うれゐや

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試 | ナノ

10/23(Fri):SSS『rule』(金土)




女性とは嫋やかで、しなやかで美しいもの。
全ての女性は護るべき対象。
坂田金時は、その為に日々努力している。

容姿も気性も、貴賤なく、分け隔てなく愛している。

女性とは愛らしく、豊潤で、強かなもの。
全ての女性は愛すべき対象。
坂田金時はそう信じている。

信じているがゆえに、例外はいない。
いなかった。
ただし、過去形。



金時の特別になりたいと寄ってくる女性は昔から後を絶ちはしなかったが、誰も選べなかった。

愛してはいるけれど、愛していない。
愛していないけれど、愛している。

彼女たちの熱と自分の熱は違う。

金時の唯一になろうと踏みこもうとした女性たちは、いつまで経っても返ってこない同じ種類の熱量をいつか諦め、悟り、静かに去っていく。

金時にとって、普遍であり、日常であった。
で、あるから、ホストという職業は金時に最も向いた職業の一つであると自覚している。

ホストクラブにくる女性たちは理想の男性としての金時を求めるが、結局のところ、夢の中の王子だと知っている。
知っていて、通ってくれる。
それ以上でもそれ以下でもない。
ある意味、心地のよい距離。

「金ちゃん、ねぇ聞いてー」

甘えた声で零す愚痴を聞いて、共感し、頑張ったね、すごいねと褒めて、認めて、存在価値を肯定する。

もっと、愛されるべき存在だと。
甘い甘いカクテルと囁きで「落とす」のではなく、「癒す」のが仕事。
花の手入れにも似た仕事。

カクテルを手渡した金時の袖口に気が付いた客が身を乗り出してきた。

「金ちゃん、そのカフリンクス可愛いね。何処のブランド?」
「んー?ブランド品じゃなくて、頂きものだからわかんないんだ。ごめんね」

指先でジャケットの袖から見えやすいように傾けて、表面をするりと撫でる。
ブラックベースにクリスタルをはめ込んだカフリンクスは一見シンプルだが、店内の照明を受けて反射して、円型なのに、どこか鋭利な刃物を思わせる。

「そっかー、こんな感じのピアス欲しいって思ったんだけど」

頂きもの、というよりも強奪品。
例外からの。
現在進行形からの。

女性とは真逆な存在。
物騒で、豪胆で、直情的。
護るべき対象では決してない。

凛として、刃のようで、意地っ張り。
愛されやすい性質ではない。

坂田金時が愛してきた『女性』ですらない。
カフスと同じ真っ黒い髪とクリスタルのような光沢を持つ男。

「機会があったら聞いておくね」

にっこりと笑う。
客が頬を染めて、それ以上は聞いてはこないことに心の中だけで息をつく。
女性をがっかりさせることは本意ではないが、思い描く男をあまり人目に晒したくない。

そして、一度意識してしまえば、無性に声が聞きたくなった。
閉店まであと1時間。

電話をかけるか、押しかけるか。
あるいは両方か。

金時らしくない衝動だ。
女性相手なら、否、他の人間であれば、考えすらしないだろう。
そんな相手の迷惑を考えない予定など。

土方だからこそ。

金時は、速やかに計画に移れるように、女性の望む理想通りの笑みを浮かべたのだ。





1時間の壁。
お粗末様でしたm(__)m


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