うれゐや

/ / / / / /

【短篇】 | ナノ

『年の瀬』





師走
クリスマスというイベントも終わり、その年の締めの季節ともなると、一気に世間は忙しなく動き始める。
勤め人は年末の休みに向けて、まとめに入るために動き始め、息抜きと称して忘年会に勤しむ。
学生達は期末テストさえ終わってしまえば、一部は天下となっていたが、一部受験生にとってはこれからの将来を決める大切な時期であり、お祭り騒ぎに乗じることもできずに、机に向かう。
家庭を守る家庭人においては、大掃除に年の暮れ明けに向けての準備に勤しまなければならない。家事というものはけして終わりなどないのだ。ましては、家族が一日中うちの中にいるようになると実はその負担は増すのだから。

御多分にもれず、ここかぶき町にも年の瀬は来る。

日本人には珍しい、銀色の髪に天然パーマというかなり目立ついでたちの男が一人、商店街を歩いている。
両手一杯に、スーパーで買いこんだらしい食料品をぶら下げ、その死んだ魚のような瞳をぼんやりと、曇天に向けながら、ゆっくりとした歩調だ。

今にも雪が降りだしそうな曇り具合だった。

彼の目的地は商店街の中心部に設置された福引会場。

大量に買い占めた食料品のお蔭でかなりの引換券をもらうことができていた。

「お、あそこか…」

今一度、荷物の持ち手を握りなおして目的地へと少しだけ歩調を早める。










「あれ?」
「お?」

さぁ狙うは3等の米1年分だと着流しの上から羽織るジャンパーの袖を捲し上げ、列の最後尾に並んだ時だった。
ふと、隣の列を見ると、見慣れた黒い制服の男が並んでいる。
人ごみの中であるから、さすがに遠慮しているのか、口元にニコチンは咥えられていない。
「なにしてんの?この税金泥棒が」
「てめーこそ何してやがんだ?福引するほど買い物できたのかよ?このニートが!」
「いやいや、ニートじゃないからね。
 よろずやさんも年末はこれでも引く手数多なのよ?
 ほら、大掃除とか大掃除とか夜逃げとか」
「掃除ばっかなうえに最後の一言は不穏なことこの上ねぇな」
ふんっと早速憎まれ口を叩く男に銀時は少しだけ口元を緩める。
「世知辛い世の中だからね〜色色あんだよ」
ま、公務員の副長さんにはわかんねぇだろうけど?と皮肉めいた口調をわざと作って言う。
「逆だ。クソ天パー。世知辛い世の中だから、俺たちの仕事が忙しくなんだろうが」
「あれ?そうなの?
 忙しい真選組の副長さんがこんなところで油売ってるくらいだから、
 暇なんだと思ってたんだけど?」
どんどんと列は捌けはじめ、徐々にガラガラとハンドルの回される音と飛び出す玉の乾いた音が近づいてくる。
「忙しくなるから、まとめて買い出しに来たんだよ」
なるほど、土方の手元には大量の業務用マヨネーズが握られていた。

そして、二人はほぼ同時に列の最前へと並び立った。

「「テメーには絶対に負けねぇ!」」

腕まくりをして二人はハンドルを握った。



ガラガラガラガラ…


勢いよく次々とくじは引かれていく。
だが、二人は全く同じように参加賞のティッシュの山を積み上げていく。
あっという間に引換券は底をついてしまった。
「仕方ねぇなあ。今回は痛み分けってことで…」
「仕方ねぇ…といいたいところだが、俺はもう一回分もってるんだな。これが」
ひらりと土方がどや顔で券を見せびらかす。
「あ〜!卑怯者!!」
「卑怯者たぁ聞き捨てならねぇな!」
「ちょっとお二人さんあとつかえてるから…」
「「あ」」
商店街の人に眉をしかめられ、二人は苦く笑う。
「じゃああと一回」
その時だ、土方の携帯がけたたましく鳴り響いた。
「ちっ!」
後ろには長蛇の列。
土方は一瞬考え、引換券を銀時に押し付けた。

