか?」
「いい加減にしろ!!」
詰め寄ってきて、肩に手を回した銀時の腕を払いのける。

「それともさ…オメー男がいいとか?」
「は?」
「ほらさ、男からもなんか手紙もらったりしてただろうが」

土方の身体が硬直する。
確かに時折明らかに男の筆跡だと思われる手紙が机に入っていたことはある。
あるが、返事をしたことも話をしたこともない。
情報通とはいえ、坂田が知るはずもないことではない筈だと眉間に皺を寄せた。

「関係ねぇだろ…」
「なぁって」
「うるせぇよ!巨乳にも!貧乳も!年上も!年下も!興味ねぇよ!悪かったな!」
「じゃ、やっぱホモなわけ?」
「だから!なんで極論に走んだよ?!今そういう対象がいねーだけだ」
一度は払いのけられた腕を、懲りずに坂田は土方に回してくる。

もともと、スキンシップ過剰な傾向が坂田にはある。
そのたびに払いのけられていて耐性があるのか先程の抵抗ぐらいでは懲りないらしい。

今度は抱え込むように、後ろから羽交い絞めのように、腕を回された。

「いねーの?ホントに?」
「そういうテメーこそ、何でそんなに今日はしつこいんだ?!」
「クリスマスが近いから?銀さん一人で過ごしたくないんだけど…」

そこで、ようやく土方はある一つの事実に気が付いた。



「あれ?…なんか…去年もテメーといた気がすんぞ」

記憶をたどってみる。
去年のクリスマス時期直前までは、坂田にはカノジョがいたはずだ。
プレゼント代がないと始めたバイトを本末転倒で、クリスマスイブイブも、イブも、当日も入れていたうえに、終わったら速攻この部屋に来て、ケーキを頬張っていた気がする。

「そうだなぁ〜、っていうか中2からもう4年目になるかなぁ。面倒臭くなんだよ」
「オマエなぁ…」
「だってさ」
ぼりぼりと跳ね返った天然パーマをかき混ぜながら、坂田は言いにくそうに口をとがらせる。

「?」
「なんでもねぇよ」
いつもの気まぐれがでたのか、言いたくないのか。

「坂田、テメーこそ本命の話、話したことねぇぞ?そんなに叶いそうにない奴なのか?」

坂田にどうやら好きな人間がいるとは本人が会話が匂わせてくるから知ってはいた。
ただ匂わせるばかりで具体的な話をしない。
近しい仲とはいえ、あまり根ほり葉ほり聞き出すことをこれまで善しをしていなかったのは、坂田が話したくなれば、きっと坂田自身が時を選んで話してくれると信じていたからだ。
だが、いつになく執拗に、土方は自分の想い人を知ろうとしてきた彼に少し興味がでてきた。
こんなことは初めてだと思ったのだ。

「まぁね…俺の気持ちなんざ、これっぽっちも気が付かねぇ天然だからなぁ」
困ったような、情けない顔で銀時は答えた。

「ふ〜ん」
「…なに?知りたいの?」
「知らなくても別にかまわねぇが…」

本当は土方は知りたかった。
でも、知りたくないのも本当だった。

「十四郎」
「あんだよ?」
珍しく下の名前で呼ばれ、土方が異変に気付く。

「だからさ、十四郎」
「は?」
言葉の意味が理解できずに固まった土方の頬を銀時の両手が包み込む。
真っ赤になった土方を見つけて、坂田は頬を緩める。
伊達に4年も一緒に過ごしていない。
もともと言葉足らずな上に、感情をあまり表に出さない土方からこれだけの表情が引き出せるということは…と坂田は即座に決断した。

そっと、銀時にしては珍しく瞳を輝かせ、かすれた声で口にする。

「だからヤラせて?」

土方の回答は右ストレートだった。


「最っ低だろ?!テメーは」
「いってぇな!!ちょっと俺もストレートすぎかなとは思ったけどね!
 でもよ、人間、恋をすると原始に帰るんだよ!下半身に脳みそ行くんだよっ!」
「順番もへったくりもねぇだろうが!!」
坂田の表情が急にまた何故か輝いたので、土方は寄せていた眉間の皺を更に深める。

「じゃあ、順番追えばOKってこと?」
「ばっ!何言ってやがんだ?!洒落になんねぇ…」
「はいはい、ぶっちゃけた話、オメーが誰かに告られるたびにハラハラしてました」
「あ?」
「だから、付き合って下さい」
思い切った銀時の告白に返した土方の言葉は重く低かった。

「…いや、俺男だから」
「知ってるよ?どう見ても女の子にはみえねぇし、
 足の間に俺と同じものついてんもの知ってるし、見たこともある」
「…だから、ありえねぇだろうが?テメーは巨乳が好きだろうが」
「土方なら胸無くてもありってことで」
言ってしまうと決めてしまった坂田は下から土方を見上げて、ニヤリと笑う。

「ごちゃごちゃ言ってねぇで…」
椅子に座ったままの土方を銀時が殴り飛ばされた床へと引っ張った。

「オメーの答え教えろよ」
低く、その耳朶に吹き込み、軽く唇で食む。

「あ…う…え?ぎゃあぁ」
土方の喉からうめき声だか、悲鳴だかわからない声がこぼれ、耳を手で隠す。

「ほれ?返事は?」
「んなこと…言われても…」
「じゃあさ、俺が友達以上の感情、オメーに持ってるって言われて
 友達止めようとか思った?」

問われて、土方は動きを止める。
黒く艶やかな髪の下で脳がフル回転してはいたが、明確な答えを弾き出すことが出来ない。

「やめる…とか…は…」
「考えた?ちらっとでも。
 男からもラブレターこっそり燃やした時みてーに気持ち悪かった?」
「あれは…って、なんで燃やしたの知って…」
確かに土方は男相手に真っ当な返事をするべきか悩んだ末に一律して見ないふりをしてやり過ごしていたのだ。差出人の名前があるものも無いものも。
それでも学校で処分することは躊躇われ自宅に帰ってから小さく破いてから灰皿の上でこっそり燃やしていた。
その片鱗でも坂田はみたのだろうかと首を捻るしかない。
が、そこを突っ込みかけて目の前にある真剣な眼差しに押し黙ってしまった。


「言ったろ?告白される度にハラハラしてたんだって。で?」
「で?って言われてもな…友達じゃ、だめか?」
「じゃ、しばらくは友達のポジでいいけどな。
 気持ち言っちまったからにはガンガンいかせてもらうぜ」
追っかけていくから、そのつもりで、無駄に腰に響く声で低く言った。

「よし!じゃ、デート行こうクリスマスデート!」
「へ?坂田?」


にやりと銀時は赤い瞳に笑みを浮かべて、オロオロとしたままの土方に口づけて
強引に立ち上がらせたのだった。



『HappyChristmas?』 了 





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