うれゐや

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11/22(Sat):SSS『テスト明け(仮題)』ぱっつち




『テスト期間が終わり久々に充電し合えるぱっつち』


中間テストが終わった。

土方十四郎は伸びを大きくして、強張った体をほぐすと急いで帰り支度を始める。

高校三年の二学期の中間テストともなれば、それなりに皆が神経を尖らせて取り組むものだ。
歴代きっての問題児のあつまりだといわれる3年Z組でも、進学をするものにとっては大切なテストだった。
土方自身今回は真面目にテスト勉強に取り組んだお陰で、自己採点では好成績を収めることができそうだと内心ほっとしていた。

「あれ?トシ、帰りは部の方に顔出していかねぇのか?」
帰り支度を見止めた近藤が不思議そうに机の横に立った。
「あ、あぁ。悪ぃ…今日はちょっと、寄るところがあって…」
「珍しいな。トシのことだ。テスト明けだから気分転換に竹刀握りに行くかと思ってたんだけど」
テスト中は部活動は全面禁止だ。
土方たち現三年は夏に引退したものの、後輩の指導を兼ねて道場に顔をよく出す。
今までであれば、確かに己の気分転換と鍛錬の意味を兼ねて竹刀を振るいに向かっていたであろう。
けれども、今日は違っていた。

「放っておきなせぇ、近藤さん。俺らだけで帰りにラーメンでもくって帰りやしょう。土方のツケで」
「総悟!何こっそり人に奢らせようとしてんだ!ゴラァ!大体ラーメン屋でツケきくかっつうの!」
「大丈夫でさぁ。あそこの店は剣道部のたまり場ですからねぇ。おばちゃん、融通ききます。安心してください」
「安心できるか!」
チラリと時計を見れば、時計は秒針を休むことなく動かし続ける。
待ち合わせしているわけではないが、それでも土方は焦る心を抑えきれなかった。
舌打ち一つ落として立ち上がる。

「もう俺は行くけど!ぜってぇ奢らねぇからな!」
背後でえーと緩い抗議の声が上がったが、構わず土方は鞄を掴んで教室を出た。

出て、扉を占めるとゆっくりと深呼吸する。
寄るところ、と近藤達にはいったが、実際に土方が向かう先は校外ではない。
一端、下足室に向かい、土方を弄ることに関しての労力を惜しむことのない沖田が後をつけていないか確認してから、踵を返した。



階段を二歩飛ばしで駆け上がりたい衝動を抑え込み、それでも小走りになってしまいながら目的の場所を目指す。
同じ校舎の一角、教室棟の端の端にある国語科準備室。

待っていてくれるだろうか。
この高校の国語科教師は。

木製の扉の前にたどり着き、土方はまた深呼吸して息を整えた。

「うーい」

こんこんと形式的なノックに緩い声が返事をかえした。

息は整っても、どくどくと脈打つ心臓は落ち着いてはいない。
急いできたためではなかったから、こればかりはどうしようもない。

「先生」

国語科準備室の主にして、土方の担任である坂田銀八その人に。
久々に、恋人に二人きりで会うからに他ならない。

「いらっしゃい」

カラリと開けた扉の向こう。
ほこりが光を受けて舞うような紙ばかりの部屋でマグカップを二つ持った銀八が立っていた。

「先生…」

後ろ手で扉を占める。

普段、本当に教職につく人間かと疑う様な発言と、態度をしている教師ではあるが、その実、己の決めたラインは絶対に崩さないということを土方は付き合い始めて、知った。
土方が卒業するまでは一線を越えないと宣言し、抱擁と軽い唇を合わせる程度の接触しかしたことがない。
けれども、それさえもこの1週間、許されなかった。

テスト期間は他の生徒と同じように準備室にも、職員室にも、まして自宅への訪問も禁じられた。
メールも電話も緊急でない限り、返事を返されないと言い渡されていた。
 
恋愛経験が多いとは決していえない土方にとって、勉強の大変さ以上に、不安と寂しさを痛感する日々だったのだ。


教室で、担任としてではない銀八に会いたいと準備室までやって来たものの、一歩入ったところで進んでよいのか、迷い足が竦む。
それを察したのか、銀八はことりとマグカップがテーブルに置いた。
思わずそちらに目を移したのは思っていたよりも音が軽かったからだ。
案の定カップには湯が注がれていなかった。
一つの底はインスタントコーヒーの粉のみのもの、一つの底はコーヒーが見えないほど粉末のクリームと砂糖がたっぷり入ったもの。

土方用と銀八用。

待っていてくれたのだと、きゅっと甘く痛んだ胸に下唇を噛む。

「土方」

大きなチョークでかさついた手が銀八の方から伸ばされ、今度は迷いなく足を踏み出すことが出来た。

不安はこれから入れてもらう湯気でじんわりと溶けていくだろう。




お読みくださり有難うございましたm(__)m




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