「くれてやる」
そして、そのまま、通話ボタンを押して列を離れる。


呆気にとられながらも、銀時は最後の一回を回した。


カランカラン

この日初めてでた、一等賞の鐘がかぶき町商店街に鳴り響いた。



「おいっ」
少し離れたところで、隊への指示を携帯でしたいた土方を見つけ、銀時は駆け寄った。
「あんだよ?」
ぱちんとフリップを閉じて、瞳孔の開いた瞳で睨み付ける。
「あのさ…さっきの福引なんだけどよ…」
「あぁ…ここまで聞こえていたぜ?よかったじゃねぇか。
 この間のスノボといい、意外とくじ運、いや悪運いいんだな」
「悪運たぁ言ってくれるなぁ。だけどよ?これってペア券なんだわ。箱根温泉宿で過ごすお正月ご招待って」
「ふ〜ん…」
興味なさそうに土方は煙草をポケットから取出し、火を灯す。

「これって元々オメーの引換券で当たったもんじゃねぇか。だからよ…」
黒灰色の瞳の色は変わらない。
少し、銀時にも迷いがなかったわけではないが、思い切って続けた。

「一緒にいかねぇか?」
「いつだ?」
直ぐにいつも通りの罵声が降ってくるかと思っていたのだが、以外にも土方の声は穏やかに質問で帰ってくる。
「え…と、大晦日の日から元日にかけてだな」
もらったばかりのチケットを確認しながら、答える。
ツンデレ属性なうえに、ものすごく意地っ張りな恋人が素直に誘いに乗ってくることなぞ珍しいことだ。
気が変わっても困る。

「その日は警護が入ってる」
「テロじゃなくて?」
黙って、黒い髪がサラサラと縦に動く。

予告なしのテロならともかく、予定として入っているところをみると、
また、将軍か松平の警護なのだろう。
副長である、土方が休暇を取るわけにはいかないのはわかる。

「それって、年内ずっと?」
「初詣に行くつもりらしい…」
すこし、言いづらそうに答える。
一応、自分の仕事が詰まっていて、なかなか時間が取れないことを気にはしていてくれるらしいことが、素直に嬉しかった。
ならば、ごり押しするわけにはいかないだろう。

「じゃ、志村兄弟にでもやるさ」
「…悪ぃ」
小さな呟きに、銀時は更に路地裏に黒い隊服を引き込みぎゅっと抱きしめた。
少しばかり、また痩せた気がする。

「おいっ」
「大丈夫だって、誰も見ちゃいねぇし、見えたって俺の背中だけだから」
暴れかけた体が、仕方ねぇなと自分に言い訳をして、力を抜いてくれたのだった。








大晦日の夜。

新八は、相変わらずのアイドルおたくっぷりで年末から年始にかけてのカウントダウンライブに行ってしまうらしく、結局のところ、チケットは神楽とお妙の女二人で使うことになった。

ぼんやりと万事屋に残された銀時は一人、今年最後のジャンプを読むともなしに眺めながら、ぼんやりと過ごす。

久しぶりに、静かだ。

今晩はお登勢もキャサリンと共に外に出かけているらしい。
新八たちがやってくる前は、こんなにも静かだっただろうかと今となっては思い出せもしない。
それほど、バタバタと賑やかに過ごしている。

音が欲しいと、テレビを付けてみると、除夜の鐘に合わせて、神社へ詣でようとする人々の群れが映し出されていた。

きっと、あの中に眉間に皺を定着させて鬼の副長は声を張り上げているのかもしれない。

真っ直ぐな真っ直ぐな魂の持ち主は、今日も身を粉にして唯一の大将の元で走り続けるのだろう。

その走る様が好きだけれども…
銀時はため息を知らず知らずに零す。

昨日、かき抱いた身体は本来のベスト体重からは程遠くなっていたことが気になっている。

ほんの2、3週間肌を合わせていない間に軽く3キロは減っているのではないだろうか。

一度考え始めると、沈み込んだままになりそうな思考の海から銀時は無理やり浮上する。

浮上するとともに、こたつから立ち上がった。


万事屋を出ると、既に雪が降り始めていた。
降り始めの雪は、とても滑りやすい。
バイクのイグニッションを回しながら、銀時は慎重に走行を始めた。


バイクはゆっくりとかぶき町を抜け、おそらく土方がいるであろうと予測を付けた神社へと向かう。

様子を見るくらい許されるだろう。
そんなことを考えて、この寒空を走る自分を数年前の自分がみたら、どう思うだろうか。
そんな、他愛もないことが一番幸せなのかもしれない。

