うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『a sweet scent sideG』




【注意】
ちょっと、ひどい坂田さん(彼女有り)と、ちょっと変な土方くんがいます。







「ごめん。待たせた」


剣道部の練習も終わり、駅前のマックに寄る。
今のカノジョは隣の女子高の三年生。
年上ぶるところはあるが経験値が向こうの方が上な分、銀時に甘かったし、大概の我儘もきいてくれるオンナ。
特段可愛いわけではなかったが、体つきは好み。
自分の衝動と興味を試させてくれるという意味では気にいっていた。

「おっそい!銀ちゃん!」
隣の席に座り込み、彼女の携帯を覗き込むとゲームをして時間を潰しているようだった。

「ごめんごめん。ちょっと出る前に後輩に捕まっちゃってさ」
よりによって道着を部室に忘れた。
このシーズン、ただでさえかび臭く感じる部室に、汗で湿りまくった道着を置いて帰る勇気は銀時にはない。
渋々と取りにもどると、そこには今年入部した土方十四郎が座り込んでいた。

同じ中学出身だという近藤が絶賛する剣筋の持ち主だった。
まだまだ粗削りだとは思うが、真っ直ぐなぶれのない剣筋と、ちょっと好戦的な瞳孔の開いた色素の薄い瞳が印象的だと思う。
銀時にはない黒く艶やかな髪と成長途中の少しばかり華奢な肢体。

剣道が本当に好きで、練習にも熱心で、
そして、自分に向けられる視線にも気が付いていた。

男の顔を覚えていることに労力をかけない銀時が珍しくフルネームですぐに彼の事は認識した程だ。

基本口が悪いようだが、堅苦しいくらい根が真面目で、自分たち目上の者には使い慣れない敬語を使う。

その彼が、誰もいない部室で銀時の道着を握りしめていたのだ。


「やだ!銀ちゃん!」
「へ?」
ストロベリーシェイクを飲みながら、パズルの画面を覗き込んでいると急にしかめっ面をされる。

「汗臭い!シャワーくらいしてきてよね〜」
「シャワーはしてきたって!そんなにいう程じゃねぇだろ?」
「クサいわよ!もうっ気を付けてよね!」
汗ふきシートを押し付けて、しまいには身を少し離されてしまった。

(土方と大違いだな)
あんなやり取りがあった後だからつい比べてしまう。

銀時の汗臭い道着を平気で匂っていた。

『土方、俺のこと好きだろ?』
半ば冗談で尋ねたのに、土方は顔を真っ赤にして動揺していた。

だから、調子にのってつづけたのだ。

「オメー、練習中も、ずっと俺みてんだろ?そんなに俺のコト好き?」
「そりゃ、先輩すっげぇ強いから…」
顔を寄せると、黒いサラサラした髪が目の前で揺れる。
日に焼けにくいのか白い肌が朱に染まっている鮮明さに驚いた。
あれだけ、攻撃的な剣筋の持ち主なのに、今は借りてきた猫のようだとも。


「好きだから、こんなとこで、俺の道着抱き締めてくんくんしてたんだろ?」
「?!」
憧れだけではないだろう?と、
あまりに坂田の嗜虐心を煽るからエスカレートしていく。

「ねぇの?俺なら、するけど?それが好きな奴の匂いなら嗅いでみたいけど?」
「え?」
息が耳にかかるほど近づけば、何か腹の底を刺激するような香りがした気がした。

「こんな汗クセェ道着嗅いで、興奮するとか、土方って変態」
「だから!ちげぇって!」
土方への言葉であるはずなのに、そのまま坂田へリバースしてきている気がして内心焦り始める。

悔しそうに見上げる瞳と、
噛みしめられた口元。


「ま、俺も、可愛い女子マネにされてたら、くらっときちゃうかもしんねーけど、野郎にされてもキモいだけだわ」

だから、ちょっとドSセンサーが格好の獲物を見つけたのだと。
そう思うことにする。
深く考えてはいけないと、本能で感じるから。




そして、今まで、そんな風に感じたことはなかったというのに。
だというのに、目の前のオンナの匂いを今、とんでもなく苦手だと思った。

「お前こそさぁ…」
ぐいっと腕を掴み、カノジョだった女を無理引き寄せて、耳に口元を寄せる。

「そんな香水くっせー匂いばっかさせて、逆に恥ずかしくないわけ?
 鼻曲がりそうなほどつけねぇと体臭消せねぇような奴に言われたくねぇよ」
纏ったフレグランスは確かに、銀時の好みだったのに、今日はやたらと酷く鼻につくのだ。
本来の香りに混ざっている『何か』が熱を冷ましてくかのように。


「ちょっと!!何その言い方!」
案の定、彼女は立ち上がり、声を荒げる。

「あ〜もういいわ」
「何がいいのよ?!」
ヒステリックな声に頭痛さえしてくる。

「新しいおもちゃ見つけたから、アンタもういらね」


まだ、カップに残っているシェイクと荷物を掴んで立ち上がった。

さて、明日は土方が道着を洗ってくるはずだ。
どんな様子で、
どんな匂いで、
自分を愉しませてくれるのか。

カノジョと別れて急に時間が出来てしまったが、
そんなことを考えていれば時間なんてすぐに立つ気がした。

一気に残りのシェークを飲み切って分別もせずにゴミ箱に放り込んで店を出る。
そうして調子はずれの鼻歌を歌いながら、銀時は駅へと歩き出したのだった。





『a sweet scent 2』 了





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