うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『おかえりなさい』




土方は確かに言った。

『俺の体は当の昔に、霊やらたたりやらで定員オーバーさ
今まで踏み越えてきた敵や仲間たちの怨念でな
今更呪いの一つや二つ増えたところで何もかわらねぇ』

「いや、確かに聞いたよ?聞いたけど、これはなくね?」
銀時は深いため息をついた。

武装警察真選組だなんて、危険な仕事を生業にしている自分の大事な恋人が、
せっかく取れた休みを万事屋で過ごしてくれようと来てくれているのに…

「あぁ?なんだ、さっきから」
「土方さ、肩重くない?」
「はぁ?確かに書類仕事貯まってたから、肩が痛いっちゃ痛いが。
 いつものことだしな」
ゴキゴキと気持ちいいくらい、肩を回すと大きな音がなる。

「うーん…」
スタンド使いなんて経験をしてしまったせいだろうか。
銀時の目には、うようよと半透明な奴らが、土方の周りを飛び交っているのが見える。
(なんで今日に限ってハッキリみえるんだか…)
土方は基本的に怖がりだ。
(さて、どうしたもんか…)
霊的なもんがなんていったら、ヒビリまくるんだろうな。
怖がる様も可愛いんだろうけど。
と考え、自分の腐り加減に苦笑する。

銀時の目に映る半分透けた存在たち。
顔も形も判別し難いぼんやりとしたモノ。
真選組の隊服を着ているモノ。
そして、ヤケにハッキリと表情やら声まで見聞きできるモノ。

『いい加減に十四郎さんから手を離して下さい。伊東様』
『フラれた君こそ、諦めたらどうかね?ミツバ君』
『いえいえ、副長には自分達がついてますから!』

わいわいと何だか取り合いのような事になっている。
当然の如く、見えない土方は、在らぬところへ目をやりながら、
ぶつぶつ言っている銀時を怪訝そうにみていた。

「悪霊…とか、呪ってるとかじゃなさそうだけど…」
「あ゛?」

『あら』
突然、沖田の姉が銀時を振り返った。

『万事屋さん。ご無沙汰しております』
「こちらこそ、お久しぶりです」
あまりに普通に話し掛けられて、素で挨拶を返してしまった。

(なに普通に接しちゃってんの!俺ぇ!)

「テメー、誰に挨拶してんだ?」
「いや、その…」
『おや、坂田君には僕達が見えるのかい?』
自分達の声が届くとわかった途端、ターゲットを変えたのか、
銀時の方へ向かってきてしまった。

「こっち、来なくて良いから!」
「おい!何なんだ!?」
土方が痺れをきらして、立ち上がる。

「オメーに言った訳じゃねぇから…落ち着け」
銀時の視界を半透明なモノが横切り、会話し辛い。

『ちょうどいい。坂田君に誰がいいかのか土方君に聞いてもらおう』
『それは良いかも…折角戻ってきたのに、
 十四郎さんとなかなか二人になれないんです』
『副長は真選組隊士のなんです』
『いや、僕だって殺したいほど愛してるよ』

「大丈夫か?」
銀時の視線が定まらないことを、心配そうに覗き込まれる。


「大丈夫。俺はね」
「え?」
「何か、今日に限って、オメーと一緒にお客さんが来てんですけど?」
キョロキョロと周りを見回しているが、彼の目にはやはり映らないらしい。
「こう…透明というか、透けてる的な…?」
「は?」
「だから、沖田君の姉ちゃんやら隊士やら、インテリ眼鏡とか…」
急に、ただでさえ色の白い土方の顔が、さらに蒼白になった。

「な、なんで…?」
やっぱり、そう思うよね?
恨みつらみの有りそうなメンバーじゃない。
(約一名微妙だが、言動から察するに違うらしい)

「あ」
そうして、唐突に思いついた。


『「「お盆だから」」』

だから、成仏してそうなヒトまで戻ってきてるのか。

「テメーには見えんのか?」
理由と対象がわかった為か少し動揺は残るものの、
再度ソファーに座り直し、煙草に火を点けた。
若干、手が震えていることにはこの際触れないでおく。

「見える」
見える…のが、良いのか悪いのか…
(でもなんかムカつくのはメンバーのせいかね?)
土方のかつての想い人と彼に執着し続けた男。
そして土方が副長として愛してやまない真選組の隊士として散っていった者達。

