うれゐや

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04/17(Sun):SSS『2016/04/15』(ホスト金時)




「え?金さん?どうしたんです?」

ホスト『club・Yorozuya』のマネージャー・志村新八は開店前の店内で思いもかけない男の姿を見つけ、驚いた。
昨晩、マグニチュード6を超える地震が一帯を襲っていた。
公共交通機関の機能がほとんど停止している今晩の営業は難しいと所属のホスト達には早々に連絡済みだ。

新八は、店の状態が気になって確認に出てきただけなのだ。
なのに、高価な酒やバカラが無残な姿で床にまき散らされている店内で、普段であればこんな早い時間帯には絶対に起きないであろうナンバー1がいるのだ。
しかも、どう見ても片付けをしているとなれば、驚かないわけはない。

「見てわかんねぇの?備品の確認。
 グラスの被害は思ったよりも少なねぇみたいだけど、早急に発注しねぇとなぁ…最悪、今日は紙コップで我慢してもらうか…」
「ちょっとちょっと!今晩は臨時休業って…」

無事であった瓶やグラスをカウンターに並べ、腕組みをして唸る男の格好はいつものスーツではなく、洗いざらしのコットンシャツにダメージジーンズ、足元はエンジニアブーツというラフな上に、ご丁寧に軍手までしている。
明らかに作業をするための格好である。

「はぁ?何、勝手なこと言ってくれちゃってんの?店は開けるぜ」
「でも、こんな日に…」

まだ余震が続いている中、誰が来るというのか。
こんな日は仕事で家を一旦は出ていようと、誰もが早々に帰宅するに決まっている。
そう思い込んでいたのだが、金時は違っていたようだった。

「バッカ。こんな日だから、開けるんじゃねぇか。
 だれも来なかったら、それはそれでいい。
 でも、万が一、こんな気の沈む日にここを選んで来てくれた人間を 真っ暗で追い返すなんざ俺ぁ、嫌だね」
「金さん…」

死んだ魚のような目にも見えかねない金時の目が細められた。

「…全ホストにもう一回一斉メール出します」
「そうしてくれ」

やる気のない態を装ってはいても、金時という男はホストという職業に誇りを持っている。
彼が開けるとこれだけきっぱりと言い切るならば、従う他はない。
にやりと笑うと金時は花瓶を起こし、散乱した薔薇の花を丁寧に選別しながら生け始めた。
その背がすべてを語っていた。
自分の出来ることをするだけだと。

新八は重くも、納得のため息を一つ付き、スマートフォンの画面を開きつつ、酷い有様の店の体裁を支給整えるべく、算段を始めたのだった。








一刻でも早く穏やかな日々が戻りますように…。




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