(柄でもねぇな)

バイクを駐輪場に停め、境内へ向かった。
人ごみをかき分けながら、あまりの多さに辟易としつつ、黒い男を探す。
ちらほらと平隊士隊服をみることができるから、この神社で間違ってはいないはずだ。

指揮官である土方は全体を見渡せていち早く支持を下せる場所にいるはずだ。

なんとか、本殿の方へ強引に進んだところで、社務所の裏に黒い背中を見つけて、忍び寄る。

土方は、社務所の陰で、ようやくの休憩なのかコーヒーを飲みながら、一服しているところだった。

「よっ」
気配を消して、ギリギリまで近づいてから声をかける。
バッと音を立てて、振り返りながら、既に抜刀の体勢。
予想範囲内行動だから、先に刀の柄へ手を伸ばし制してはいた。
「腐れ天パ!こんなところで何してやがる!」
咄嗟に投げ捨てられたコーヒーの缶が玉砂利の上をカラカラと転がった。

「ん〜銀さんだって初詣くらいするよ?」
「嘘つきやがれ」
「なに?土方君は「土方に会いに来たにきまってる」って言って欲しかったの?」
「ばっ!!」
力いっぱい否定するために振り上げた拳を軽く受け流し、逆に反対の腕をとらえた。
篝火が焚かれているとはいえ、辺りは薄暗い。
ずっと至近距離によって、土方の顔を覗き込んだ。

「オメーさぁ」
「あぁ?」
標準装備の眉間の皺に加え、やはり、真っ黒い隈が目の下に張り付いている。
ぼりぼりと天然パーマをかき混ぜながら、土方のポケットに手を差し込み携帯電話を取り上げた。

予想通り、というか、ムカつくことというか携帯電話の短縮のトップは、限りなく人間に近いゴリラのもので。
「なんだよ?」
銀時の機嫌が斜めになったことに、気配で気が付いて土方が取り返そうと、身体を捩る。

「ちょいと借りるから」
表示した近藤の携帯へコールをする。

「あ、ゴリラ?え?あぁ何で副長さんの携帯に俺が出るって?いやさぁ、初詣に来てたんだけど物陰で倒れてる土方見つけちゃってさぁ」
「はぁ?んぐっ」
突然の話に土方が素っ頓狂は声をあげかけたので当身を喰らわせて黙らせる。

「あ?お妙?一緒じゃねぇよ?箱根に神楽と温泉!
 そう!中止して戻ってきてるわけじゃねぇって!
 だから偶にはオメーが仕事しろや!土方俺が運んでやっから!」
通話音量がそれほど大きいわけではないはずなのに、近藤の大きな地声は少し受話器を離して聞かないと耳が痛くなりそうだ。
苦笑しながら、気を失った土方をちらりと見る。
気を失ったというよりも、落ちたという感じが強い。

「おう!報酬は後でいいからよ!うちで預かっとく。
 明日非番ってことにしていいんだよな?」
基本的に人の好い真選組の局長は、快く承諾の回答を返してくれる。
ぱちんと携帯を閉じ、黒い塊を背負いなおす。
自分と変わらない体格の男を抱えるのは一苦労だったが、不思議と苦にはならない。

「こんなになるまで働いてんじゃねぇよ」
すぅすぅと眠っている土方にはきっと聞こえないだろう。
聞こえなくても良い。


「ちっとでも今のうちに休んどけよ?」
目が覚めた時の土方の反応が目に浮かぶ。
きっと、怒り狂ってパンチの一つや二つ飛んでくるだろう。
(そうはさせないけどね)

