うれゐや

/ / / / / /

【短篇】 | ナノ

『宵闇』




絡み合う視線。

ぐしゅぐじゅ
挿出を繰り返す度に発せられる生々しい音。
じゅぶじゅぶと
入り口で既に放出した体液が泡立つ音。

これまでの常識だとか
嗜好だとか
性別だとか

そんなものでは…
制御できない衝動。

飢え。

手触りが
匂いが
吐息が
体温が
欲しい

本能のままに

どろどろになって
意識を持っていかれるまで貪って
奪い合って

呼吸を重ねて
体液を交換する。

そうして、いつか、融け合って、混ざりあって一つのものになってしまえるような、そんな夢を見る。

ひどく淫らな
ひどく蠱惑的な
そんな夢を。

混じりあっている相手の髪に、指を差し込み、頭を引き寄せ顔を寄せる。

見た目、さらさらと風に流れる様子から柔らかいだろうと思っていたが、存外硬い。

どこにも行くな。
そんな言葉を吐く謂れもなく。
(それは、この関係に明確な名がついていないからか)
誰かのために傷つくな。
そんな希望を願う資格もなく。
(それ以前に真選組という組織に生きる彼には難しい話で)

儚い今だけの快感と悦びとを追う。

一度ギリギリまで己を引き抜いて、緩やかに腰を揺らしながら入口から滴り落ちる白濁を眺めた。

「こんなに中に出したら孕んじまうかな…」
「馬…鹿が…んな腐れ天パが父親じゃ…子どもがかわ…いそうだ」
合間に掠れた声で返るはそんな囁き。

「気にするとこ、そこなわけ?」
グッと今度は一気に押し込み、仰け反った喉元に唇を当てて笑う。

「子ども…欲しいのか?」
キュッと潜められた土方の眉に、銀時自身の心臓が痛む。

「土方は…欲しい?」
普段なら聞かない。
別段、子どもが欲しいわけでも、女がいいわけでもないから。
相手の答えも知りながら、あえて今日は尋ねる。

「そりゃ…無理だな」
「土方は頑張れば出来る子だよ?」
土方達真選組はチンピラ警官と悪評を受けてはいるが、れっきとした幕僚だ。
望めばそれなりの家柄、器量の女を娶ることができるだろう。

「そういう意味じゃねぇ…」
身体を繋げながら、なんて会話をしているのか。
何でもないことのように尋ねながら、その実、いつだって恐々としている。

「俺は…ハっ…真選組と自分のことと…」
一言一言、熱の塊を吐き出すように律儀に返される。

「テメーの存在だけでいっぱいいっぱいなんだよ」
「あ?」
「ふ…だから、三十年近く前に…
 テメーを産み落としてくれた親に…
 俺も…感謝しねぇとな」
「…三十路にゃ…まだなってねぇよ…」
知らないと、
気に止めている風でもないと思っていた。

「ちょっ!デカくすんな。苦しい」
「いや、不意討ちすっからだろ?勘弁しろよ」

吐息と共に、また上がってくるボルテージを本能のままにまた突き上げ始める。
息を重ねて、
身を繋げて、
なんて非生産的。

相手の中にぶちまける銀時の熱も、
その腹の上に飛び散る土方の残滓も。
生命として芽吹くことはない。
でも、何か…

「じゃあ…」

お前の中に何か残るならば。
もっと根源でつながるならば。
何かの種にはなって、
自分が生まれてきた意味を一つ、孕んでくれるのだろうか。

「満たせよ」

妖しく、
艶やかに、
銀時の頭を掻き抱いて、
甘やかすように、
でも、命じるように、
そんな声に満たされる。

貪って
奪い合って

呼吸を重ねて
体液を交換する。

そうして、いつか、融け合って、混ざりあって一つのものになってしまえるような、そんな夢を。

ひどく淫らな
ひどく蠱惑的な
そんな夢を。

今年は自分の生まれた日にみた。




(24/85)
前へ* 短篇目次 #次へ
栞を挟む

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -