02/17(Mon):SSS『バレンタインデー』(ぱっつち) 2月13日木曜日 曇りのち雪 決戦は金曜日なんて歌があったが今時のコにも通じるのだろうか、と よく自分でもよくわからない心配をしながらそわそわした気持ちで坂田銀八は この数日過ごしていた。 明日は2月14日。 所謂バレンタインデー。 校則が厳しいとは、とても言えそうにない銀魂高等学校であるから、 チョコレート禁止なんて野暮なことは言わない。 生徒達も浮き足立ち、 明日はいくつもらえるのか。 明日はいくつ用意するのか。 あすは、あすは、あすは。 義理でいい。 本当に欲しいのはたった一人の男子生徒からのチョコ。 貰えるはずもないのに、気持ちだけはそわそわと。 いい歳をして何やってるんだか。 救いようのない恋情は受け入れられるはずもないこと知りつつ、 それでも、クラス1、いや学校1のモテ男でもある彼に、 「先生におこぼれでいいから一つ頂戴」 冗談めかして言うのが精いっぱい。 2月14日金曜日 大雪 高校生活最後のバレンタインデー。 去年まで女子からいくら渡されても甘い物があまり得意とは言えない土方は断り続けていた。 それでも、靴箱や机にいつの間にか積み重なるチョコレートの山に迷惑という感情しか湧いてこなかったというのに。 今年は少々事情が違った。 自分のことを知らず、碌に話したことのない人間に、見た目だけで寄ってくる女子も確かにいたかもしれない。 それでも、山のような糖分の中にも、今の土方のような心境でそっと置いていくものもいたのではないか。 そう思えるようになったのは、土方自身が気持ちが伝わらなくても、 いや、それどころか、チョコの送り主が土方だと知られなくてもいいから渡したいと思う相手が出来たから。 今までごめんな。 土方の為に選んで、贈ってくれた少女たちに心の中で詫びを告げる、 土方が渡したい相手は同性の、しかも3年Z組の担任である坂田銀八。 だから、気軽にクラスの女子のように渡すわけにはいかない。 ドン引きされるのは分りきっていた。 では、いつ渡そう。 いや、いつ置いてこよう。 やはり国語科準備室にこっそりだろうか。 提出物を持っていくふりをして職員室の机の上だろうか。 靴箱はなんだか臭い、そんなイメージがあるから抵抗がある。 そんなことを悩みながら、どうしようもなく高鳴る胸を無理やり押さえつけて、 寝不足もあり、凶悪と呼べるような顔になりながら本日を迎えていたのある。 だが、しかし、だ。 昨晩から冷やしに冷やされた空気は雪を呼んだ。 それも大量。 朝も多少の公共交通機関にダイヤの乱れがあったが、夕方にかけて、さらに酷くなるという。 突然耳に入ってくる「休校」の二文字。 土方に残された時間は一気に減ってしまった。 帰宅に関しての注意事項がHRで話されている間も話しは全く頭に入らない。 部活も居残りも全て禁止。 一斉に校舎から全生徒が追い出される。 なら、どうするのか。 もう迷っている暇はなかった。 かといって、諦める、という選択肢もこの数日思いつめていた土方にはなかった。 「はーい。寄り道しねぇでさっさと帰ってくださいよー。 あー、はしゃいでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲とかつくんなよー。 早く帰れて羨ましいとか、そんなんじゃないからな。コレ」 だらだらとした口調に教師も帰らせろってんだなどと悪態を織り込みながら、 教室からクラス全員が出ていく様子を出入り口で見守る担任の脇を一度は通り抜ける。 通り抜けて、一度昇降口まで辿り着いてから、土方は徐に振り返った。 「トシ?」 「忘れ物!すぐ戻る!」 幼馴染にそれだけ告げ、Z組まで駆け戻った。 丁度己も職員室に戻ろうとするところだったのか、国語担当には似つかわしくない白衣の背中が廊下に見えた。 その背にポケットに朝から忍ばせたチョコの箱を投げた。 ショコラ色に臙脂のリボンのかかった箱は緩やかなカーブを描き、銀色の跳ねた頭にぽさりとぶつかって、 そして、こつんと床に落ちる。 「なっ?」 落ちるか落ちないか。 そのタイミングで土方は再び昇降口に走り出していた。 そして、もう振り返らない。 「へ?…チョコ?」 逆に振り返った坂田の視線に入ったのは床に転がったチョコ。 それから、 廊下の角を曲がるほんの一瞬見えた長い手足と黒い髪。 「ひじ…かた?」 チョコレートの箱を拾い上げることもできず、教師はしんしんと冷気の這い上がる廊下にしばし立ち尽くしたのだ。 Happy Valentine!!!! &お粗末さまでした。 prev|TOP|next |