にやりとほくそ笑みながら予定外に手に入った二人だけの年越しをどう楽しもうかと算段しながら、他の隊士に見つからないように、そっと人ごみをかき分け、来た道を戻ったのだった。







(おまけてきな…)


元旦に…





ぽちゃん…
水音がする。

ぽちゃん…
暖かい。
熱くもなく、かといって温くもなく
暖かい。
そして、
気持ちがいい…
身体はぬるま湯にゆらゆらと弛み
それでいて、中心は充たされている熱い。

ぽちゃん…
まるで、あの男に抱かれているかのように…

ぽちゃん…
落ちる水の音に、土方がぼんやりと瞬きをした。



(眩しい…)
「あ?起きた?」
声は意外にもすぐ近くで聞こえてきた。

「あ…?銀時?」
自分が額をのせていたのは、見覚えのあるしなやかな筋肉がついた肩だった。

「え?」
土方は一気に覚醒する。

場所は万事屋の風呂場。
更にいうならば、湯舟に入っているのは土方一人ではない。
土方が座しているのは、恋仲である坂田銀時の膝の上だった。

「ずいぶんお疲れだったな」
へらへらと銀時は濡れて少し大人しくなった天然パーマをかきあげながら、笑った。

「な…」
確か自分は将軍警護のために、神社にいたはずだ。
そこにこの男がやってきて、携帯を取られ…
記憶はそこで途切れている。

「近藤さ…ぅ!…ぁ?」
坂田が動いた途端、身体の中心に甘い刺激が走り、声が漏れる。

「こんな状況で他の男の名前呼ばないでくれる?」
「ちょっちょっと!待てぇ!」

夢の中の出来事ではなかった。
しっかりと繋がれた下肢に慌てて身を浮かせようとしたが、腰を掴まれ、引き落とされる。更に深く内部へと銀時を導いてしまって呻いた。
湯の中で拡げられた秘部は痛みを感じることなく、すでに快感のみを脳に伝えてくる。

「ぅ…なんで…」
みっともない喘ぎ声を必死で押さえようとするが、緩やかながら、
それでいて、確実に土方の感じる部分を狙ったように擦り付けれられ、
問い掛けさえまともに続けられない。

「あんまりお疲れだったから、ゴリラに言って休みにしてもらってさ…」
説明しながら、今度は手遊びするように胸の飾りをこね回す。

「身体、すっかり冷えちゃってたから、風呂で暖めようと…」
「ん…百歩…譲ったとして…これ…」
「いや、だってさ。除夜の鐘鳴ってたし、
 秘めはじめじゃね?据え膳じゃね?みたいな」
「…人のこと気遣う…のは、ふりだけかよ」
すでに鐘の音が聞こえないということは、年は越したということだろうか。

「いやいや、この状態になる時だって意識ないくせにオメー、
 ノリノリだったからね?無意識べったり甘えん坊モードだったからね?」
もう銀さんの銀さん、ばーんだからね?と妙に男臭い顔で笑う。

「そんなわけ…」
言葉は銀時の唇で塞がれる。

「も、黙れよ」
吐息の間でそう呟き、緩慢だった動きが徐々に速度を上げ始める。
成人男性、しかも決して小柄だとは言えない男が二人で動くものだから、湯はざぶざぶと音を立てて、零れ落ち、それと同時に土方の口からも掠れた声が絶え間なく洩れていく。
そして、一気に二人で駆け登った。

「あけましておめでとう」

急上昇するお互いの体温と浴室内の湿度に意識をもっていかれそうになりながら、
それでも土方は強気に新年の挨拶を口にしながら、笑った。





(了)

2011年年末。
某ブログ内にて企画しました無配コピー本より。
おまけ部分は18才以上の確認ができているお嬢様のみミニ冊子でお届けしたものでした。
(8/85)
前へ* 短篇目次 #次へ
栞を挟む

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -