うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『緋の世界』





赤を拾う

一面の緋色をかき集める。
あぁ、またこの手の平からこぼれ落ちる。
命の色。

緋色は乾いて褐色に変わり果て、やがては、闇の黒に成る。
漆黒にかわっても、拾いきれない。
指の隙間から滑り落ちる。

焦燥?
飢餓感?
すべて掴んでいたいのに、いつも、それは赦されない。

緋色であり同時に闇色。

あぁ、あの子の色だ。
唐突に理解し、銀時は目を開けた。

視界に拡がる漆黒。

久々の逢瀬に、彼が意識を飛ばすほど求めてしまい、そのまま抱き合って眠ってしまっていたらしい。
そっと黒髪に口付けた。
瞳孔開き気味なその瞳も閉じられ、やや幼く見せている。
いや、それが本来の彼の年齢なのか。

いつも真選組の為に気を張っている。
酸素を求めるように、己の存在理由を欲しがる彼。
忙しくしているうちは逆に、精神的には落ち着いている。
時間が空けば、エアポケットに落ちたかのように自分の思考に連れ去られてしまう。

縛られることで己を保つ土方と縛られないことで己を生かそうとする銀時。

あぁ…
今日は君も魘されている。
白に溺れないように足掻く君と緋から目を離したくて離せない俺。

「おい、土方」
名前を喚んで、白の水底から引き揚げよう。

白に捕まらないように足掻くなら、いっそ銀色一色にしてしまえたらいいのに。
君が保とうとする黒を、今だけはオレ色に。

「俺とお前が二人でイクってなら、天国でしょう?」
「バーカ」
凍えていた体から少しだけ力が抜ける。


この瞬間だけ
刹那的な
つまらない独占欲
自身を楔と撃ち込んで

白と赤と黒と銀

白の世界も、緋色の世界もすべてすべて

交ざって、熔けて…
落下しておしまい。




『緋の世界』 了



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