『花の如く』ある秋の昼下がり。 最近では、すっかり、かぶき町の風物詩と化したやり取りが、往来で執り行われる。 「この税金泥棒、なんか食わせろってんだ。コノヤロー」 そう声をかけたのは、銀髪に洋装と和装を混在させた出で立ちの男。 「なんで俺がテメーみたいなニート野郎に奢らなきゃなんねぇんだ?ゴラァ」 それに、苦々しい表情で答えるのは、青灰色瞳孔開き気味の武装警察真選組の幹部服。 「だ〜か〜ら!ニートじゃねぇってんだ。 これでもれっきとした自営業主なの!社長さんなんですぅ。 何度いったらわかるんですか? 副長さんは?マヨネーズばっかり摂取してっから脳みそまで、 あの酸っぱい匂いに侵されて働いてないんじゃないですかぁ?」 そこで、副長と呼ばれた男が抜刀した。 「あ゛ぁ?テメーの砂糖だらけの頭より働いてらぁ!」 大きく振り下ろされた軌跡を洞爺湖と銘打たれた木刀が受け止める。 「大体、事業主つったって大して納税してねぇだろうが!」 「税金ならしっかり納めてるぜ?消費税とか消費税とか消費税とか」 「消費税しか払ってねぇじゃねぇか!」 左に流された剣筋を戻しながら、銀時の打ち込みに土方は備える。 「うちは良心的な価格設定だから大した稼ぎにならないんです! でも、そのうちくるからね?ニュー万事屋の時代!だから出世払いで奢って」 「ニュー万事屋だぁ?金髪ストパーでスマートに解決?そんなんテメーじゃねぇだろ!?」 「なんで金髪ストパー?!そりゃ、さらさらストレートにはなりてぇけれども!!」 流れるような動きで、木刀が風を切った。 「俺みてぇに勤勉に働きゃなるかもしれねぇな」 「なにそのプチ自慢?勤勉っていえばオメーどんだけ休んでねぇの?」 「絶賛20連勤中!今日まで!」 「さすがワーカホリック!真似できねぇわ!」 言葉の応酬とともに繰り広げられる剣戟を止めるものはない。 逆に、遠巻きに声援や野次をとばすものさえいる始末だ。 ようやく二人の息が荒くなる頃になったところで、一度双方、距離をとり、息の塊を吐き出してから剣を収めた。 「仕方ねぇな。今日のところは折れてやるわ。ほら、銀さん優しいから」 「なんだそりゃ。なんで俺が勘弁してもらってるみたいな感じになってんだ?コラ」 そこへようやく二人の間に若い二つの声が割り込んだ。 「銀ちゃ〜ん。お腹すいたぁ」 「今行く」 銀時は桃色の髪の少女に答える。 「土方さぁん。サボってねぇで仕事してくだせぇ」 「サボってねぇ!総梧テメーこそ昼寝してただろうが!」 土方も茶髪の一番番隊隊長に怒鳴り返す。 「ま、そういうことで」 「……ぉぅ」 それを合図に二人は踵をかえし、その日のかぶき町名物は、幕を下ろした。 翌日のこと。 世は文化の日と位置付けられ、祝日をうたう。 「こっちだ。チャイナ」 真選組一番隊隊長沖田総梧は、キョロキョロとしている万事屋従業員神楽を路地から呼び止めた。 「やっぱりニコチンもここに来てるアルカ?」 「あぁ、あそこの呉服屋に二人で入って行きやがった」 「夕べ、案の定銀ちゃんそわそわしてたね。気持ち悪いくらいだったヨ」 「土方の野郎もあちこちコソコソ電話かけてやがった」 「あの二人、おかしいアル」 「旦那と土方さん…犬猿の仲を装いながら、結構オフの日に会ってるみたいだしな」 「まさか、銀ちゃんにヤバイことさせてんじゃ…」 「いやいや、旦那がウチの土方さんを唆してるんじゃねぇのかい?」 「そんなことないアル!」 「静かにしろぃ。店から出てきたぜ」 老舗の呉服屋から銀時と土方が何やら荷物を抱え、連れ立って出てきた。 「なんにせよ、跡つけてみれば分からぁ」 ここのところ、奇妙な動きをする銀時と土方の様子を探るべく、神楽と沖田の共闘が始まった。 銀時と土方は何を話すでもなく、江戸の町を歩き回る。 最初の呉服屋を皮切りに、花屋、小間物屋を時間をかけて周り、ようやく午後2時を回る頃、ファミレスに入っていった。 窓越しに真剣な表情でメニューを睨む銀時と煙草をふかす土方の姿が見える。 ぐるると神楽の腹の虫がなる。 「!」 「…尾行ついでだ。入るぜ」 「マジでか?ケーキ食べても食べてもいいアルか?」 「ケーキ?飯じゃなくて?」 「私、今日誕生日ネ。