うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『白の世界』





白い…
ただ、ただ、白い世界

俺は恐れおののいた。

何もない。
闇さえない。

ただ白い世界がそこに横たわる。

この世で恐ろしいもの。
刀で切れないもの。
そして、白い世界。

何もない。
光だけが存在し、己自身さえも飲み込んでしまうような…
そんな空間に飲み込まれる。



「おい、土方!」

突然、白の世界が銀色の世界に切り替わった。

「は…ぁ…」

やっと、水の中から浮上してきたかのように酸素が肺を満たし
息ができた気がした。

「大丈夫か?かなり魘されてたぞ?」
銀色が口を利く。
状況が判別できなかった。

「あ…」

さらりと角ばった手のひらが優しく頭をなでている。
徐々に感覚と、精神が神経が現実世界へと戻ってきた。

「…平気だ…」

「本当に?なんか、体、ずいぶん冷たくなっているけど」
「あぁ…」

だから、少しだけ。
今、この時だけ。
銀髪の首元に額を擦り付けるように身体を寄せてみる。

「な、なに?どったのお前…」
「ウルセー。さみーんだよ」

季節は夏。
エアコンの効いていない万事屋の万年床で寒いはずも本来ないのだが。

心根から、凍るような夢。
恐怖。

あぁ、久しぶりにみた。
俺には本当は何もない。

今でこそ、真選組がある。
そして、近藤さんがいる。

でも、それらが消えてしまったら?
俺には何が残るんだろう?

「なぁ、どこにいくんだろうなぁ」
「ん〜?」

誰がとも、何がとも言わない。
ただの独り言。
万事屋はそっと背をなでてくれながら、クスクスと笑ってくれた。

「天国かなぁ?」
「なんだそりゃ?」

わかっているのか、わかっていないのか。
相変わらず、死んだ魚のような目で、万事屋は答える。
やっと、少し体温が戻ってきた気がした。

「そりゃ、俺とお前が二人でイクってなら、天国でしょう?」
「バーカ」

そうだな。
それもアリかもしれねぇ。


万事屋の手のひらが、艶のある動きに変わった。
吸い付くような、感覚で俺の肌をなぞっていく。

土方の体温をまるで確かめるように。
存在を、
ここにいていいのだと確認するかのように。

快楽に身を委ねながら、俺の世界は白でもなく、黒でもない銀に染め上げていく。
今だけは。

強さを求めるだけでなく。

ただ、

白の世界から抜け出して



『白の世界』 了




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