うれゐや

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07/28(Sun):SSS『短夜-みじかよ-』(白夜叉×デコ方副長)




誰かに呼ばれた気がして銀時は眼を覚ました。

真夏ほどではないが、室内の気温はそれなりに高くなっていた。

じんわりとかいた汗を寝間着の袖で拭って、風が微かに入る格子窓に目をやる。
眠りにつく直前まで締め切られていた窓は、おそらく横で眠る男が身体を清めた後にでも開け放ったのだろう。

視線を布団に戻せば、規則正しい呼吸と背があった。

手を伸ばしかけ、そして止める。

本来、白夜叉という大層な通り名を付けられた自分と、真選組の鬼の副長が狭い布団を共有し、あまつさえ、眠りにつく直前まで睦み合っていたなどあってはならないことだ。

それでも彼はここに居て、
それでも自分は離れることが出来ない。

ざわわと梢が音を立て、少しばかり涼やかな風を寝間に運ぶ。
風が雲を打ち払ったのか、月光が照度をあげ、黒髪と白い肌のコントラストを際立たせた。

「寝つけねぇのか…?」

振り返らないまま静かに声がかかる。

その掠れた声に勇気づけられるように指先だけで髪に触れた。
そうして一つ息を吐けば瞬間だけ身体のうちに溜まった熱が引いた気がする。

そろりと男の身体が動き、顔が銀時の方へと向けられた。
動きと重力に合わせ、髪は動き、指に触れていた髪の質量も増す。

己のものとは色も質感も異なるそれが整髪剤を落とした今は額を隠していた。
中央部分だけやや長い前髪の間から青灰色の瞳が真っ直ぐに銀時を見上げている。

額が見えないというだけでやけに幼く見える顔つきに銀時の心臓がひとつ大きく脈打った。

「…白夜叉?」

彼は銀時のことを名前で呼ばない。
そのことが酷い渇きを認識させる。

「なんでもねぇよ…」

なんでもねぇと心の中でもう一度呟いて、指で前髪をかきあげてやる。
白い額が普段通り現れ、少し汗ばんで湿っているためか大人しくその場所で落ち着いてくれた。

「明け六つには戻らねぇとならねぇんだ。ちっとは眠っとけ」

まだ物言いたげな表情をしてはいたが、それ以上男は何も言わず睫毛を落とし、銀時もまた身を横たえる。

再び、どこかで、誰かに呼んだ気がしたが、ゆるりと首を振り否定する。
自分はその呼び名で呼ばれる人間ではないと。




ざわわと風がまた大きく音を立て、部屋に影が落ちた。









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