うれゐや

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05/23(Fri):SSS『こいぶみ』(ぱっつち5/23)




5月23日 こいぶみの日でぱっつち。


ノートに数文字、書いては消し、また書いては消す。
そんな作業を繰り返している一番後ろの席に座る生徒を、眼鏡の生徒に教科書を読み上げさせながら銀八は観察する。
見られていることに気が付いていない生徒は、ばたりとノートの上に顔を一度伏せ、そのままの姿勢から窓の外へ視線を動かした。

昨日までの雨雲はすでになく、今年も暑くなるのだろうなと簡単に予測できる青空が広がっている。
しばし、外をながめた後、生徒の顔は正面を、銀八の方を向いた。
彼は自分と教師の視線がぶつかったことに酷く驚き、慌てた様子で乱暴にノートに消しゴムをかけてしまった。

銀八は気になった。
明らかに授業の内容を書き写していたわけではないことは間違いない。
生徒が退屈な授業中に落書きして時間を潰すことは珍しいことではなし、別段咎めることは普段しない。
寝ていないだけ、マシというものだからだ。
だが、彼、土方十四郎という少年のしていることだからこそ、銀八は気になった。

「ハイ、そこまで。じゃあ、こっからは俺が読むからなー、しっかり聞いとけよ。テストに出るかもしんねぇからな」
教科書を引き継いで読み始める。
読みながら、ゆったりと席と席の間を歩く。
何気ない風を装いながら。
わざと廊下側から一列目、二列目…順に回り、ゆっくりと目標に近づいた。
近づき、教師は速度を落とす。
彼のノートは真っ白だった。
真っ白ではあったが、そこに何が書かれていたか、わかってしまった。

頬にくっきりとノートに書いていたであろう文字が転写されていたのだ。
ひっくりかえった自分の名前。

思わぬ「恋文」を消すのはもったいない。
けれども、それを他の人間に見せるのも癪だ。

瞼の裏に永遠保存してから、教師はとんとんと指先で机を叩く。
びくりと身を硬くした後、少年が教師を仰ぎ見た。

教科書を読み続けながら、教室を見渡す。
皆、前を向いていた。

それを確認してからチョークの粉で汚れた指で、少年の頬を擦る。

鉛筆の黒鉛が、炭酸カルシウムの白い粉で塗り替えられる。
それが返事、とばかりに教師は少年に目だけで笑って見せたのだ。





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