珈琲の香りとテーブルに何かを置く音がおれを夢から引っ張り出してきた。カーテンの隙間から漏れる白い光が朝を告げる。
リビングに行くとテレビを見ながら珈琲を飲む彼女の姿。声をかけると少し目を開き、早かったねと微笑む。久しぶりの休みで、ゆっくりと寝てしまうのも良かったかもしれない。だけど、彼女の優しい笑みを見れただけでも早起きして良かったと思う。彼女は早く起きてしまって残念だねと笑う。一体何年一緒にいるんだ、少しは自惚れてもいいのに。彼女の謙虚さ(悪く言えば卑屈さ)はちっとも変わらない。

珈琲とトーストとサラダとフルーツが前に並ぶ。
いただきます。今日も美味しい。ゆっくりと温かい時間が流れて、これが幸せなんだろうかと、ぼんやりと感じて。
今日は何をして過ごそうか。彼女も決めてなかったらしい。おれに疲れが溜まってるんじゃないかと心配しているみたいだが、一緒に過ごせるだけで、おれは疲れなんて忘れてしまうのに。それに彼女も昨日まで仕事をしていたはずだからお互い様だ。

お昼に出かけることになった。柔軟剤とシャンプーを買いに。その辺のスーパーでひとりでパパッと終わらせられる買い物をふたりで。ついでに夕飯の買い物もしよう。同じ香りのセーターに袖を通して、同じ香りの寝癖を整えて。

危ないなあと心配されながら作った夕飯もとても美味しかった。彼女に会うまで少し苦手だったものも食べられるようになった。おれが洗い物をしている間に彼女は浴槽を洗ってお風呂の準備をする。ゆったりと、肩を並べてソファーで、テレビを見て。ゆるゆると船を漕ぐ彼女に声をかけてお風呂へと促す。

あっという間に一日が終わる。多分あっという間に朝が来る。おれと彼女はまた仕事へと向かわなければならない。また、あっという間に一緒の休みが来ればいい。

相談があると言った。彼女の眉毛はみるみるハの字になっていく。おれが相談なんて滅多にないからとても心配しているのだろう。

会ってほしい人がいるんだ。おれの大切な家族に。おれを、家族にしてくれた大切な人達に。眉毛は直らないまま、だけどじわじわと目に涙をためる彼女がどうしようもなく愛しい。抱きしめても泣いている彼女の背中や頭を撫でながら、ああ、一緒にいたいなあと思う。滋さんや塔子さんがくれた幸せを彼女にもたくさんあげたい。今までもらっているだろうけど、おれがあげたいと思う。

もう寝よう、明日も早いから。また明日も、よろしく。



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