うれゐや

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【短篇】 | ナノ

『深層下』






 ※微エロと申しますか、でも基本ギャグテイストですのでご注意ください。




ごとんごとん 
線路を電車が機体を揺らし、走っている。

珍しく、銀時は電車に乗って移動していた。
面倒なことに、時刻は帰宅ラッシュを迎える夕刻。
次々に容赦なく押し込まれ、押し入ってくる人の流れに翻弄されながら、3駅先の新宿駅までだと耐える。

その時だ。
視界に飛び込んできたのは黒いサラサラのストレート頭だった。
丁度、人々の死角になりやすく、追い詰められると逃げ場のないポジションに押し込まれている。

(土方…だよな?)
自分の特徴的な髪形と違い、別段珍しくもなんとものない男の黒髪短髪であるのに、
なぜか、確信のようなものがあった。
しかし、一体どんな確率だろう?
ひと月に1度か2度乗るかのらないかの銀時と、
いつもパトカーで移動しているであろう天下の真選組副長さんが、
こんな満員電車で乗り合わせるなんて。

「?」

気のせいだろうか?
土方の顔も心なしか紅いように見えた。

俯きがちな面。
悔しそうにギュッと結ばれた口元。
そして、朱く染まった目元。


ごとん

大きく電車が揺れた。

揺れた途端に、土方の肩がびくりとはねる。
はねたと同時に声は聞こえなかったが、緩んだ口元が吐息を吐いたのが、銀時の位置からもわかる。

視線に気が付いたのか、土方の瞳がゆっくりと銀時を捕らえた。
息をのむ気配。

その瞳は悔しそうに歪められながらも、妙な熱を持って潤んでいた。
羞恥の色を纏いながらも、確かに色をも含んだ顔をしているのだ。

いつもの土方には似つかわしくない欲の色。


(マジかよ…)

普段、ストイックな制服と気配を纏い、肩で風切る真選組副長が満員電車で痴漢にあっている様子だった。
いつもの銀時ならば、ジェスチャーでからかって見せるところだろうが、
そういう気分ではなかった。

なんだか、無性にその痴漢に腹が立ってきたのだ。

一瞬どうしようか、迷いがなかったわけではないが、少し強引に人の迷惑など顧みずに人の波を掻きわけて、移動を始めた。

銀時に思惑に気が付いたのか、あわてたように視線をそらし、土方は口惜しそうに顔を歪める。

「こっち」
グイと土方の手を取り、自分の方へ引っ張る。
ぎゅうぎゅうに詰められた車両の中でのことだ。
それほど、元居た場所から離れることは叶わなかったが、強引な動きで周りから守れるように自身で囲った。


土方は隊服だった。

矜持の高い男だ。
痴漢にあったという事実を恥じ、騒ぎになることを避けようと、反撃も出来ず、かといって、慣れない満員電車に逃げることも叶わず…といったところだったのだろう。

「テメ・・・なんで、こんなとこにいやがる」
ギリリと助けてくれたはずの銀時を睨みつける。

(うぉ、そんなうるんだ目で睨まれても…)
そんな顔で睨まれても、煽られた気にしかならない。
特に銀時のようにSっ気が強い人間にとっては…
男色の気はもともと銀時にはない。

「たまたまだ。オメーこそ電車に乗ってるなんて珍しくね?」

(これは男だって!)
必死になって、自分に言い聞かせ、平常を保とうと質問してみる。

「……」


ごとん
また、電車が揺れた。

今度は、銀時がバランスを少し崩し、土方の方へ倒れこむ。
「わり」
密着した体からは、彼特有のタバコの匂いと、どこか甘い香りがする。
そして、痴漢の手が侵入したのか、すでにスカーフといくつかのボタンが外され、
噛り付きたくなるような鎖骨が目に飛び込んでくる。

(いやいやいやいやいや)

「あんだよ?」
土方が、上気した顔のまま睨んだ。

「オ、オ、オメー、どこまで触られてんだよ?…シャツ肌蹴てんぞ?」
「あ?仕方ねぇだろ?あんな場所でいきなりベルト外されるとか誰が思うかよ」
「は?何?下も触られてたのか?」
「大方、女と間違えたんだろ?」
(んなわけあるかっ!下も上もまさぐりゃ嫌でも分るって!)
そう、反論しかけて、口を噤む。

「なんだよ?」
黙り込んだ銀時の顔を少し平静に戻ったらしい土方がのぞき込む様に見つめてきた。

(やめてぇ!その顔が、煽るんだって!)

「おい?…なんだ?テメー…溜まってんのか?」
密着したためなのだろう。
土方が銀時の身体の異変に気が付き、ぼそっと呟く。
具体的に土方が何をされたのか、見たわけでもない。
それどころか、眼つきも、口も悪い、自分とほぼ同じ体格の男の痴態を想像して
即物的な銀時の中心は頭をもたげていた。


「どうせなら、テメーが痴漢の気色悪い感触を忘れさせろよ」
「へ?」
妙に冷たい手が銀時の汗ばんでしまった手を土方と銀時の中心へと導いていった。


「なぁ…銀時?」



ごとん
電車がまた揺れた。







「うわぁぁぁぁぁ」
早朝の万事屋、ちょっとやそっとのことでは目を覚まさない筈の神楽でさえ、
飛び起きてしまうほどの叫び声が響き渡った。

「銀ちゃん!何事アルカ!?」
押入れから飛び出した神楽の視界には、布団の上で、座したまま放心状態の銀時がいた。
特に異変はない。
宇宙船がつっこんできたわけでも、五郎さん的なものが大発生したわけでもない。
「銀…ちゃん?」
「あ…わり…ちょっと、夢見悪かっただけだ」
がっくりとうなだれたまま、銀時は手をふって、なんでもないことを知らせる。

(ありえねぇ…)
ぶつぶつと文句を言いながら、貞春と寝室を出ていく神楽の背を見送りながら、
銀時はそっと布団をめくり、眉をしかめる。

(ありえねぇ…この年で、朝からとか…どこの中二ですか…コンチクショ)
確かに女とはご無沙汰だったが、こんなこと初めてだった。
昨夜、神楽が寝静まった後、長谷川に借りた、痴漢プレイもののAVのお世話になったばかりだ。

(土方の夢で…とか、ありえねぇよ)

会えば、喧嘩、意地の張り合いばかりしている土方十四郎。
チンピラじみた行動をするかと思えば、繊細な文を書いて人をフォローして見せたりする。
瞳孔開き気味の、真選組副長。

もとから、嫌いなわけではない。
むしろ、一度ゆっくり、サシで飲んでみたいと思うほどには気にいっていた。

(次からどんな顔して、あいつの顔みりゃいいんだよ…)
上気した顔、肌蹴るシャツ、湿気を帯びた黒灰色の瞳。
ぶんぶんと頭を振って、思考を振り払う努力をする。

汚してしまった、寝間着を着替えながら、銀時は重たいため息をついたのだった。




『深層下』 了

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