05/08(Fri):SSS『弁護士のお仕事(仮)』弁護士×弁護士 「意義あり」 銀色の髪をスタイリング剤で寝かせつける努力はしているが、やはり跳ね返ってしまう天然パーマ。 ワインレッドのスーツに何処で売っているのかと首を傾げてしまう派手なネクタイ。 胡散臭さに拍車をかける効果を狙っているとしか思えない赤いプラスチックフレーム。 そんな格好をした男の言葉に、数冊のファイルを見比べていたもう一人の男が顔を上げた。 「意義は却下する。坂田弁護士」 前者とは対照的な色合いの男だ。 黒の少し光沢のある生地に細いストライプをひっそりと忍ばせたスーツ。 真っ直ぐな黒い前髪を上げて、額を見せたスタイル。 細いメタルフレームの奥から、じっと相手を見据える青みがかった瞳。 「これは明らかに不当な出勤要請です!」 「不当、だぁ?」 「不当でしょうが!なんで俺だけGWも仕事しなけりゃなんねーの!」 銀色の天然パーマの男・坂田銀時は松平法律事務所に所属するれっきとした弁護士である。 死んだ魚のような目をして、普段はやる気のない塊のような態度をしているが、一旦法廷に立てば、百戦錬磨の検事も、弁護士もたちどころに論破してしまうと評判の若手ホープだ。 「そりゃ、てめェが元々2件案件持ってるくせに、さーらーに俺に承諾得ねぇで、面倒臭ぇ、しかも、金にならねぇ仕事拾ってくっからだろうが! 不当不当言うなら、残りは全部自分で資料探しやがれ!」 「そ、そこは感謝してます!なんだかんだ言って、結局手伝ってくれる土方副所長さまに、ほんっと、感謝してますけど!でも!」 一方、坂田よりもやや年上の男・土方十四郎は同じ事務所の副所長だ。 副所長とはいえ、実際にこの事務所を運営しているのは彼だと言っても過言ではない。 所長である近藤勲も歴戦の勇者ではあるが、経営には向かぬ性格、所謂、人情派であり、名誉顧問としてトップに座る松平は大きな問題が起こらない限り、出てはこない。 クライアントとの交渉、弁護士の割り振り、その他、細々したことまでを20代の後半から一手に引き受けつつ、自らも法廷に立つ。 そんな彼を鬼の副所長と呼ぶ者も少なくはない。 「俺だって、普段ならこんなこと言いませんって!ただ…」 「ただ、なんだ?」 珍しく言いよどむ坂田に土方は目を眇めた。 要領がよいのか、悪いのか、やれば出来るくせになかなか腰をあげずに出廷日ギリギリまで用意が出来ていないことも多々ある坂田だが、最終的に自分が取ってきた仕事には責任を持つ男だ。 確かに、そんな彼が残り期限の少ない案件を放置して、暦通り本気で休みたいと主張することには土方自身も奇妙だと感じていたのだ。 聞く用意があると、土方は眼鏡を外し、デスクに置いて改めて坂田を見る。 「5日は仕事じゃなくてプライベートでお会いしたいなぁ、なんて思いまして…」 「5日?」 「土方さんの誕生日、ですよね?」 しばし、土方は意味を捕え兼ねて、カレンダーを見つめた。 5月の連休。 後半の5月5日、こどもの日。 そして、土方本人が生まれ落ちた日であることにようやく思い至る。 すっかり忘れていた自分の誕生日と人の人生を左右する目の前の資料。 そして、次の公判に使えそうな事例はまだ見つかっていないとなれば、選択肢はない。 「………休みには出来ねぇ」 「ですよねぇ…」 「が、早く資料が揃えば別だ」 「土方さ…ぶっ」 喜色を浮かべて近づけた坂田の顔を土方は手に持った分厚いファイルで押し退けた。 「使えねぇ奴に用はねぇ」 「へいへい。坂田弁護士、土方さんの為に勝訴取ってきまーす」 「わかりゃぃ…っ!」 うちゅっと音が立ち、ファイルを持つ土方の手の甲に吐息と熱が乗った。 「ドサクサに紛れて、てめっ!」 「はいはーい!お仕事しまーす」 もっと、スゴイことしてる仲なのに。 直ぐに離れていった唇が紡いだ音にさらに顔に血が上る。 頭の後ろで腕を組んで自分のパソコンの元へ戻る男の後ろ頭に六法全書を投げつけようかと思って、土方は思い留まった。 「後で覚えてやがれ」 さて、どうしてくれよう。 先ほどから、資料の中から土方の感性にひっかかった写真と依頼人の人物像。 そして、判例を照らし合わせながらも、仕事の後のことも同時に思い描く。 プライベートで、年下の敏腕弁護士相手に口で勝てる気は土方にはしない。 ならば…。 いざという時は煌めく男の跳ねた頭をちらりと見て、土方は小さく笑ったのだ。 おしまい。 大遅刻、な上に、突発の誕生日SSでありました。 いや、年下な坂田弁護士ってどうかな…と… お粗末様でした! prev|TOP|next |