銀ちゃん忘れてるみたいだけど」 「誕生日…」 沖田はそれ以上なにも言わず、問い掛けず、ファミレスの中に入っていった。 案内された席は、都合よく上司二人からは植え込みで見えづらく、会話は聞き取りやすい場所に案内される。 「…だからさぁ、まだ話してないんだよ」 「グズグズしやがって。このヘタレが」 「だってよぉ。話しにくいじゃねぇか。テメーとその…こうやって会ってるとかさ」 「チャイナに…話しにくいなら俺から…」 沖田と神楽は顔を見合わせる。 「…なんか…」 「「娘に新しい母親紹介する父親みたいネ」だな」 二人の見解が一致する。 土方の非番前になると、このところ、そわそわと落ち着かない銀時。 考えてみれば、本来ものぐさである銀時が、 基本真選組以外のことに無関心な土方が、誰かに進んで絡むということ自体が不自然といえば不自然だった気もしてくる。 「ぐぉぉ!なに?継母は目つきの悪いニコチン中毒のマヨラーあるか?!それ以前に銀ちゃんホモあるか?!神楽さん悲劇のヒロインね!?昼ドラね!」 「チャイナ!?テメー声デカイ!しかも喜ぶんじゃねぇ!」 「銀ちゃんはやっぱりたぶらかされてるネッ。女にモテないからって」 「それをいうなら、旦那の性癖満足させられる人間なんて、そうそういねぇんだから、旦那がご執心だと思うがねぇ?」 「なにおぅ?!」 ガタリとエキサイトしてきた二人は立ち上がった。 お互いに胸倉を掴もうとして、急に体が宙に浮く。 「「あ」」 沖田は土方に。 神楽は銀時に猫のように首ねっこをつかまれていた。 「で?オメーらは何の話しをしてくれちゃてんのかな?」 結局、二人はひきづられるように『てにーず』をでる。 「だから〜土方には今日の買い物口利きして貰ってたんだって」 銀時は今日立ち寄る店店で増やしていった荷物を指し示す。 「?」 「俺も新八もオメーぐらいのガキが欲しがるものわかんねぇし、妙はケーキ担当って言い張るし、月読もさっちゃんもマニアックなものしか言わねえし…」 銀時はガシガシと天然パーマを掻き混ぜながら、ふて腐れたように続ける。 「だからフォロ方くんにアドバイスをだな…」 「銀ちゃん!私の誕生日覚えてくれてたアルカ?!」 銀時の話を遮って、少女は勢いよく抱きついた。 「新八が、メシ用意してっから」 付け加えながら、銀時が土方に片手で詫びの仕草をしたことに神楽は気がつかない。 土方は心得たように、沖田をひきづり、その場を離れようとする。 「ちょっと待ってくだせぇ」 その手を振り払い、沖田が手近にあった可愛らしい内装の店に飛び込んだ。 「おい。チャイナ」 「?」 ズイッと茶髪の青年は白い箱を少女に突き出した。 「あねさんのケーキは近藤さんに食わしてやんな。テメーはこれでも食って腹下しやがれ」 きょとんと一瞬目を丸くした神楽だったが、次の瞬間、華が綻んだような笑みを浮かべた。 「夜兎の腹をナメんなよ?全部一人で食べてやるネ!!」 「神楽ちゃん?銀さんにはわけてくんねぇの?」 「銀ちゃんは、さっきマヨラーとパフェ食べてたから無し!」 「えぇぇ〜」 遠ざかっていく銀色と桃色の頭を見送りながら、土方は沖田の頭を掻き混ぜて、屯所へと足を向けたのだった。 おまけ(大人たちの事情) 神楽の誕生日パーティもお開きとなり、神楽を押入れに放り込んで、銀時は万事屋をでた。 橋のたもとにある一軒の屋台の暖簾をくぐる。 そこには、舐めるように酒を口に運ぶ土方の姿があった。 横に座り、オヤジから受け取ったグラスを満たして、とりあえず一息にあおる。 「なぁ…まだ、オメーとのこと神楽たちに話すの早いだろうなぁ…」 「あの様子じゃな…ま、いんじゃねぇか?」 ほんの少しだけ土方は口端を上げて笑う。 「でもなぁ…」 「変なとこで真面目だな。テメーは」 「いや、エロい嫁を自慢したいだけ」 銀時だけが気が付く程度の密やかに咲く小さな小さな微笑みに照れくさくなり、茶化す。 「エロいとかいうな!腐ってんのはその天パだけにしとけ!」 「あ、嫁ってところは否定しないんだ?ぐは!」 真っ赤になった土方の右ストレートが銀時を襲ったのだった。 『花の如く』 了 神楽ちゃん!お誕生日おめでとう!! それだけ…です (26/85) 前へ* 短篇目次 #次へ栞を挟む |