「お盆だし、害はねぇなら、まぁいいか」
無駄に男前なことを言ってのける恋人に頭痛を覚える。
幽霊達にまで悋気を興してるんですけど…俺は…

「あ〜」
でも、我慢の限界かも。
土方が状況が解らないことを良いことに、触り放題、抱きつき放題だ。
バリバリと天然パーマを掻きむしると、土方の隣に移動した。

「なぁ、どうなってるんだ?」
「知らない方がいいかも。でも、今から追い払ってやっから…」
「そんなこと出来…ん…うンン!」

言葉を最後まで続けさせず、腰を引き寄せ、自分の唇で塞いでしまった。
伊東の身体を擦り抜けた形になったが、この際我慢する。
閉ざれぎみの隙間に舌を強引に滑り込ませる。

「ぁ…ふ…」
舌を絡め、咥内を犯す。
口の中の弱い部分を隈なく攻めれば、
快感に慣れた身体が熱を持ちはじめたのを感じた。
くちゅ、くちゅと水音が響き渡る。
くたりと流水柄の着流しを掴んでいた腕が滑り落ちた。

「感じちゃった?」
うっすらと開いた目尻が朱い。

隊士の霊たちがまずショックを受けたのか、引いていく。

(ほぅら、オメーらにはマネ出来ねぇだろ?)
やや、ドSモードで見せ付けるように、また音をわざとたてて唇を合わせた。

「…ん…よろ…」
息継ぎの合間に土方が甘ったるい声を発する。
きっと状況が読めないまま、快楽に流され始めているのだろう。

『ひ、土方くん…』
伊東も、やや離れあわあわと口を開け閉めを繰り返している。
『ぼ、僕は…』
更に、土方の着流しの襟を割り、手を滑り込ませた。
「ちょっ…!おい…あっ…」
これは俺のですから。
「…ぁ…ん…」
腕の中で、土方の身体が妖しげに揺れる。

「さて、皆様、ここから先は有料制です。
 知り合いの陰陽師喚んでからになりますがよろしいでしょうか?」
口惜しそうし、しかし渋々と霊達は一人、また一人と姿を消していった。

最後まで残っていたのは、やはり、沖田ミツバだった。

「万事屋さん」
一番大人しそうで、その実一番厄介な相手。
『十四郎さんは幸せになれますか?』

土方の乱れ具合にも、一番冷静に適応していた。
やはり、総一郎くんとは姉弟なんだと読めない表情を探る。
「万事屋?」
急に手が止まったことを訝しんで、土方が銀時を見遣る。
その、薄灰色の瞳をちょっとだけ見つめ、ミツバへと視線を戻した。

「そうあって欲しいとは願っているよ」

『幸せ』のベクトルが同じであれば、嬉しいとは思う。
『そうですか…なら良しとしておきます』
ミツバも分かっているのだろう。
『でも、十四郎さんを泣かせたら、総ちゃんに頼んで呼び戻してもらいますから』

にこやかに、ひそやかに物騒この上ないことを言って、女は消えていった。


「おい!」
「あ〜ごめんごめん。皆さんお帰りいただいたから」
「そうなのか?」
どう反応してよいのか分からずに、土方の目がきょときょと宙をさ迷う。

「あれ?もしかして、公開プレイご希望だった?」
「んな訳あるか!クソ天パ!」
銀時的には幽霊相手とはいえ、日頃ひた隠ししている関係だけに、
人(霊)前でいちゃつくのは、途中から少しばかり楽しくなっていたのだが。
見えない土方にはあまり関係なさそうなのに、真っ赤になって怒っている。

「じゃ、二人になったところでしっぽり再開しますか」
「…おぅ」
(あ、デレた)
くすくすと笑いながら、ゆっくりとソファーへ二人は身を沈めていった。



後日談

「あ、旦那ぁ」
「また、サボり?」
ジャンプを買いにコンビニに入ったところで、真選組1番隊隊長に出くわした。

「先日は姉上がお世話になりました」
「は?」
「折角、土方の野郎のところに召喚してやったのに、早々に戻ってきやした」
「なに?その召喚て?」
「すっかり腐女子のカテゴリーにヒットしちまったのか、凄い興奮して実況してくれやした」
「な?」
「また、見学しに行くそうですんで、よろしくお願いします」
「はいぃぃぃぃ〜?!」
沖田姉弟の不吉な笑みに銀時は眩暈をおこしかけたのだった。





『おかえりなさい』 了


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