うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『報酬の支払方法』






「いんだよ。一気にもらうより一生ちびちびたかった方が得だろ?」
伊東鴨太郎による真選組の動乱も片付き、
ギャラの心配をする神楽に銀時はそう答えていた。





「お、多串くんじゃね?」
ふらりと寄った居酒屋のカウンターで銀時は黒い着流しを着た真選組副長を見つけた。
他に席も空いていなかったこともあり、一つだけ椅子を開けて、カウンターへと腰かける。

(ちょうど、いいや奢ってもらおう)


「多串じゃねぇ!腐れ天パ」
「お前こそ、それ名前じゃねぇから」

遭えば、喧嘩。
でも、出会った頃のように、出会い頭に抜刀切りあいなんてことになることはほとんどなくなった。

腐れ縁。


「じゃ、万事屋。酒が不味くなるから、どっか他行けや」
「いや、それも名前じゃ…って、俺の名前…知ってる?」

ふと、銀時は思いつきでそう、尋ねた。
いやな沈黙…

「オメー、まさか…」
「…テメェの名前…?調書で読んだ気はすんだが…」
「マジでか…」

(腐れ縁から少し進みたいなんて思っていたのは俺だけ?)。
がっくりと銀時は肩を落とした。


真っ黒いストレートな髪に、平常から瞳孔開き気味の物騒な武装警察のトップ2。
いつもかっちりと重たい制服を着こみ、肩で風切って江戸の町をあるく。
トッシーの呪いをも受け入れ、
『誰が死のうが振り返るつもりもねぇ。全部背負って前に進むだけだ。地獄でやつらに嗤われねぇようにな』
なんて、強がって生きている。
傍にいて、真選組しか頭にない、こいつの息抜きになってやりたい、なんて。
厄介なのに、惚れちまった自覚はある。

(って思ってたのによぉ。名前すら記憶にねぇのか)

「あ〜、わりぃ…」
土方もさすがに気まずく感じたのか、珍しく自分から銀時の猪口を満たしてやる。
それを受けながら、隣に移ってきた土方に目をやると、既にかなり呑んでいたのか顔が赤い。
隊服の時は暑っ苦しいくらい、ストイックに着こなしているというのに、私服の着流しの時はどうして、こんなに前を肌蹴させるのだろう?

(マジヤバい。どれくらいヤバいかってマジヤバいんだけど。エロいんですけど)
酒のせいで、首元まで赤く染まって、申しなさそうに小首を傾げる様に銀時は頭を振った。

「そういや、オメー、チャイナに聞いたんだが」
「神楽?」
土方が突然話の矛先を変えてきた。

「この間の報酬、ちびちび、一生たかるつもりだって?」
「だって、ギャラもらってないじゃん。貯金もトッシーが使い込んでたんだろ?」
名前を覚えてもらっていなかったことのショックも手伝い、
子どものように口を尖らせて、答える。

「一生なんて、長げぇな」
「………」
(本当はちょっとプロポーズっぽくて良いかななんて思ったんだって…)
まだ、好きだとも、付き合ってとも何も始まってはいないのだが。
なんだか居たたまれなくて、ガシガシと銀髪頭を掻き混ぜる。

「チャイナに一生分ってどれくらいか聞いたら、酢昆布のお徳用パックで計算しようとしてやがった。メガネはアイドルのCDで換算らしいぜ?」
今日の土方は機嫌がよいのか、それを怒るでもなく、くつくつと低い笑い声を漏らす。

「テメーは何に換算すんだ?」
「オメーとの時間…」
「は?」
「いやいや、なんでもね…やっぱパフェ的なもんか?」
「じゃ、ここは奢りじゃなくて良いな?次回糖分ってことで」

オヤジ、勘定っと土方は厨房に声をかける。

「それってデートのお誘い?」
ある意味、自虐ネタだと苦笑しながら、銀時が問う。

「そのつもりだぜ?坂田銀時さん?」
「!?」
片手をあげて、居酒屋をでていく後ろ姿に一拍遅れて、万事屋も立ち上がる。

「オヤジつけといてっ」
カウンターの中から店主のまたかい銀さんと呆れた声が聞こえた気もするが、
今はそれどころではない。

(あの野郎っ!?)
銀時は少しふらつく足取りで屯所への道を機嫌よく歩いて帰る土方の真意を問い詰めるべく追いかけ始めたのだった。




『報酬の支払方法』 了



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